忙しい俺の毎日

でむ太

第1話

 慌ただしい開店10分前、自動ドアのガラスの向こうはキラッキラに輝く朝日で眩しい。

 ここは某地方都市駅前の一等地に建つ昔ながらのデパートメントストア、地下4階、地上9階までそびえる煉瓦建ての美しい外観、今日もまた開店前に入口に大きく人だかりが出来ている。

 入口と言っても地下に3つ、地上に4つ、そしてその場所で開店時に神と呼ばれるお客様にご挨拶をする人間はきっちりと決められている。


 一階中央南口は、いれば店長以下各部門の部長クラス、地上東西入口は各部門の係長クラス、そして北口はチーフ他だが、ここは実は特約のお客様を迎える入口でもある。もちろん担当部署のエライのがお迎えに出る。


 そして地下、地下鉄、地下通路に通じるコチラは...庶民の入口とされ、地下の社員に任されている。何せメイン入口横は焼きたてパンがズラリと並ぶ匂いムンムンの市場並み。中に一歩入れば揚げたて惣菜、魚屋の干物、蒸したての蒸気を立てたおこわ等々、いくら換気をMAXに作動させても閉めきっていた店内はある意味カオスだ。

 まぁ、これがクセになるんだけど...

地下1階食品フロアは真ん中にガラスで仕切られた展示スペースを設け両サイドに渡り廊下を設置し匂いを遮り、雰囲気を変え、和洋菓子フロアと分断している。洋菓子フロアにある入口は地下鉄駅から近いので割と混む。しかし、和菓子フロアの入口に関しては...誰でもいいから一人立たせておけ、のレベルである。

 たまに監視カメラもったいないし、封鎖しちゃえば!?と真剣に考える。


 地下1階食品フロアの朝のご挨拶メインは何故か部長ではなく、各部門係長クラスでもない。食品部長は実はこのデパートメントストア創始者の血縁者なのだ、お客様の喜びがワタクシの喜びです、と真顔で言ってしまう少し時代錯誤な部長は大黒天を彷彿させる容姿を持つ。その大黒天の意向で、朝一わざわざ足を運んで下さるお客様を最上級の笑顔でお迎えしましょう、との提案により上記の通りの環境に足をお運び下さる中年以上限定の老齢女性客多数にご挨拶できるのは若くピチピチした見目麗しい男性社員、である。


毎日の事ながら、開店10分前、入口のパン屋の柱の影に集合する若手社員、その中の一人が俺、食品営業企画の春日 潤、今年32歳。ちなみに若くない!というツッコミは止めて欲しい、自身が何度訴えても聞いてもらえない、キューピーちゃんの笑顔なくてはお客様は満足しませんよ~、という部長の言葉はさておき新人加えて微妙に変わるメンバーを指導しつつ俺は7年目を迎える。

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