第2話

あ~今日は頭数が少ないなぁ、ざっと並んでいる面子を見ながらぼんやりと考える。鮮魚、青果、惣菜、和洋菓子からはケチって一名、酒から二名、食ギフから一名、加えて俺、つまり北口はいいとしても2つの地下入口を8名でフォローしろと...今日は定休日開けの世間で言う週明けである。


 厳つい警備員が立つ入口をさりげなく伺うと、色とりどりのドライフラワーがそれこそわんさかひしめいていて絵面的にカオスである。あ~常連客があんなにいる...一人3分は挨拶に必要な方たちである。


 ムリ!無理だし!食品は専門知識が必要な為ほとんどテナントさんにお任せ状態で社員の若いのが出来る事など荷物運びにゴミ片付け、配送手配位に限られている。そんな中に笑顔で詐欺師のような浮わついたセリフを真顔で言える器用なヤツ...など限られた一部のみだ。


酒売り場の斎藤は学生時代からウチでバイトしていて、どこまで本当か俺に憧れて就職したという逸材だ。営業企画という何でも屋的な部署にいる俺が鍛えているのでとりあえず万能に才能を伸ばしている。

 あと鮮魚担当の渡は入社2年目ながら学生時代にバーテン見習いのをしていたという異色な人材、当人は何も見てないというが、相手の瞳を見ながら語りかける事が出来る特技を持つ。

 もう一人、ギフトの松本は筋金入りのお坊っちゃまで育ちが良く、言葉遣いの丁寧さに上品な立ち居振舞いがお客様に絶大な人気である。

 しかし頭数が足りない...これでは開店から20分経っても行列を捌けないだろう。ん~困った。眉間にくっきりとシワが出ているだろうとは思うが、俺は何か打開策はないかと頭をフル回転させる。

 とりあえず常連客だけでも黙らす方法は...ある、あるにはある。最終のややヤバめだが、アレを使えば一瞬で解決する。ただし、リスクが...葛藤している俺に斎藤が遠慮がちに近づき顔を覗き込む。


 「春日さん、大丈夫ですか?売り場から誰か引っ張りますか?」心配そうに眉を寄せてこちらを伺う。ん~マズイ、時間がない、迷ってる暇がない。定休日開けは売り場の

変更が多いのでどこも忙しいのだ。


俺は斎藤に力なく笑いかけると小声で指示を出す。「斎藤、全員菓子の入口に行かせて挨拶させろ」斎藤は一瞬驚いた顔をしたが、俺がさっさと携帯を取り出したのを見て小さくため息をついて肩をすぼめた。そのまま振り返ると「全員和洋菓子の入口に急いで移動してくれ」と声を掛けて自ら先頭に立ち大きく手招いて「急げ!」と移動しだした。


 納得の行かない顔の面子を横目で見送りながら俺はある人に電話する。ワンコールで出た。流石、連絡する事読まれてたっぽいな...あまり借りを作りたくない相手だが今日の所はしょうがない。あとから理不尽な要求が来ようが、今はこの場を、切り抜けて入れ替えたばかりの催事場の手伝いをしないと仕事が始まらない。

 「おはようございます。食品入口の挨拶人員が足りないのですが、至急お願いします。パン屋の方です。片手は欲しいです。」俺は要件だけ伝えてブチ切りする。開店まであと5分。

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