第12話
古民家風の店内は食事タイムが過ぎ飲みタイムに入っていた。イントネーションが微妙な店員の誘導でテーブル席に案内された。「とりあえず生」夜の飲食店の挨拶を済ませると、天板を挟んで春日を見る。早速メニューを手にページをめくっている。「すごい充実してる」瞳をキラキラさせて楽しそうだ。 すぐに運ばれてきたジョッキは綺麗な泡がのっていて勢いで危うく一気飲みするところだった。お疲れ様だか何だかお互いに小さく呟くと今この状況に1人ガッツポーズをする。
「本当に今日はありがとな、斉藤がきづいてくれなかったら大変な事になってた。感謝してる」気づくと目の前で春日が頭を下げている。「止めて下さい、本当に偶然だったんですから、それよりご飯誘ってもらって嬉しいです」「斉藤って酒強いんだっけ?店でも良く飲んでるよな」上唇についた泡をペロリと赤い舌先で舐めながら春日が笑う。
店でも...って何だか誤解を招く発言をしてくれるなぁ、鉄板を挟んで至近距離で含みのある仕草と発言をされて勝手に鼓動が早くなる。「店でのは仕事ですから」一応真面目な顔で答えてみる。
ジョッキをメニューに持ち替え、また最初のページから見ている春日は、ふっと返事とも笑いともつかない息を吐く。「決まりましたか?」火の入った鉄板の熱のせいか空きっ腹に注いだアルコールが効いたのか、春日の顔が上気している。眼福である。
「うーん...迷ってる。コレはきまりなんだけど、コッチも捨てがたい...」深刻そうに指先でメニューを辿る春日の表情は媒体の写真選びをしているかの仕事モードだ。「両方頼んでシェアしましょう、更にコレも行けたらベストです」後方ページの焼きそばを指したら、顔を上げた春日が小さな子どものように嬉しそうに笑った。
「食べた!美味かった、また来よう」上機嫌の春日が無邪気に笑いながら、確認するように次はアレにコレと、指折りメニューを呟いている。ファミレスで目移りしている子供のようだ。店を出るときチラッと見た時刻は22:50、まだまだ夜はこれからだ。ジョッキ3杯でほろ酔い気分なのか隣を歩く春日はたまにふらついている。「危ないですよ」レンガ敷きの歩道で小さくつまづいた春日の腕をグッと掴んで自分に引き寄せた。「ん、あぁ、ありがと」いつになく素直な上に酔いが加わり、更に潤んだ瞳で見上げられ...イヤ、誘ってます?オレ試されてます?
諸々覚束無い春日を丸め込み、有無を言わさず自室に招く事にした。「春日さん、着きましたよ」代行を頼んで帰した後しばし肩にもたれて眠る春日を堪能してから軽く肩を揺する。「んー、アレッ?...ゴメン」寝てた事に対してか、はたまた寄りかかっていた件か、どちらともわからないがまだ覚醒していないようだ。すかさず抱えるように車から下ろすとそのままエレベーターに乗った。「ん?...?」寝起きの無防備な春日は抵抗もなく部屋まで連れ込めた。「はい、冷たいのどうぞ」リビング、ダイニング兼用のローソファに座らせ、上着を脱がせ、楽な姿勢にとクッションを挟んでいる間大人しくしていた春日の手にグラスを持たせる。紅茶のリキュールに酸味、ベリーと氷を浮かべたソーダだ。色が綺麗でコーヒーが苦手でカフェインは専ら紅茶で摂取する春日の為に用意していたリキュールだ。
「わぁ、綺麗だなコレ」ニッコリと口角が上がる。キラキラ輝く大きな瞳が間接照明に照らされる。「本当にキューピーだ」思わず口が滑った。一口飲んだ春日が唇を舐めながらじっとこちらを凝視した。「ソレ止めろ」唇を尖らせて拗ねたようだ。「入社して研修に入る時俺の担当になった先輩がふざけて付けたんだ、なんでかどこに移動してもソレで呼ばれる」不貞腐れたように身体をクッションに埋める。「可愛らしいあなたに大変お似合いです」その先輩はセンスがいい。声には出さずに胸の中で頷く。「32にもなってキューピーっておかしいだろ!?」ツンと唇を尖らせながらグラスを目の高さに持ち透かして見ている。「イイエ、全く違和感ないですよ!」無茶苦茶可愛い!普段職場では見れないオフショット、表情豊かで目が離せない、強く抱き締めて撫でまわして、あの唇を思いっきり息切れ起こすまで堪能したい。
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