衣装作りの次は、恋のキューピッド?
思わぬ形で知る事となった、大路さんの恋の話。
けど、川津先輩の事が好きだと言うのには大いに驚いたけど、案外いい組み合わせかもしれない。二人とも恰好良いし、面倒見も良いし。何かと気が合いそうな気がする。
「僕はお似合いだと思いますよ、大路さんと川津先輩。並んだら絵になりそうです」
「いや、それは無いだろう。私みたいなデカ女が隣にいたら、きっと川津は迷惑するはずだ」
デカ女って。確かに大路さんは長身ではあるけど、川津先輩はもっと背が高いし、決してアンバランスと言うわけじゃ無いと思うけどなあ。
けど大路さんは難しい顔をしながら、独自の理論を語り始める。
「やはり私では、身長が高すぎる。理由は知らないけど、カップルの理想の身長差は、十二センチだと聞いたことがあるからねえ。川津君は百八十センチくらいだろうから、もし隣に立ちたいなら私はあと、4、5センチ縮めないといけないんだ」
「いや、無理でしょ背を縮めるなんて。もしできたとしてもそんなことしたら、大路さんのファンの子達が悲しんじゃいますよ」
縮めるくらいなら僕がもらいたいくらいだ。
百六十センチしかない寸足らずとしては、その長身がうらやましい限りだ。
「ちなみに理想の身長差が十二センチなのは、キスをしやすいからだそうですよ。男性が女性を見下ろすようにした時に唇が重なる身長差が、十二センチなんだそうです」
「キ、キス⁉ 私と川津君が⁉ だ、だめだ。私なんぞが彼の唇を奪うなんて。そんな事は十年早い!」
「自分に十年早いだなんて言う人、初めて見ましたよ。あれ、でもそれじゃあ十年経ったらキスしても構わないって事で……」
「わあーっ、違う、違うんだショタくん! 今のは言葉のアヤだー!」
おっと、少しからかいすぎたかな。
手を前に突き出してブンブンと振りながら、必死になって否定する大路さん。
普段とキャラが変わりすぎてビックリだけど、こんな大路さんも、新鮮で可愛いって思ってしまう。
けれどそんなに好きなのに、キスはダメだなんて。
真面目だからそんな事を言っているのか、それとも、恋愛に関しては臆病なのか。
いや、そもそもそれ以前に、ハッキリさせておきたいことがある。
「あの、大路さんは、川津先輩と付き合いたいとは、思っているんですか?」
変に遠回しに尋ねても仕方がないから、直球で聞いてみることにした。
好きな人とは付き合いたいって思うのが普通だろうけど、その辺はどう考えているんだろう?
すると大路さんは顔を真っ赤にしながら、どもった声で返事をしてくる。
「つ、付き合うなどと恐れ多い。そんなことできるわけが……いや、決して嫌なわけじゃ無いのだけど。むしろそうなったら、天にも昇る気分だとは思うけど……」
「なら、本音では付き合いたいんですね?」
「いや、それはだね……。そ、そもそもの問題として、もしも私と川津君がつき合うことになったら……親衛隊が黙っていないじゃなか!」
ああ、あの過激な親衛隊ですか。
たしかに、仲良く話をしているところを見られただけで命が危ないなんて言われるんだ。大路さんと付き合った人は、いったいどんな目に遭わされてしまうのだろう?
「ああ、川津君が死んでしまう。きっと洲巻にされて、川に流されてしまうんだ。私が好きになってしまったばっかりに!」
「大路さん落ち着いて!」
「ダメだ。やっぱり私が男を好きになるだなんて間違いだったんだ。ショタ君、今話したことは全て忘れてくれ。この想いは、墓まで持っていく!」
「だから落ち着いてくださいって。親衛隊にはバレたわけじゃないんですから、そう悲観的にならないで!」
今までは大路さんの恰好良い姿しか見たこと無かったけど、川津先輩の話となるとこんなにもポンコツになってしまうだなんて。
そのあまりの変貌ぶりに、驚きを隠せない。
「ええと、それじゃあ話を戻しますけど、それじゃあ大路さんは別に、川津先輩と付き合いたいってわけじゃ無いんですよね」
「……ああ。やはり私の一方的な想いのせいで、迷惑をかけるわけにはいかない。それに、どのみち脈なんて無いのだし」
「そうでしょうか? さっきの川津先輩を見ていると、大路さんの事を気にいってるように思いましたけど」
「本当かい⁉ あ、いや……そんなはずが無いだろう。川津君が私の事を……す、好きだなんて……」
あの、水を指すようで悪いのですが、好きとまでは言っていません。気に入ってるんじゃないかって思っただけです。
なのに大路さんは自分の言った言葉に酔っているのか、だんだんと顔に締まりがなくなってきている。まあ、いいですけど。
「川津先輩が大路さんの事をどう思っているかは置いとくとして、大路さんが付き合おうって思ってないのなら、余計な事はしない方がいいですよね」
「余計な事、と言うと?」
「川津先輩とはよく話をしますから、上手くやれば大路さんとの仲を取り持てるかもって考えたんですけど……」
けど本人が望んでいないのなら、部外者が余計なお節介を出さない方がいいよね。そっとしておいた方がいいだろう、なんて思ったけど。
「ぜひお願いしたい! この通りだ!」
「えっ、良いんですか!? だってさっき……」
「分かってる。だけどやっぱり、この気持ちに嘘はつけそうにない」
それはいいけど。何たる身の変わりよう。意見を変えるのに、0.1秒もかからなかった。
勢いよく頭を下げられたけど、そんなことをされても困ってしまう。放っておいたら、このまま土下座でもしそうな勢い。
僕は慌てて大路さんを宥めた。
「頭を上げてください。まだ何かできたわけじゃ無いんですから」
「いや、是非お礼を言わせてくれ。実は、凄く嬉しいんだ。私は今までこの思いを、誰にも言わすに胸の奥にしまっていた。だけどこうして遠慮無しに話すことが出来ると言うのが、本当に嬉しい」
そう言った大路さんの笑顔は、本当嬉しそうで。
本当はずっと、誰かとこんな話をしたかったのかもしれない。だけど普段のイメージを崩したくないから、隠しておくしかなかったのだろう。
ん、まてよ。凛とした振る舞いの奥に隠された、淡い恋心……これだ!
僕は慌てて鞄からノートを取り出すと、さっきまで学校でデザインしていた王子様の衣装に、いくらかメモを書き足した。
「ショタ君それは? なになに、黒をベースとした服に、赤いワンポイントを追加する?これってもしかして、頼んでいた衣装かい?」
「はい。さっきの大路さんの話を聞いてて、ラプンツェルに出てくる王子様の事を思い出したんです」
塔から出られないラプンツェルの元に、何度も足しげく通った王子様。
本当は外の世界に連れ出したい思っていたのかもしれない。だけどラプンツェルの事情を考えて気持ちを抑えていたんじゃないだろうか?
優雅に振る舞うその胸の奥には、どれほどの情熱を秘めていたのか。今の大路さんから感じたのと同じ、その熱い想いを、衣装を通じて表現したい。
「ワンポイントを加える事で、服のイメージを変えるんです。ただ優雅なだけの王子様ではなく、情熱的な王子様だって。細かな違いですけど、どうしてもこのイメージは入れておきたくて」
実際作り手の細かい拘りなんて、周りには上手く伝わらないかもしれないけど。それでも僕は思いついたことは全部試してみたかった。
最初は頼まれたからやり始めたと言うだけだったのに、僕も随分と熱を持ったものだ。
「そんな風に熱心に作ってもらえると、本当にありがたい。川津君のことと言い、本当にいくらお礼を言っても足りないよ」
「そんな、オーバーですよ……川津先輩の事ですけど、僕でよければいくらでも相談に乗りますし、できる限り協力します。だから困ったことがあったら、いつでも話してくださいね」
何ができると言うわけじゃないけど、せっかく大路さんの気持ちを知ったんだ。やっぱり、恋を実らせてあげたいって気持ちがある。
「ありがとうショタ君。ふふ、最初君に見抜かれた時にはどうなる事かと思ったけど、知られて良かったかもしれない。話すだけで気持ちが楽になるんだって、初めて知ったよ。あ、けどこの事、聖子には……」「分かってます、秘密にするんでしょう。絶対に誰にも言いませんから、安心してください」
「お願いするよ。二人のだけの秘密、だよ」
そう言って大路さんは、僕の口元に指を持ってきて、軽く触れる。
……この人は、こう言う事を自然とやってのけるから困ってしまう。一瞬ドキッとしてしまった僕を見て、面白いと思ったのか、くすくすと笑ってくる。
とてもさっきまで川津先輩の事でてんぱっていたのと同じ人とは思えない。大路さん、川津先輩の前でもこれくらいの余裕を見せることができたら、案外すんなり付き合えるんじゃないかなあ?
問題は、それができるかどうかなんだけど。川津先輩のこととなると、大路さんは人が変わっちゃうと言うのがよくわかったからねえ。
けど、それを何とかするのが僕の役目なんだよね。大路さんの恋、上手くいけばいいな。
成り行きで提案したキューピッド役だけど二人がくっつけるよう、僕も頑張ることを誓うのだった。
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