第10話
少し前の懐かしい記憶に浸ろうとした頭を春日がハンマーで叩いた...イヤ、現実には春日は何もしていない「えっ!?今なんて..」今確かにハートっぽいモノが視界に写って脳ミソが揺さぶられた。ちょっと声がデカイ、食い付き過ぎ、落ち着け!助手席をガン見すると窓から視線を向けた春日が驚いたように目を見開いている。「っ、すみません、聞いてなくて...」フワリと柔らかく笑った春日の顔に釘付けになる。表情を動かさないと整いすぎて西洋人形の様に冷たく近寄り難い印象だが、普段の春日は笑い、怒り、拗ね、目まぐるしく表情が変わるので良く良く見ていないと気づかない。たまに1人で紅茶飲料を手にタバコを吸っている時や残業中にブルーライトに照らされた横顔は声をかけるのを忘れて見惚れてしまう位キレイだ。
「イヤ、疲れてるよな、本当にすまない、また日を改めよう」えーっ!!何、何っ!!「疲れてなんてません!違います!元気です!春日さんが疲れてるだろうなぁって、静かに丁寧に優しく真剣に運転しようと...」日本語も何もかもがおかしくなってる。自分の顔に血が上って熱くなるのが分かる。少しの間沈黙が落ちる。「斉藤が都合つくなら、飯食いにいかないか?って思っ..」また春日の方向からハンマーが来た、敢えてそのまま打たれる、ピコピコハンマーはピンクのハート型に見えた。「行きます!」春日の言葉が終わらない内に、気が変わらない内に確約を取り付けなければ!!「お好み焼きどうですか?西の有名店が監修してる店が出来たんですよ、太目の焼きそばも食べ応えあってソースが旨いんです、お焦げ堪らないです」食品業界で働き、知識も舌も肥えている春日は毎日貢ぎ物に囲まれ食べ物に苦労はしない、新作、季節もの、企画ものと飽きることもない。頼まなくても人気者の春日に職人が工夫を凝らしたものを持参し感想、アドバイスを求める。好き嫌いを一切公表してはいないが、実は春日は粉ものが大好きだ。しかも幅が広い、パンにパンケーキ、クレープ、ガレットも含め、たこ焼き、お好み焼きは大好物だ。差し入れにたこ焼きは常識である。何でも自分が作るのに限界がある為、これらは自作しないらしい。職人に作ってもらい、見合った対価を払うのが春日流だ。常にアンテナを張っている粉ものリストから最新の二重丸を披露する。春日の頬が上気し、一気に口角があがり、大きな黒目がキラキラに輝いている。ヨシ!釣れた!!これで今日何が起ころうが就業後の春日さんは売約済みだ。
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