第31話 その街は、五 メートルもの高い城壁に周囲を覆われていた


 アイザワ達はシャルティエの街。東の壁の工事現場に来ていた。鉄の悪魔との戦闘で破損しているのでその補修現場である。


「いいか。その泥を長方形の形にする。そしてそれを天日で乾かす。固まったら重ねながら隙間と表面に泥を塗って固めて完成だ」


 現場監督の指示に従ってアイザワ達は街を護る城壁を補修していた。


「監督さん。スモウレスラーの死骸ここの穴に放り込めばいいっすか?」


「おう!鎧の兄ちゃん力持ちだな。お蔭で作業が捗るぜ」


「鎧の兄ちゃんじゃなくてカーマインっすよ。」


 カーマインは重量級装甲服を着用している。パワーアシスト機能があるので数百キロはあるだろう金属塊も片腕で楽々と持ち歩ける。ちなみに内部は冷暖房なので実は着用しているカーマインの方が涼しい。


「なぁ銀の魔槍。お前例の神様パワーでパパッと工事終わらせちまえよ?」


「いけませんわ。それだとクヌム神の御利益が得られなくなるって現場監督が怒りますわ」


「クヌム?なんじゃそりゃ?」


「どうやらクヌム神について説明しなければならないようですね」


 レンガ造りを手伝っていた神の子がやってきた。


「話をしましょう。あれは今から八百年以上前でしたか。いえそれとも八千年前の話。


シャルティエの街にはまだ城壁はありませんでした。

そのシャルティエの街に馬にのった盗賊が襲ってきたのです。



「ヒャアアア!俺たちはチキュウからやってきた盗賊だぜ!!!」


「なんだあいつらは!」


「馬だ!馬に乗っているぞ!!!」


「金を奪え食料を奪え!!!」


シャルティエに住む人々はチキュウから野蛮な人たちに金や食料を奪われてしまったのです。


「もうだめじゃあおしまいじゃあ」


「儂らはあの馬に乗った盗賊たちに金や食料を奪われ続けるしかないんじゃ・・・」


「あきらめてはいけない!!」


「貴方は!!」


「私はクヌム神!!泥を日干し煉瓦にして積み重ね、城壁を造るのだ!!そしてその城壁で街をまもるのだ!!」


 シャルティエの街の人々は羊の頭を持つクヌム神のもと、五メートルの高さの城壁を築いたのです。そして再び盗賊たちがやってきました。


「ヒャアア!また馬に乗って略奪してやるぜ!!!」


「異世界の下等生物共!覚悟しやがれってんだ!!!」


「おいまて!街の廻りになんかあるぞ!!」


「か、壁だ!城壁があるぞ!!」


「なんて高い壁だ!!あの町を守る壁は、五メートルはあるんじゃないのか!!」



「おい。神の子。五メートルだぞ?」


「ええ。五メートルですよ。アイザワさん。今と変わらず。五メートルの高さの城壁です」



「あの城壁を壊すには、巨人になって蹴り壊すしかないっ!!」


「俺達にそんな能力があるのか!!?」


「とりあえずやってみよう!!!」


 盗賊たちはその場で全員。親指を噛みちぎりました。


「グアー!やっぱ無理でしたーー!!!!」


 そしてそのまま親指から出血多量で死んでしまったのです。



「え。なんだそれは?」


「当たり前じゃないですか。親指を噛んだ程度で巨人になってたら怪我で傷口を舐めた人全員巨人になってもおかしくないですよ」


「まぁそれもそうだな」


「現場監督さん。ハシゴ持ってきたっすよ~~」


「おー。じゃあそのハシゴで上の方にレンガを積んで。って鎧の兄ちゃんは体重で木のハシゴが折れちまうから無理だな。神様頼んますぜ」


「ほほほ!神であるこの私に不可能はなくてよっ!!!」


 銀の魔槍はハシゴに登ると城壁の上の方にレンガを積み始めた。そしてコテで接着剤用の泥を塗り、またレンガを乗せる。


「なぁ。この五メートルの城壁ってハシゴがあれば越えられたんじゃね?」


「それが思いつかないから盗賊なんてやってたんでしょうね」


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