第29話 宇宙一美しい神(自称)の朝食
翌朝。朝食を取りに宿の二階から昨日宴会を開いていた一階の酒場兼食堂部分にアイザワが降りてくるとケンザ・マーゴが死んでいた。
「あいつなんで死んでいるんだ?」
「その人すっか?この御粥スプーンで口にしたら死んじゃったっすよ?」
カーマインが教えてくれた。なんて親切な事だろう。
「食中毒の可能性があるな」
それは引き割の大麦の粥だった。だが、その粥を口にするアスクレビオスは可能性に殺されることはなかった。
「何言ってるんですか。キュケオーンを口にしたくらいで人間は死にませんよ」
神の子の考えには激しく同意せざる負えない。そう思ったアイザワの下した結論はこれである。
「そうだな。俺もこの御粥で朝食にするか」
アイザワをキュケオーンを食べ始めた。死ななかった。皿に残った汁まで残さず全部食べた。やっぱり死ななかった。スプーンも舐めてみた。もちろん死ななかった。この時点でもしかしてスプーンが喉につかえているのではないかと疑った倒れているケンザ・マーゴのすぐそばに皿と、零れたキュケオーンと、そしてスプーンが落ちていた。スプーンが喉につかえて死んだわけではないらしい。どうやらケンザ・マーゴの死因はキュケオーンではないようだ。
とてもおいしかったので、アイザワはキュケオーンをお代わりをすることにした。やはり死ななかった。人間はキュケオーンを食べても死なない。これは宇宙の真理だ。アイザワは知力が上がってしまったようだ。
「やっぱりこの御粥じゃないようだな」
「あ。そういえばあのなんとかって言う人の御粥変なものが入ってたっすね」
「え?なんだって?」
「なんかお肉屋さんで買って来たような原型をとどめた鶏肉の塊が丸ごと御粥のど真ん中に入ってたっすね。確かこのサムネイルは凄いんだとても栄養があるんだとかジマンしてたような気がするっすけど」
「くだらん」
アスクレビオスは切って捨てた。
「鶏肉は良質なたんぱく質を含んでいるだろう。そして御粥は消化がいいだろう。が、それを同時に食べるのは別問題だ。朝食または病人が食すならおかゆ単品がいいはずだ。もちろん健康な人間が豪勢な食事を取るのであれば鶏肉丸ごとでも構わないだろう」
「俺。朝はステーキがいいって噂を聞いた事あるけど?」
「そういう説もあるが現実にはなかなか無理だろう?牛乳とバナナの方が現実的だ」
「んで。偉大なる神様はどうなされましたか?朝寝坊かい?」
「お店のお酒が無くなったんで神の力で酒を出して宴会続行でしたね。今は青の癒し手さんと一緒に爆睡中じゃないですか」
「ほんとなんでも出せるんだなあの輪っか」
「いえ。神殿の食糧庫にあるものを転移の魔術で引っ張ってくるのだけなので限りはありますよ。食べ物に関しては材料に加えて造る人が調理法自体を知らないと碌なものができあがりません」
「なるほど。だからテーブルやら床やらにエンドウマエやらビーフジャーキーやらが転がっているわけか」
いずれも調理不要な酒のツマミである。
「じゃあ青の癒し手さんには後で説明するとしてそろそろ鉄の悪魔について詳しい説明でもしましょうか」
「ちょっとまて。今銀の魔槍お前らの神様なんだろう。説明しなくていいのかよ」
「平気ですよ。どうせ理解できませんし」
「まぁそうだな」
「そうっすね」
一同は話を続ける事にした。偉大なる神抜きで。
「私達はあの鉄の悪魔の住処を伝説の悪魔になぞらえ、アーマーンと呼んでいます」
「なんぞそれ?」
「魂を喰らう怪物です。それに魂を食べられると人間は永久に復活できなくなります。神の輪の力で人間が湯戻しの食材のように生き返るのは承知だと思いますが、約一年ほど前、この街の東側にアーマーンが出現した後、街の若い者が度胸試しで。あるいは財宝がありそうだと考えたボウケサーを名乗る傭兵の方々が数多くアーマーン内部に向かいました。その多くは帰って来ず、また死体を呼び寄せ、蘇らせるという魔法があるのですがそれすらも無効化されました」
「それで魂を喰らう魔物アーマーンか」
「一応入り口付近だけ見て帰って来た人の話によるとやはり内部は鉄の悪魔の住処のようです。討伐隊を送るべきだという意見も出ましたが非常に危険であり、そもそも目立った被害が出ていなかったので問題は先送りとなりました。が、事態が急変したのはここ一ヶ月です」
「と、言うと?」
「アーマーンより大挙して鉄の悪魔の群れが押し寄せてくるようになりました」
「どうして一ヶ月前に?やってきたのは一年前なんだろう?」
「実はここから南に行ったところに高い山があるのですが、最初はそちらに向けてスモウレスラーの群れが向かっていたんです。ただ、柔らかい砂の上でうまく歩けなくてそのまま砂に埋もれたりしてあんまり問題にならなかったのですが。スモウレスラー達がその山から黒っぽい光り輝く岩を掘り出してアーマーンに運び出し始めますと、徐々に鉄の悪魔達の数が増え初めまして」
「あー。鉄鉱山掘りあてたのか」
「どういうことっすか?」
「単純に考えろよカーマイン。連中はロボットだからな。金属さえあれば仲間が増やせるんだろうな」
「あー。そういうことっすね」
「鉄鉱山を攻撃しないのか?」
アスクレビオスは一ヶ月前に神の子や猫仮面戦士達がとっくの昔にした議案を口にした。
「いえ。それも議題にあがりましたが鉄鉱山のある山はここから少々距離がありますのでそこまで砂漠を歩いていくと人間の兵士は砂地を歩くだけで疲労します。ただ、鉄の悪魔はそういうのは無い様なので鉄鉱山での戦いはこちらが不利になります。それに城壁の上から石を落として戦うような戦法もできません」
「じゃあこちらから攻撃するのは無謀なのか」
「いえ。既にアーマーンは攻撃準備に入っていると考えて間違いないでしょう。このまま放置しておけばどんどん鉄鉱石を運び込んで鉄の悪魔を増やすだけですから。従ってこちらから攻め込んでアーマーンの機能を停止させる必要があります」
「そんな。援軍もないのに」
「貴方方がモント神の遣わした援軍でしょう?」
「え?いやそれは」
そこに二階から銀の魔槍が降りてきた。
「うげえええええええ頭が割れるううううううううう」
「二日酔いのようだな」
「そうですね。昨日はお店のお酒が無くなったら神の輪の力でお酒を造って宴会続行してましたから」
「あ、昨日の人。ほんとこの人死ぬのが好きねぇ。はい」
なんと!ケンザ・マーゴがよみがえった!!
「おや。神様二日酔いかい?コーヒー淹れたけど飲むかい?」
ケンザ・マーゴは女将が銀の魔槍の為に入れたはずのコーヒーを奪うを一口。そう。僅か一口である!一口口に含んだ!!
「シリアノヒツジカイガノンダノガサイショオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
なんと!ケンザ・マーゴがしんでしまった!!
アスクレビオスはシャルティエの通貨である銅貨をコーヒーの中に入れてみた。
「酸化還元反応なし。どうやらこのコーヒーが原因ではないようだな」
「そもそもアーモンド臭してねぇよ」
「えっ!?銅貨を入れるとコーヒーが美味しくなるのね?じゃあさっそく!!」
銀の魔槍は神の輪の力によりタカとクジャクとコンドルが描かれたコインを手から出した。
「おいしくなーれ♪おいしくなーれ♪」
「おーそんだけ着けとけばたっぷりコインのダシが出てコーヒーがうまくなるだろうなー」
「神の子様。あのコイン後で神殿に奉納しておけばいいかい?」
「はい。お願いします女将さん」
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