女王の艦隊

第27話 空を舞う宇宙一美しき神（自称）

首から下げたペンダントから声が聞こえる。

「前線司令本部神の子より銀の魔槍へ。神の輪についての操作説明をおこないますか？」

「そのようなものは必要なくてよ！神であるこのわたくしにできないことなどこの宇宙に存在しませんわ！！」

　と、光り輝く神の輪を背負った銀の魔槍様は聞いててとてもとても頼もしいことをおっしゃりましたとさ。

「そうですか。つまり貴女は知恵の神ジェフティと同じ利発な神という事ですね？」

「そうですわ！わたくしは知恵の神ジェフティでしてよっ！！」

「では作戦概要を説明します。現在、鉄の悪魔と交戦、敗走中のボウケサー。彼らを以後ＭＯＢ隊と呼称します。ＭＯＢ隊がシャルティエ市内までの撤退を完了するまでの救援活動をお願いします。同時に鉄の悪魔が市内に突入するのを阻止してください。では、作戦開始」

「え？」

　呆けた声を出す銀の魔槍の頭上を火トンボが飛んでいく。ついでに火炎放射器で銀の魔槍の頭を軽く炙って行った。

「うぎゃあああああああああああああ！！！！！！！！！！！」

「問題ありません。損傷は軽微です」

「髪が！！わたくしの美しい髪が思いっ切り焦げてますああああああああああああ！！！！！！」

「問題ありません。神の輪の権能により自動修復が開始されます。これはたとえ心臓に穴が空く様な重傷を負ったとしてもその機能を神の輪が代替しつつ治療をする極めて有能な自己修復能力です。なお、自己修復が完了する以前に神の輪を外された場合、そのまま死亡します」

「なんなんですのそれえええええええええええええ！！！！！！！！！！！」

「何をやっている！」

　銀の魔槍のペンダントからアスクレビオスの罵声が飛んできた。

「え？なんでアスクレビオスの声が？」

「青の癒し手から無線を借りた！街に侵入されないようしっかり迎撃するんだ！！建物の上に猫仮面たちが陣取って弓で攻撃しているがそれも限度があるんだぞっ！！敵の城壁内侵入数を『二十四』機以内に抑えるんだ！！」

「そ、そんな事をいわれましても・・・」

「神の輪の飛行能力を使用してください」

　神の子に言われたように空を飛んだ。すると疑似餌に引き寄せらられる魚の群れのように火トンボの鉄の悪魔が近寄って来るではないか。

　ボウケサーなる傭兵たちは羽が空を飛ぶその鉄の悪魔を火炎放射器で攻撃してくることからファイアフライと呼んでいた。

　が、アイザワはその形状から火トンボと呼び、また神の子もそれに合わせる事にした。

「火トンボを確認しました。迎撃をしてください」

「げ、迎撃ってどうすればいいんですの？！」

「フィンガーランスもしくはアームサイスの使用が適切と思われます。サイスを使用してみてください」

「し、使用するって」

「火トンボに向かって腕を振ってみてください」

　銀の魔槍は腕を振ってみた。すると肘の先、前腕の部分より三日月状の光帯が出現し、火トンボの翼を切り裂いたのである！

「おお！これは！」

「引き続き脚を前に出してください。タイミングよく動かすとコンボが繋がります」

　すると今度は前脛骨筋の辺りから三日月状の光帯が現れる。

　右に。左に。脚を。腕を。上に。下に。繰り出す度に火トンボが切り刻まれ遥か火砲の砂に向けて落下していく。

「火トンボ撃破。引き続き火トンボ撃破」

「おほほほほ！！これは大変美しいのではなくてっ！！！」

　そのまま調子づいた地上に舞い降りた剣ならぬ舞い降りた鎌となり、スモウレスラーに蹴りかかる。

「このわたくしに美しく蹴り刻まれるのが宜しくてよっ！！！」

　光り輝くサイスの一蹴りは。

　スモウレスラーの分厚い装甲で止まった。

　どすり。胴体を四本の腕で貫かれる銀の魔槍。

「でげひゃああああああああああああ！！！！！！！！！！！」

「本体に深刻なダメージが発生したようです。どうやら近接攻撃が直撃したものと推測されます」

「なんのお！痛くありませんことよっ！！！」

「今のは物凄く痛かったのではありませんか？神の輪と腹の傷を通して、向こう側の景色が見えていますが？」

　実際問題、空を飛ぶ。という体の構造上分厚い装甲を施せない火トンボと違ってスモウレスラーはどれも全身金属装甲の塊である。ゴールドスモーのみ柔らかい純金でできていそうだが、そちらはボウケサーなる傭兵が勝手に倒してくれるだろう。そして夢中になって倒している間に他のスモウレスラーに包囲殲滅陣をしかけられて全滅するのである。

「スモウレスラーに対してはキャプチャーによる攻撃をお勧めします。まずは火トンボをキャプチャーしてみてください」

「火トンボをキャプチャー？」

「こちらに対し接近中の火トンボに対し、腕を伸ばし掴むイメージを描いてください。なお火炎放射器で攻撃してくるので攻撃されないように注意してください」

　当然ながら火トンボ達は容赦なく銀の魔槍にも地上にいるボウケサーなる傭兵団にも火炎放射の砂漠の砂嵐を拭きつける。

「冗談じゃありませんわよっ！！これじゃあとてもじゃありませんが掴めませんわよっ！！」

「では、エアシフトを試してください。空気抵抗をゼロにしつつ加速する事でゼロ秒で高速移動する事が可能です。瞬間移動ではないため壁面などに接触すると自動的に停止します。激突時は空気が先に触れるため、衝突によるダメージは皆無です」

　神の子の説明を受け、銀の魔槍はエアシフトを開始した。右。左。上。下。そして素早く背後に回り込み、火トンボを右手で鷲掴みにする。

「おめでとうございます。完全にエアシフトをマスターなされたようですね」

「おほほほほ！！マネージャーの神であるこの私にとって」

「知恵の神ジェフティそのものです。銀の魔槍」

「そう！それ！知恵の神であるこの私にとってはこのようなこと造作もないことでしてよ！！・・・・でもこれだと火トンボは倒せてもスモウレスラーは倒せないのではなくて？」

「火トンボをキャプチャーしたまま旋回を開始してください。回転する方向は右左。どちらでも構いません」

　銀の魔槍は火トンボを掴んだまま右に回転し始めた。

「ほどよく回転が加わったらスモウレスラーを正面に捉えてください。ターゲットを視認したら火トンボをターゲット目がけて投げつけてください」

　遠心力が加えられた火トンボはスモウレスラー目がけて螺旋を描きながら飛んでいき、両者は衝突して大爆発を起こした。

「火トンボ撃破。並びにスモウレスラー撃破。おめでとうございます。この調子でお願いします。引き続き取り残された傭兵部隊の救援活動に向かってください」

「どうせ金メッキに群がって勝手に包囲されて殲滅されてるれんちゅうでしょう？そんなの放っておいても何の問題もありませんわよっ！！！」

「鉄の悪魔に対し一方的にやられるのではなく比較的抵抗しているＭＯＢ隊がいるようです。彼らの救援に向かってください。撤退中のＭＯＢをキャプチャーすると神の輪からエネルギーが充填され自動的にダメージが回復します。掴む場所は腕でも足でも体のどこでも構いません。ＭＯＢ隊を運んでください」

　銀の魔槍は飛行しながらＭＯＢ隊を掴み、治療しながら街まで運び始めた。

「なにをしている銀の魔槍！ＭＯＢ隊の被害が拡大しているぞっ！！」

　アスクレビオスの罵声がペンダントから轟く。

「今運んでいるところですわっ！！」

「おい銀の魔槍！！火トンボだけじゃなくてスモウレスラーまで街の城壁に近づいて着るぞ！！なんとかしろっ！！！！」

　アイザワの怒鳴り声がペンダントから響く。

「とっくに投げていますわっ！！！」

　銀の魔槍は火トンボを掴んではスモウレスラーに投げつけていた。そして戦闘開始から０：５５：００ほど経った頃。

「前線司令神の子から銀の魔槍へ。鉄の悪魔の群れの撤退の開始を確認しました。並びにＭＯＢ隊の退避行動も完了。作戦は無事成功です。お疲れさまでした」

「ぜぇはぁ。ぜぇはあふぅ・・。つ、次は何をすればいいんですの？」

「えっと。そうですね。次は」

「次は？！！」

「お風呂に入るか。宴会ですね。どちらが宜しいですか？」