第23話 神(一応)との対話


 翌日。


「あー今頃もうイシヤマの修理終わってるんだろうなぁ」


「そうすねぇ・・・」


「出ろ。神の名のもとに審議を行う」


 猫仮面戦士が現れた。どうやら神明裁判が始まるらしい。


「国選弁護人はつけてもらえるんだろうか?」


「裁判の最中に何かやるか。刑の執行直前に何をするかを考えた方がいいな」


 何かとは。映画などでよく見る死刑が問答無用で決定するパターンである。その場合は武器を回収。カーマインの重量級装甲服のマップメモリーに記録された地図データ通りに移動し速やかに街の外に逃亡する。というプランだ。


「やっぱその場で死刑ですかねぇ?」


「無期懲役なら多少の望みはあるな。脱獄して降下艇まで行き、無線で救援を呼ぶことができる。同胞のナラーリクならともかく、『最も低き場所から皆を見守る者』が地球人を助けに来るとは少々考え難いが」


 裁判所はナラーリクの宇宙船にあった闘技場に似た構造の施設である。屋内の立体映像の空か、本物の空か。そして下に轢いてある砂が例の磁性を帯びた砂という違いはあるのだが。


「これじゃあマグネシスは使えそうにないなあ」


「あれ?バッテリーまだあるんすか?」


「ぜんぜん使ってないからな。ほぼ満タンだぞ」


「静まるがよい!神の御成りである!!」


 猫仮面戦士が叫んだ。


「いよいよ神様とやらが来るらしいな」


「やっぱ頭に輪っかとかついてるんですかねぇ?」


「カーマイン。それは天使だ。まぁ神様ならせめて空を飛ぶくらいの事はやってもらいたいもんだが」


 神は上空より出現した。胸と腰のみをわずかばかりの布でおおった小さな少女であり、背中に円形の黄色の輝く輪を背負っていた。

 そして猫耳。


「我は神!『背は低く皆を見守る者』也っ!!」


 その首には青く輝くペンダントがあった。


「あー婆さんから引き受けた今任務達成したわー。俺もう帰っていい?」


「おばあさんの一族すっね。間違いなく」


「申し訳ない。『背は低く皆を見守る者』様。お聞きしたい事があるのですが」


「お前達が奴隷として扱っていた我が姉妹たちの事か」


「反論できねえぇ」


「できないっすねぇ」


「私が解放し、この奴隷服を脱がしてやったのだ」


 と、アイザワ達に見せたのは宇宙服である。なおそれはナラーリク製である。


「そして私自ら神聖なるセーネの清き水の流れにより体を洗い穢れを落とすしたのである」


 階段の上にある玉座。そこに座る『背は低く皆を見守る者』の背後より青の癒し手と銀の魔槍が現れた。

 青の癒し手は神官服のままだが、銀の魔槍は背は低く皆を見守る者に似た、胸と腰だけ布を隠す衣装を着せられている。


「ほほほほ!砂を舐めて命乞いをするのならば考えて差し上げてもよろしくてよ?」


 いや。むしろなんだか喜んでいる着ている気がする。


「申し訳ありません。どうやらこの方たちは『最も低き場所から皆を見守る者』の仰っていた生存者のようなんですが」


「うん。そうだろうね」


「我らの一族が如何にしてこのシャルティエの地に都を築いたか。お前達に教えて進ぜよう」


 と、小さき神は遥か高い階段の上の玉座から仰られる。


「あーそれはどうも御丁寧に」


「真実を知らぬことはいらぬ誤解を招き、争いを生む。だが我らは幸いにも同じ言葉を操る者。ならば我らの歴史を伝えよう。それを聞いてから己の歩むべき道を考えるがよい」


「そう言えばどうして僕らこの惑星の人たちと言葉が通じるんですかね?」


「あのちっこい神様もペンダントしてるからな。データリンクで言語習得してるんだろう。まぁ便利だから不満はねぇよ」


 カーマインの小さな疑念にアイザワが技術的側面から答える間にも、最も低き場所から皆を見守る者は昔話を語り始めていた。


「時を遡るところ数百年も昔。神々は星々を渡る船に乗って旅をしていた」


「宇宙船だな」


「だが船の舵が壊れ、砂の大地に船は落ちた。その時食料を無限に作り出す魔法の釜が壊れ、乗っていた神は飢えと渇きにより一人また一人と死んでいった」


「あー墜落の衝撃で宇宙船の動力炉と船の食料生産装置が壊れたんですね」


「なるほど。船内のミイラは全員餓死か」


「いや。今あるのは造り直したタグ付きの模造品じゃなかったか?」


「うむ。そうだな。チキュウとかいう辺鄙な村より参った輩が神聖な墳墓をあらすのでな」


 藪蛇だった。


「話を続けよう。そこにラクダ飼いの若者が現れた。彼はわずかに生き残っていた神達に肉と乳を分け与え、そしてこの清流の絶え間なく流れるセーネの地へと導いた。神達はせめてもの礼にラクダ飼いの妻となる事を申し出た。それが我が祖先である」


「地元民に助けられて結婚したナラーリク人の子孫が神様やってんのか」


「我が一族は民を導き、都を反映させた。だが先ごろより鉄の悪魔が出没し、人々の平穏を脅かしつつある。この都には聖地の加護と、そして聖なるセーネの川の流れによりに守られ、未だ大きな被害は出ておらぬ。だが東に存在する鉄の魔城において奴らが力を蓄え、この都に攻め込んでくるのは時間の問題であろう。そこでだ」


「まさか」


「お前達。なんとかしろ。嫌なら処刑する」


「あー婆さんの一族だな」


「間違いねぇっすね」

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