第11話
電飾が落とされ灯りが疎らな店内を中央の催事場目掛けて歩く。メインの灯りが落ちた催事場はぼんやりと薄闇に浮かび上がって見える。開封された段ボールが転がっていて辿って行くとせっせと品出しする細い人影が見えた。呼び掛けようとした瞬間、自分と逆の位置から大柄な人影が近づいた。転がっている段ボールを拾い畳むと近くの籠車に積み上げていく。2人は特に話をするでもなく手だけを動かしている。「キューピーちゃん~!帰るね!お疲れ様~」地上の出口に繋がる従業員通路の扉から明かりが漏れ、大きく手を振る植野さんがいた。「お疲れ様です。気をつけて」振り返りながら春日は声を張る。後方に立つ斉藤に気づくと「悪い、待たせた?」と笑いかけながら聞いてくる。返事を待たずにシンクで手を洗いペーパータオルで拭くと口の開いているごみ袋に捨てた。上着を手に真っ直ぐ歩いて来る。「行こう」そのまま先を歩いて行く。後ろから慌てたように伊藤が付いてくる。階段を上がりきるとすぐ横に警備員の部屋がありガラス越しの窓口がある「お疲れ様です」口々に挨拶が交わされ窓口からA4サイズのボードに挟まれたチェック表が差し出される。後ろから手が伸びてきて伊藤が20程ある項目に書き込んでいく。春日が胸ポケットから鍵束を取り出すと「地下1階閉めました」と警備員に渡して「お先です」と呟くと重い通用口の扉に手をかけた。「お先失礼します」春日の肩越しに扉を押して一緒に外へ出た。意図的に避けているらしい態度には触れずに「駐車場まで付き合って下さい」と断り並んで歩き出した。
月明かりに浮かぶ春日の横顔は無表情でまるで温度が感じられない。いつもとは別人だ。少し顔を覗き込むように目を合わせると普段でも大きな目が更に見開かれた。「大丈夫ですか?」と聞くと「あぁ、別に疲れはない」と言う。「違います。コッチの事です」人差し指で春日の胸元をトントンと差す。「過去の例を見ると、このまま春日さんが声をかけないと、夜寝れなくて、朝起きれなくて、明日腫れた目で遅刻して来て、イヤ着く前に事故るかも?売場着いても200%使えませんね、保証しますよ!」「斉藤の保証付き...か」困った様な笑を口元に浮かべている。「係長にゼロからしつけ直せって言われて...」それで悩んでたのか...いつもならトラブルが解決した時点で渇を入れて終わりだ。甘いなぁとは思うが春日の切り替えは早い、それに春日の不機嫌が長引くと伊藤はいつも以上に使えなくなる、まさに木偶の坊だ。「良い案があるんですが?」春日の顔が近づいた。「どんなん?」「みんなが幸せに丸く収まる案です、ノリますか?」ふざけたように聞くと、春日も釣られたように笑いながら頷いた。斉藤は素早くスマホで伊藤を呼び出す「あ、お疲れ様です。春日さんから伝言です。明日午後シフトなので遅刻しないように、営業企画の朝の打ち合わせ忘れないように、以上です。失礼します」珍しく呆けた顔で春日は黙ったままだ。「さぁ、これで時間気にせず思い切り飲めますね!」「えっ?斉藤?まさかそれで半休?」やっと分かったらしく少し顔が上気してる。根が真面目なので飲み会の翌日半休取るなんて考えたことがないのだろう。飲み会だって滅多に参加しないし、少し肩の力抜いて行きましょう。本音は折角春日と2人でいるのに伊藤の事など1ミリも考えて欲しくないのだ。ヨシ、準備万端
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