指がシュークリームになっている


指がシュークリームになっている

夢をみた

指なのに

だれかが食べようとする

とめようとして

眼が覚める

怖かった

ユビ、なくすかと思った

時間は曲がっていて、閉じられている

リア充爆発しろ

テニスサークルの男女たちが狂気のような会話を交わしている

ファミレスでオニヤンマの話をする

どうしてオニヤンマ

カッコイイから

強そうだし

強いかな

戦闘機みたいに列になって飛ぶんだ

時間は曲がっていて、閉じられている

空間も曲がっていて、閉じられている

オニヤンマ強いよ

名前がね

ほんとうに強いよ

列になって飛んだりしないだろ

見たことあるの

ないけど

じゃあきっと飛ぶよ

べつの低いところで

コンクリを四角く切り取った窓から

夕方の光がさしていた

暑かった

じゃあってなんだよ

靴先がぶつかってどきっとする

リア充ばくはつしろ

紙ナプキンに書こうとした「ばく」という字が

どうしても思い出せない

火へんにぼうだよ

ぼう…

上におひさまのひがのって

よこよこたてたてで

はらってちょんちょんって

ぼうりょくのぼう

はじまりとおわりがつながる

帰り道だった

野生化したラッパ水仙の黄色い花があった場所は

ドクダミに埋もれていた

星のかたちをした花がひっそりと白く満開だった

水がしたたりおちる暗渠の外側は

崩壊しつづけているようだ

桜の木の幹に木蔦が這い上がり

頑丈な腕でびっしり覆った

抱きしめるみたいに

あの――ヒトさ

あそこで会ったヒトだけど

マラソンやってるんだって

2日間不眠不休のレースに出るんだって

そんなことできるの

幻覚とか幻聴とか出てくるらしい

だから練習のために2日間仲間と山道を歩くらしい

眠らない練習

だんだんこのへんからスト2の音楽が流れて

波動拳っていう声がずっときこえてくるらしいよ

マジで

徹夜でゲームやったあとは頭の中で音楽が鳴る

波動拳波動拳っ

話変わるんだけど

ガリガリ君の梨味に

梨が入ってないってほんと?

時間は曲がっていて、閉じられている

空間も曲がっていて、閉じられている

閉じられた時空の外へ……

とつぶやく

暑いね

汗がうっすらときいろに光る

拡大された肌のうえを通過して

地面へおちた

強いやつに出会うため修行の旅を続けている

オニヤンマが?

スト2の主人公が

ゲームはみているだけだった

何度かみているうちにいつもみるようになる

どうでもいいような細部を記憶する

前髪がひたいに半分だけかかって

あいているところで汗が光っている

上のボタンをはずしたシャツの襟の左側だけがすこし

曲がっている

膝がぶつかってどきっとする

だからさ

ガリガリ君の梨味には

じっさいはリンゴしか入ってないって

ほんと?

ほうりなげられたみたいな

そんな季節があって

時間は曲がっていて、閉じられている

空間も曲がっていて、閉じられている

閉じられた時空を超えて……

ほうりなげられたような

季節を

おまえにやるよ

こたつの向こうから

飛んできたみかんを受けとめる

つやつやした黄色の肌に

曲線をひいてナイフでなぞる

閉じた曲面をむいてひろげて生みだされる

イヌ、かな

ウサギだよ

どこが

どこからでもウサギだ

耳がないな

おまえにやるよ

へたくそ

世界の外側がウサギに変わったのも知らずに

みかんの房をわけあった

怒って怒られた

ふりをした

組み合わせた両手から気弾が発射される

波動拳っ

向かっていく何かがあった

変わるんだけど

物はほんとうはぜんぶ波なんだって

ほんと?

時間は曲がっていて、閉じられている

空間も曲がっていて、閉じられている

はじめとおわりがつながる

何度も

向かっていくものがあって

何度か

みているうちにいつもみるようになる

中庭をはさんだ向かいの窓の中に

同じ服を着て

同じ向きで座っている

同じ姿を何度もみる

気になっていつもみるようになる

同じ服を着ているのにちょっとちがうような

襟の合わさり方とか

膝の下でまっすぐに伸びている布が白く光っているとか

話変わるけど

ミラノ風ドリアのミラノ風って

ようするにミートソースのこと?

窓の外で会ってもすぐにわかった

テニスサークルが凶器をもてあそんでいる

それまで知り合いでなかった

だれかとだれかが出会って

そのうちのふたりは必ず恋におちるという

まちがった考えを植えつけられる

ナイフとフォークのトレイの中で

波動拳を出す

「ばく」という字がどうしても思い出せない

火へんにぼうだよ

あいとぼうりょくだ

指がぶつかって

どきっとする

壁を覆う蔦が行き先をなくして

さわさわ揺れている

灰色の脳細胞だけが永遠に

じっとしているような朝に

自分には**がある

どうしても思い出せなくても

**だけはもっている

頭の中で言葉だけが

向かっていく

はじまりとおわりがつながる

頭よ爆発しろ

閉じられた時空を超えて……?

ミラノ風ドリアって

意外においしいね

もしかしたら

あれ

食べようとしてたの

おまえかも

何を

指 シュークリームになってた

そんなの食べないよ

食べるよ

絶対おまえだ

夢の話だろ

指なんて食べるな

夢だって



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