突然最終回


カーペンター先生の最後は突然最終回ではないと、少なくともそう信じられていたが、じっさいは突然風が吹くように、手を握ってささやき最終回となったのだった、大工よ屋根の梁を高くあげよ、眼の中におちて来ないように、まあいったいなんて大きいおめめなんでしょうおばあさん。おまえのかわいい顔をよくみるためにこんなに大きくなったんだよ。狼は森で寝ていました、エゾシカの匂いがするのに姿は見えず、ワニは生き延びるために動かなかった、吹き抜けていく、5章7節と7章5節を取り違えて怒られた先生の中庭で、ごめんなさい、ぼくはマタイよりマルコの方が好きなんですと告白する夜明けの風、あの空のしたで突然最終回を迎えようとしていたマルコにポンチョを放ってあげたかった、毎週日曜夜7時に幌馬車の旅をする、無人島で巨木の幹に小屋を作り、ミシシッピ川でおぼれ、いちご水とまちがえてぶどう酒をのんだ、親友だった。親友の死、親友は肺病で真っ白になって死にました、突然最終回、窓の外で口笛が呼んでいる、いかだにつかまって、荒くれ者のほら話をきく、りんごの真っ白な花が咲き乱れる並木道を抜けて、合間にはカルピスの作り方を教わりました。毎年夏になるとカルピスを贈る、日焼けした背の高いおじさんのカルピスを調合するのは子どもたちだけ、ぼくたちだけ、ぼくたちだけでやる! 両親が馬車に乗って博覧会へ行った、何をしようか、何を? アイスクリームをつくろうよ! 妹が叫んで、入った、大きなたらいと取っ手のついた樽、朝掬ったばかりのクリームとふんだんな砂糖、氷にふんだんにまぜた塩の白い、雪のような粒、妹にアイスクリームを投げつけて戦った、クリーム色のアイスクリームに散ったバニラの黒い点は、太陽を横切り金星になりました、銀河ステーション、銀河ステーション。メガホンから響く声、おばさん大盛りお願い。大盛りありません。替え麺してください。トラック野郎たちがあつまるステーションで父とラーメンを食べました。100、200と星を数え、数えながら、見渡すかぎりの星の野原で迷子になって、冷遇されていたキャプテンはさびしい食堂の入り口でまずい食事の券を買う、いつかわが青春の理想郷へ艦隊をつれていくためのそれが最初の一歩だったのだ、こんな話をし続けた、つる植物の温室が暗い星の原で揺れて、磨かれた鏡と帆、きれいになった空気が通るダクトに隠れながら。遠くで響くのはガイド音声、いやあれは銃声ではないだろうか――ないだろうか? 不法占拠の船内の暗いダクトは暗渠のようだ、水が滴り、かすかにみかんの香りがする、市場へ向かう最後の仔牛にならないように、戦うための服を探している。

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