第34話 単なるコスメの風景


 その日の朝。居酒屋のお気に入りの席に座りながら神の子は銀の魔槍の髪を櫛でとかしていた。


「こんな雑用をして頂いて悪いですわねぇ」


「いえいえ。神の子というのは本来神様にお仕えるするのがお仕事なので本来こういうのが役目なんで」


 スキンケアとして花の香が漂う油を頬に塗る。そのままリップ。赤色系の顔料を溶いて首紅を鮮やかに染め上げる。続いてアイライン。孔雀石を砕いて水で溶いた物を瞼の上に引き、縁取りをくっきりとさせる。


「折角ですから髪の毛の染色もしてみましょうか。真ん中にエクステ挟みこむ感じで髪の毛に紅い筋を一本入れるとそれだけで特徴のある髪型になるとおもいますよ」


「あらそうですの。ではそうなさってください」


 ヘンナで染色し、銀髪の中央一房のみ赤い筋のある髪になった。銀髪の海に一条の赤い彗星が紛れ込んでヘアメイクが完成である。

 そこに一人のチキュウとかいう田舎の村からやってきたボウケサーを名乗る傭兵が現れた。


「くくく!俺様は洗脳奴隷チーターだ!俺様は相手を洗脳奴隷にすることができるっ!!貴様を洗脳奴隷にしてやろう!!そこの女!洗脳奴隷になれっ!!!」


 銀の魔槍はそばにあった椅子を掴むと、店に入って来た男を殴りつけた。


「ぐあああ!!ば、ばかな。俺の洗脳奴隷魔法がきかない、は、ず、がああ・・・」


「すみません。シャルティエの化粧は魔よけの効果があるんですよ」


 神の子は言った。


「おーい。何かあったのか?」


 騒ぎを聞きつけたアイザワが二階から降りてきた。


「あら。丁度良かったですわアイザワ。この変なチキュウとかいう田舎村から来た野蛮人を猫仮面の方々の所まで突き出しておいてくれませんこと?」


「また変な地球から来た連中が悪さをしようとしていたのか。地球人の評判が下がっちゃうなあこれじゃあ」


 そう遠くないうちに地球に帰るつもりであるアイザワは椅子で殴られた男をつまみ出しながらも困惑していた。こういう連中が多いといずれ地球とこのシャルティエが国交正常化し、普通に交流できるようになった時に禍根を残しそうだなと。


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