公園
あのチクワおいしかった。熱くて、ぷりぷりして、風が冷たくて。いつ? 鍾乳洞遠足のときだ。いつ? バス停の前に屋台があった、十一月か、一月? 真冬は鍾乳洞は営業していないし焼きチクワを食べた覚えがない。だったらどこだよ。公園とか。甘栗を買った公園? チクワは公園だ。甘栗はおぼえている。甘栗は好きだ、道で売ってるといいにおいがするから。においだけは香ばしい。においだけでいい。甘栗好きじゃなかった? あまり。なぜ。くちの中がボロっとするから。そこが好きだ。ボロッとして殻が散らばって割れないときもある。甘栗も落花生も割るのに失敗するとボロボロになる。「鬼は外の日」に落花生を撒いてたのを目撃したぞ。オニワソトの日ね。「福は内の日」でもいい。フクワウチの日ね。節分に落花生を撒くのは楽しいが、食べるのは楽しくない。殻が半分だけ割れて、のこり半分を割ろうとすると粉々になるのがけしからん。そんな理由、小学生か。成長した人間は落花生をきれいに割る能力くらい持っているはずだ。手先の器用さを要求される食べ物、カニの爪のような連中はきらいだ。なんとなくぜいたくなやつだな。質素で清らかな人格なので。殻をとるのが面倒だからカニがきらいなんて発想はぜいたくだ。カニは存在自体がぜいたくだ。そして熱くてぷりぷりのチクワは公園だ。いつの公園。十一月の、東北物産展に炭火の屋台があったはずだ。熱くてぷりぷり。チクワってそもそも何なのだろう。何とは何。どういう物体なのアレ。チクワは白身魚と卵白とデンプンでできていて、煮てよし焼いてよし、熱くてぷりぷりするとうまい物体。本当に公園だったのかな。熱くてぷりぷり。鍾乳洞じゃなかったのかもしれない。熱くてぷりぷり。たしかにバス停の近くだったはずだ。熱くてぷりぷり。ほかの屋台めしと勘ちがいしているよ。おでん。アメリカンドッグ。クレープ。おぼえているのは、公園の門の外の道の屋台で誰かが大根にカラシをつけすぎてむせていたこと。おでんも熱くてぷりぷりしている。おでんのチクワは味がしみておいしい。熱くてぷりぷり。鍾乳洞へ暑い日に行ったと思いこんでいる、この記憶は正しいはずだ。それはとてもいいかげんな断定だと思う。質素で清らかな性格のせいだ。鍾乳洞の夏は涼しく、冬は暖かい。おぼえているのは、鍾乳洞で、ふたりではじめてまともに話したこと。なのに季節すら覚えていないなんて。ふたりとも。質素で清らかな性質のせいで。鍾乳洞の温度は一年を通して同じだから季節がわからなくなってしまう。質素で清らかな鍾乳洞なんだ。証拠写真を撮るべきだった。公園の? 鍾乳洞の? チクワの? つぎに行ったときに証拠をのこす。
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