第25話 ボウケサーなるチキュウとかいう田舎村から傭兵たち

「あらあら随分支度に手間取ったのね。わたくし待ちくたびれて眠ってしまおうかと思っていましたのよ?」


 銀の魔槍は依然として服装は下着のようなカッコのままである。先ほど神の子が言った事が正しければ彼女は望むのならばあらゆるものをその手で造り出すことができるはずだ。

 そう。ジェラルミンの盾だろうと核ミサイルだろうと。


「なんで鎧を造らないんだ?ナラーリクの宇宙服でも、カーマインの装備している重量級装甲服でも造れるだろうに」


「いや多分あの恰好が気に入ったんだろうな」


「最も低き場所から皆を見守る者より貴方方を連れてくるように頼まれていますの。まぁどうせ貴方方なんて役に立ちはしませんでしょうけど。さぁいきますわよ」


 先ほどそうしたように神の輪の力によりアイザワ達はゆっくりと空に浮かび上がり、そして東の壁に向って行った。

 東の城壁の上には猫仮面をかぶった兵士達が弓矢や槍をかまえ、ずらりと並んでいる。神の子は中央にある東門の辺りで既に陣頭指揮を開始していた。


「突破されないように防備を固めてくださいーーー」


「内門に木箱を積み上げろ!中に鉄の悪魔どもが嫌がる水を土カメに入れて忍ばせておくんだーーー!!!」


「市民は街の中央の川の西側に退避させろー。鉄の悪魔どもは水を嫌うからな!」


「戦える若い男を連れてきましたー!!」


「訓練を受け取らんのだろう!とっとと返せ!あ。いや待て。退避した市民の護衛でもさせておけっ!!」


「わーどっかで見た光景っすねーー」


「こういう光景を見慣れてるって言う職業も俺はどうかと思うがね」


「おーい神の子。今どんな状況だー?」


 アイザワが確認する。


「まだ鉄の悪魔どもは街を護る壁まで辿り着いてはいませんね。街の住人はもちろん兵士の皆さんにも損害はありません」


「じゃあ戦闘はこれからだな」


「いえ。戦闘はもう始まってますし犠牲者も出てますよ。あれをみてください」


「はっ?」


 東門の壁の上から砂の向こうを見る。蠢く黒い集団。鉄の悪魔とやらだろう。その手前に大勢の人が見えた。彼らはシャルティエの街の住人と違い、まるで中世ヨーロッパからタイムスリップして来たかのような鎧兜を身に着けている。


「なんだあれ?」


「遠方の街からやって来た傭兵団で、『ボウケサー』とか名乗ってましたね。あ、神殿でお話ししたチキュウとかいう村の連中も大概ボウケサーとかいう傭兵団の一員です。あの恰好の連中に見覚えは?」


「おいアスクレビオス。地球であんな恰好流行ってるのか?」


「地球の医学部で勉強していたが、あんなトンチキな格好の連中見た事ないなあ。いや。ハロウインの仮装パーティーでなら見たような気がする」


「自分も見た事ないっすねぇ」


 ボウケサーなる傭兵の集団から一人の男が前に進み出た。あたかも鉄の悪魔の軍勢に立ちふさがるかのように。


「へへへ。こいつが鉄の悪魔か。大したことなさそうな連中だな。動きも鈍そうだ。こんな奴ら俺一人で十分だぜ!!!」


 それを壁の上から見るアイザワ達。


「おい。あいつ何する気なんだ?」


「さぁ?」


 ボウケサーの一人はやたら平たい剣を出した。日本刀でも中国刀でも西洋刀でもない。薄くて平べったい。今にも折れてしまいそうだ。


「くっくっ。俺様はカッターナイフのような構造の戦場で何度折れても簡単に取り換えられる素晴らしい剣を発明したのだ!この剣で俺はチート無双するっ!!!」


 男はカッターナイフのような剣で鉄の悪魔に切りつけた。

 そう!全身がまるで鎧で覆われている巨人のような、金属の塊に対してであるっ!!!

 カッターナイフのような剣は、いともたやすく折れた。


「あ。剣が折れたな」


「折れたな」


「折れましたね」


「くくく。一度くらい俺様の剣を折った位でいい気になるなよ?この俺様の剣は戦場で簡単に刃を交換できるのだ。これをこうしてこうや・・・ちょっと待て。よし!できたぞ!!」


 男は再び鉄の悪魔に対して切りつけた。カッターナイフのような剣は再び折れた。


「くくく。二回も折った程度でいい気になるなよ?俺の剣で戦場で簡単に」


 鉄の悪魔の眼の前で刃の交換を始める男。

 ぐさり。

 男は鉄の悪魔の四本の腕に刺しぬかれ、息絶えた。


「死んだな」


「死んだっすね」


「まぁ葬式代も出せない貧乏人ために働けって言われてるしな。あいつ後でミイラにして墓に埋めてやろう」


「あれ。本来屋根の上とか。安全な場所で刃を交換する武器なんじゃないですかねぇ?」


「あら。それだとわたくしが今背中につけている神の輪とか空を方法がないとだめじゃありませんの?」


「じゃああれ単体だと欠陥品ですね」


「まぁ欠陥品だな」


 壁の上で雑談するアイザワ達。しかしそれはボウケサーなる傭兵たちも同じことだ。


「くくく。たかが量産型雑魚モンスター如きに敗れるとは地球からやってきた転生者の面汚しめ」


「所詮奴など我ら転生者の中でも最も弱い」


「仕方あるまい。俺が本物のチート能力を見せてやろう」


 再びボウケサーなる傭兵団から男が歩み出る。やっぱり一人だけ。


「俺様は相手に死ねと命令すると殺すことができる能力があるのだ。つまりお前は確実に死ぬのだ。フハハハハ!どうだ。こわかろう!!!」


 が、鉄の悪魔はカシャンカシャンと四本の腕を動かしつつ近づいてくるだけである。


「く!シカトをするつもりだな!後悔させてやるわ!!死ね!鉄の悪魔、死ね!!」


 そのまま黙ってかしゃんかしゃんと近づく鉄の悪魔。心臓も肺も無い、生命の鼓動など最初から『持ち合わせて』いない。冷血の悪魔が。そもそも血液なんて流れていない鉄の塊がボウケサーなる傭兵に対して歩み寄る!!


「な、ばかな!なぜ死なない!くそ!しねしねしねええええええ!!!」


 ぐさり。またしても四本の腕で刺された。


「あいつ何がしたかったんだ?」


「何か叫んでたみたいっすけど?まぁ僕の装甲服戦闘型なんでそんな遠くの音まで拾えるような高性能の音響センサー積んでないんで何言ってたかわかんないですけどね」


「命乞いか?どうも鉄の悪魔ってのロボットっぽいから無意味だろうな」


 壁の上で雑談するアイザワ達。しかしそれはボウケサーなる傭兵たちも同じことだ。


「くくく。どうやらあいつもまがい物だったようだな」


「単なる量産型雑魚モンスターにやられてしまうとは地球からやって来た転生者の面汚しよ」


「仕方がない。俺が本物転生者の実力を見せてやるとしよう」


 またしても一人で前に進み出るボウケサーの男。


「俺様はあらゆる生物をステータス異常にする能力があるのだ。すなわち俺こそが真のチート能力者!さあ、鉄の悪魔よ。お前をステータス異常にしてやろう!!眠れ!!」


 おそらく地球から来たであろう傭兵の男は叫んだ。

 しかし!ロボットであるてつのあくまはねむらなかった!!


「くっ!どうして眠らないんだっ!!ならば麻痺しろっ!!!」


 再び地球から来たであろう傭兵の男は叫んだ。

 しかし!ロボットであるてつのあくまはまひしなかった!!


「くっ!どうしてマヒしないんだ!!ならば毒だ!!毒に冒されて死んでしまえ!!」


 諦めずに地球から来た男は叫び続けた!人間諦めずに最後まで希望を持って努力し続けるのは良いことだっ!!

 しかし!ロボットであるてつのあくまにはどくはまわらなかった!!


 ぶすり。ゆさゆさ。ふりふり。

 諦めないその態度に敬意を評してくれたのか。鉄の悪魔は四本の腕で三回も地球から来た男を念入りに刺し、確実なる死を与えてくれた。


「ふむ。ミイラ造りには内臓を取り出して瓶詰にするのがよいときいているが。あれでは内臓がぐちゃぐちゃだな。どうするか」


「あ。死体をきちんと縫合して包帯巻いてください。それだけでも十分丁寧な葬儀になりますから」


「そうか。ではその方向でやってみるとしよう」


 壁の上で雑談するアイザワ達。しかしそれは地球から来た傭兵たちも同じことだ。


「くくく。どうやらあいつも粗悪品だったようだな」


「まったくその通りだ。集団転移で最初の戦闘で死んでしまうとは地球からやって来た転生者の面汚しよ」


「やはり俺こそが本当の選ばれし転生者だったようだな」


 性懲りもなく一人で前に進み出る地球から来た男。


「ふふふ。俺様はステータス1の最弱!!能力値も最低!!だが相手のスキルを奪うスキルを持っているのだ。これによりあっという間に成長し最強となる事ができる!!!さぁ鉄の悪魔!!貴様のスキルをうば」


 そのまま体当たりされ、踏みつけられる男。

 充分に近づいたのか。それとももうこの連中と遊ぶ必要はないと判断したのか。鉄の悪魔の赤い単眼が明滅した。するとその合図を待っていたかのように集団の背後からカのような形状の鉄の悪魔が空を飛んで出現したのだ!!


「なんだあれは?!」


「普通に飛行型だな。おそらくは相撲取りみたいな体型で四本腕の奴はタンクタイプ。盾役なんだろう。蟲みたいなのはあれの背後に隠れて奇襲の機会をうかがっていた。そんなところだろう」


 カのような形状の。ただし人間よりも大きな飛行タイプの鉄の悪魔は上空より火炎放射の雨を降らす。


「うぎゃー!助けてくれー!!」


「剣が届かないぞーー!!!」


「あつーあつー!!!」


「火をけしてくれえええええ!!!」


 ボウケサーなる傭兵団は総崩れになった。


「仕方ありません。神の戦士。門を開いて傭兵の皆さんを回収してください」


「はっ。しかし」


 猫仮面の戦士はしぶるが。


「彼らを救助した後で門を閉じれば宜しい。そもそも街の守りは神の戦士の皆様が行う事であって余所者に委ねるべきではありません」


「はっ。承知しました。門をひらけいっ!!」


 東門が開き、生き残りの傭兵たちが駆けこんでくる。


「アイザワ。俺は逃げて来た傭兵たちの治療に当たる。街の中には入れるな」


「では私はアスクレビオス様のお手伝いを致します」


 青の癒し手はアスクレビオスと共に街の方に向かう。


「了解―。じゃあ行くぞカーマイン」


「ういっす」


 アイザワはカーマインと。そして大勢の猫の戦士達と共に鉄の悪魔たちと対峙する事になった。


「相手は主に四本腕の相撲取り。それに空飛ぶ火トンボか」


「相撲取りは頑丈そうっすね。僕がミサイルで吹き飛ばすっす」


「じゃあ上飛んでるのは俺の担当だな。プラズマカッターで羽を斬り落とせば落とした奴は猫戦士の連中がトドメ差してくれるだろう」


「マグネシスで相撲取りの腕を拾って投げつけるって言うのもありですね」


「じゃ。その作戦で行くぞ」


「ほいっす」


 アイザワとカーマインは猫戦士達と連携を取りつつ壁の防衛に当たる事にした。

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