第37話 決戦前夜
「見てみてこのサンダル!わたくしが造りましたのよっ!!」
銀の魔槍は革製のサンダルを百個ほどテーブルの上に陳列して得意げそうな笑みを浮かべていた。
「そろそろ片付けろ。注文した晩飯が来るぞ」
「おほほほ。一時間に片足分造るのがやっとの方が神であるこのわたくしに命令するだなんて片腹痛いですわ!!!」
「神様ちゃん。テーブルの上にあるサンダル片づけてくれないかねぇ?」
「あらごめんあそばせ」
銀の魔槍は神の輪の力によりサンダルを神殿の倉庫に送った。
女将は小麦粉の粥。ウナギ。魚肉団子。サラダ。野菜のマリネ。チーズ入りオムレツ。ゆで卵などを並べる。そこにアスクレビオスと青の癒し手がやって来る。診療所から戻って来たのだ。
「もう始まっているのか?」
「いんや間に合ったぜアスクレビオス」
「じゃあ揃ったところでかんぱーい」
「かんぱーい」
ビールを打ち合わせて乾杯した。神の子とカーマインはフレッシュジュースである。
「あ、女将さん。フルーツ盛り合わせお願いするっす」
「あいよ」
メロン。リンゴ。ブドウ。スイカ。ザクロなどが盛られたフルーツ皿が追加投入される。
「アイザワ。街の様子はどうだ?」
アスクレビオスが最初に切り出した。彼は普段街の診療所で傷病者の診療をしているため出歩かないのである。
「なんつうか。妙に平和だな。すぐ近くに鉄の悪魔どもの住処があるのが嘘みたいだぜ。お店は普通に営業してるし。時折例のボウケサーとかいう傭兵団の連中が街で盗みや物を壊したりして、猫兵士軍団にしょっ引かれるぐらいだな。あの連中のほうがよっぽど問題じゃないのか?」
「そうでもないっすよアイザワさん。鉄の悪魔の襲来頻度はだんだん頻繁になってきてるみたいっすよ。数も増えているみたいっす」
どうやら鉄の悪魔達が鉱山から鉄鉱石を掘り出して戦力を増強しているのは間違いなさそうである。
「やっはり早めにこっちから攻撃を仕掛けないとダメか」
「あと傭兵全員が犯罪者っていうのも事実誤認ですね。積極的に社会活動に参加しようとする人たちもいますよ。鉄の悪魔の残骸を工房に持って行って鍛冶職人と一緒に武具の製作に携わっている方とか飲食店の店員になっている方とかもいますよ。まぁ労働を完全に忌避する人もいるようですけど」
「そうか。なら俺達は街の城壁を修理する時に『地球から来ました!』って言いながら作業しないとな」
「なんでそんなことをする?」
「だってそうしないと地球から来た連中はみんな怠け者で泥棒で乱暴者だと思われちゃうじゃないか。地球からやって来る連中は働き者の真面目な連中だって積極的にPRしないと駄目だろ」
「それでアスクレビオス。貴方の方はどうなんですの?」
「初日に重症患者が多めに運ばれてきた程度でその後は町医者生活だ。と、言ってもびっくりするほどこの街の医療水準は高いな」
「医療水準が高い?古代エジプトっぽいこの街が?」
「いや。ミイラを作成する関係で死体の解剖を山ほどやってるからな。その過程で医療技術が発達してるんだろう」
「あー。なるほどなー」
「それで神の子。明日はどの仕事を手伝えばいいのかしら?テントづくりかしら?それとも羊の毛刈りかしら?魚取りの網を引く仕事も面白そうね」
「何言ってるんですか。明日の夕方には魔塞アーマーンに突入しますよ。本来の使命を忘れないでください」
「本来の使命?」
言われて銀の魔槍はしばし考え込み。
「そうだわ!わたくしの使命はこの街の神だったわねっ!!すっかり忘れていましたわねっ!!」
違うだろ。アイザワは心の中でツッコミを入れる。
「そういえばどうしてアーマーンへの攻撃は三日後だったんですか?すぐに攻撃するんじゃだめだったんすか?」
カーマインがふと疑問に思った事を尋ねてみた。
「ただ単に私達の方で総攻撃のための準備の時間が欲しかったからですね。資金的にも余裕はありましたし、兵員としてはボウケサーなる傭兵団がいるので足りています。ただ、街の防衛。傭兵に支給する武器。食料などの準備を考えるとどうしても三日はいりました」
「それ、例の神様パワーでやっちゃだめだったのか?」
「あれは神殿の倉庫に運び込んだ品を神様の手元まで呼び出す構造ですからね。結局どっかから素材を持ってこないとダメなんですよ。まぁそれ以前に都市の経済活動とか物流の観点などから考えて通常は街の住人の皆さんに生産流通活動を行い、たまに神様パワーを見せて神の御威光を知らしめた方がよいのではないかと」
「なるほど。銀の魔槍。わかったか?」
「わかってますわ!つまりわたくしがこの宇宙で最も美して偉大だということですわねっ!!!」
「そうか。わかっているようでなによりだ」
「じゃあ明日は東門で傭兵の皆さんに武器と食料配りますんでボランティアスタッフの皆さん。配布活動お願いします」
「ボランティアだから俺たちは無報酬なんだ」
「はい」
アイザワの確認に神の子はそう答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます