第28話 たぶんこいつも宇宙船に乗って地球から来たんじゃねーの?

「結論から言ってしまいますと、今回の防衛戦は私達の大勝利でしたね」


 神の子は行きつけの店だという居酒屋で今日の戦闘結果を報告した。


「大勝利?ボロ負けしてたような気がするんだが?」


「それはアイザワさんの早とちりですね。確かにボウケサーなる傭兵団が先端を開いた際、多少の損害を出しましたが、早々に総崩れしておかげで九割以上が生存しています。さらに城壁近くまで押し寄せてきた鉄の悪魔を壁上から投石攻撃などをすることにより人的な被害を出さずに大きな損害を与える事に成功しました」


「そう言えば俺は城壁の上でプラズマカッターを火トンボを撃ちながら戦っていたんだが。スモウレスラーが妙な動きをしていたな。城壁に近づいてきて、そのまま壁を四本の腕で突き崩すのかと思ってたらいきなりその手前で立ち止まって地面を掘り始めたんだ。動きがとまったせいで上から猫仮面兵士達が石を落として簡単に倒すことができたぞ」


「あれは鉄の悪魔の習性を利用したんです。彼らは全身が金属でできている関係上生身の人間よりもずっと頑丈です。ただし傷ついた体は自動的に治癒するということはなく、また破壊された場合はその場に残骸が残ります。もちろん死骸を街に持ち帰って鍛冶屋が武器や防具に再加工する事もできますよ。当然、連中も仲間の死骸を持ち帰る習性があるみたいなんです」


「なるほど。自然には治らないが連中の住処に仲間を修理するロボットがいるってことか」


 これが太陽のある限り与えた傷がその場で即座に治癒する巨人の群れだったりしたら簡単に城壁を突破されていただろう。しかし今回の相手はそんな化け物でもなければ攻城兵器も所持していなかった。一応飛行能力を持つ火トンボにいくらか城壁を突破されたものの、その場合は四本腕の相撲取りと連携が取れなくなり、簡単に各個撃破されてしまっている。

 さらに火トンボは火炎放射器を装備していたものの、シャルティエの街の住宅は石材で建設されている。その為火災による被害はほとんどなかった。


「実際俺が治療した連中も軽いやけどをした程度の連中がほとんどで重傷者はいなかったよ。味方を斥候目的で一人で突っ込ませてそのまま見殺しにする薄情な傭兵団の性質が功を奏したんだろうな。日付変更線もまたいでないのにもう酒場に繰り出しているぞ」


 アスクレビオスが言った。そう。この酒場の客の半数はその傭兵団の連中である。異国情緒の溢れた店内である。違う意味で。

 そんな会話をしながら食事が運ばれるのを待っていると。


「くくく。お前達どうしたんだ?そんな辛気臭い顔をして?まぁいい。お前達にいいものをくれてやろう」


 隣のテーブルで宴会をしていた傭兵団の男の一人が頼みもしないのに近づいて来た。おそらく彼もまた、アイザワ達と同じ地球から来た男なのだろう。

男はアイザワ達に白い穀物を見せた。


「なんだこれ?」


「これは米といってなぁ。俺様の故郷の地球にしか存在しない貴重な穀物なのだあ。つまりこの異世界では超絶どチートの」


「あいよおまたせ!!」


 宿の女将が注文していた料理を運んできた。


「パエリアだよ!!香辛料をたっぷりと効かせるのがコツさねっ!!」


「こ、これはまさか・・・!!!」


 男はアイザワ達に運ばれたはずの料理を、頼みもしないのにスプーンですくって一匙。口に運んだ。


「おいお前。これは俺たちが注文した」


「これは間違いなく米のあじだああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 なんと!米の料理を食べた男は喉をかきむしり、口から泡を吹きながら息絶えてしまったではないかっ!!


「なっ!どうしたんだケンザ・マーゴ!!」


「大変だ!ケンザ・マーゴが死んでしまった!!!」


 慌てふためく男の仲間達。


「え?死んだのこいつ?」


「何言ってるんですかアイザワさん。人間は米を食べたくらいで死にませんよ。何かの間違いです」


「大丈夫。心配はいりませんことよ」


 神の輪を背負った銀の魔槍は椅子からゆっくりと立ち上がる。


「わたくしは銀の魔槍。いいえ。神!!!」


「神?!神だってっ!!!?」


「まさか!!本物の神!!!?」


「このわたくしにできないことはなくてよ。たとえばこんなふうにっ!!!」


 銀の魔槍(オプション品として神の輪付)が手をかざす。するとなんとパエリアを口に含んだだけで床にひっくり返った男が再び立ち上がったではないか!!!


「おお!ケンザ・マーゴが!ケンザ・マーゴがよみがえった!!」


「なんということだっ!!この御方は!!銀の魔槍様は本物の神であらせられるぞっ!!!」


「ハァーハァー。一度死んでしまったようなどうやらそんな事はなかったようだな。そうだ。お前達にこの缶詰を売ってやろう。こんな素晴らしい保存食は異世界には存在しな」


「ほい。自慢の焼きソーセージだよ!薄く焼いた生地に玉葱と大根を一緒に乗せて、チーズを振りかけて、仕上げにパセリを散らしてみたのさ!!」


「へぇこいつは旨そうだ!!」


「ピザみたいっすね!頂くっすよ!!」


「うぐああああああ!!!!」


「大変だ!ケンザ・マーゴが死んでしまった!!」


「あの。あの方亡くられてしまったように見えるのですが?」


「何言ってるんですが。こんなモチモチしたおいしい触感の料理ですよ?毒なんて入ってませんよ」


「御安心なさい!わたくしは本物神ですわ!神の力を御覧なさい!!」


「おお!ケンザ・マーゴがよみがえったぞ!貴方様は本物の神!!」


「はぁはぁ!さ、砂糖だ!こいつを」


「ほれよ神の子様!あんたの大好物の蜂蜜入りパンだ!!今日はリンゴやブドウの果肉を混ぜて見たよ!!」


「これは甘いってあじさあああああああああああああ!!!!!!」


「大変だ!ケンザ・マーゴが死んでしまった!!」


「人の御菓子を横取りするからです!!当然の報いです!!!」


「大丈夫よ!今ならもれなく神の慈悲を与えましょう!!」


「おお!ケンザ・マーゴがよみがえった!!銀の魔槍様は真なる神!!!」


 銀の魔槍が地元惑星の住人達と、おそらくは別の宇宙船に乗って地球から来た者と打ち解け楽しい宴を始めているところに猫仮面の戦士がやってきた。


「おお。ここにいたかアスクレビオス」


「どうした猫仮面の戦士?」


「いや昼間の騒ぎでたいして街に被害はなかったが。それでも住人に怪我人がでなかったわけではない」


「そういえば赤ん坊を抱いた母親がいたな。軽症のようだが」


「母親はともかく赤ん坊はな。おしめの交換はともかく兵士はほぼすべて男だ。神殿にいる巫女は既婚した時点で神殿から離れるのが原則であるし未婚のものは乳が出ないだろうし」


 すると店の女将が白い液体を運びやすい革袋に入れて出してきた。


「ほら。こいつを持ってておやり!粉にした乳をお湯で溶いたもんだよ!!」


「これはこなみるくだああああああ!!!!!」


「大変だ!ケンザ・マーゴが死んでしまった!!!!」


「わたくしの神の力をもってすれば生き返らせることなんて簡単な事ですわ!!!」


「有難う我らの神よ!!貴方様にケンザ・マーゴの所持金の半分を差し上げます!!!」


「あのケンザ・マーゴってやつ。赤ん坊の為に店のおかみさんが造った粉ミルクまで飲むなんてよほど腹が減ってたんだな」


「じゃなきゃ相当意地汚いんでしょうね」

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