第22話 檻の中の暖かい飯

 一通りの取り調べを終え、夜も遅くなってきたころようやくアイザワ達は鉄格子のある檻の中へと収監された。もちろん武器は返却されていない。


「電子ロックじゃなくて古典的な錠前式の鍵とはねぇ。まぁ相応の文明らしいが」


「で、宇宙に進出した地球人の代表であるアイザワさんはその錠前を解除できるのか?」


 アイザワはアスクレビオスに言われ、開錠を試みた。マグネシスを使用する。


「無理そうだな。この錠前あの墜落した宇宙船の周囲にあった砂鉄と同じものでできているらしい」


「なら、宇宙船が墜落した理由も俺たちが乗って来た降下艇がバランスを崩した理由もわかるな。あの周囲の砂漠は磁性が異常なんだろう」


「磁性が異常なだけで宇宙船が墜落するか?」


「銀髪の娘を考えろ。それに連中の宇宙船はオートメーション化が進んでる。マニュアル運転もやらなそうだ。何百年も前にナラーリクの宇宙船が墜落した理由もまぁ間違いなくそれだな」


 アスクレビオスは専門の物理学者でもなければ詳しく学術調査を行ったわけでもない。でもまあこの推論はほぼ当たっていると間違いないだろう。


「あの女の子達無事ですかねぇ?」


「なんだカーマイン。ちょっと前に仲間を皆殺しにした連中の心配か?」


「あ。いえ。別にそういうつもりじゃ・・・」


「まぁ青の癒し手は非戦闘員だし銀の魔槍に至ってはイシヤマに侵入した早々アイザワが殴り倒してるからな」


「放っとけ」


 USMイシヤマにおける異星人ナラーリクとの戦闘における死亡者のおよそ半数はハンガーデッキでの弾薬爆発事故である。なおその直接原因はハンガーデッキ内の整備員が撃った銃弾が弾薬箱に命中したためなのでイシヤマの犠牲者の五十パーセント以上はなぜかイシヤマ乗組員の手によって造られたという事になる。

 なお、アイザワはその後のナラーリク宇宙船内の戦闘においてその十倍近い死傷者を発生させている。現在地球と異星人ナラーリクとの間に正式な国交は樹立されてはいないが、万一老婆。『最も低き場所から皆を見守る者』が地球の法廷に対し、「怖れながらこのUSMイシヤマの修理工は儂の孫娘達を大勢傷つけ、そして殺害したのですじゃ。何千人もですぞ(兵隊用のクローン含む)」と訴えた場合、地球の法廷で下される判決は「無期刑と死刑どっちがいい?」となる。


「何をごちゃごちゃ話している!」


 見張りの猫仮面兵士がやって来た。


「脱獄をしようとしていないだろうな?」


 見張り猫兵士は錠前を確認した。


「きちんと鍵はかかっているようだな」


「そりゃ開けられないし」


「いいだろう。飯を食え」


 猫仮面兵士は鉄格子の隙間から幾つかの料理を差し出した。ハマグリの様な貝。エビ。カニ。ヒゲのある魚。ウナギのかば焼きなどである。


「これ。晩飯?」


「肉を食べていいのは貴族だけだ!!魚は一般庶民の食べ物なのだっ!!そしてお前達は罪人!!!貴様らは食べにくいエビやカニを喰え!!罪人はその蛇のような忌々しい魚がお似合いだッ!!!」


 見張りの猫仮面兵士は去っていた。


「エビやカニは食いにくい。ねぇ・・・」


「カニみそ旨いっすね。酒が欲しいっす」


「ビールならあるぞ」


「え?マジっすか?僕達罪人ですよ?」


 カーマインは土器製の瓶に入れられたビールをやはり土器製のカップに移し、飲んだ。流石に氷は入っていないがそれなりに冷えている。アイザワ達は知らない事だったが、このビールは井戸水に着けて冷やされたものだった。


「うわっ!ビールスっすね!ナラーリクの宇宙船で飲んだのよりうまいっすよ!!」


「ていうか牢獄でウナギのかば焼きなんて食わされてるとマジで最後の晩餐みたいな感じしてくるな」


「毒は入ってなさそうだが脱獄のチャンスをうかがうには体力の維持が必要だからな。食っておこう」


 アスクレビオスは塩焼きの魚を食べながらそう言った。旨かった。骨は食べられないので、白身だけ頂いて骨と内臓。頭と尻尾は残して身だけ食べた。


「さーて。飯も食ったし寝るとするか。ところでカーマイン。お前重量級装甲服着てるよな?」


「着てますよアイザワさん。素手でもこの牢屋の壁や鉄格子を壊せるくらいのパワーはありますから。で、脱獄します?」


「いや。今はいい。壁の構造は?」


「パッと見街中の建物と同じ普通の石材ぽいですけどよくわかないですね。これ偵察型じゃないもんで。センサー系たいしたことないもんで。あ。でもオートマッピングは標準装備なんでこの牢獄から出口までと、街の入り口まではしっかり地図取ってます」


「なら。脱出する際は武器を持って徒歩で移動しよう。知らない街だと迷う可能性があるから地図の場所のあるところを通って脱出。その方向で行くぞ」


「了解」


「了解っす」


「じゃあみんなおやすみ」


「おやすみー」


「おやすみなさいっすー」


 アイザワは冷たい石床に転がり。アスクレビオスは石造りのベッドの上で。そしてカーマインは立ったまま眠ることにした。


「おい。カーマイン。なんでお前立ったままなんだ?」


「え?あ。この装甲服オートバランサーあるもんで立ったまま寝れるんですよ。排泄物も下半身に接続したチューブで回収され循環する仕組みになってますし」


 頑丈な宇宙服扱いだからそれぐらいの機能は当然あるわけだが。すると突然アイザワが立ち上がり鉄格子を叩き始めた。


「看守さん!猫仮面戦士さんっ!!!」


「なんだ!何事だっ!!」


「トイレ行かせてください!!」


「よし!いいぞ!お前達全員牢屋から出ろ!!」


 アイザワとアスクレビオスは部屋を出た。


「お前も出ろ。カーマイン!」


「あ。僕は大丈夫なんで」


「そうか?トイレに行きたくなったら遠慮なく言うんだぞ。それと後でお茶と夜食のケーキを持って来てやろう!!」


「いや俺達囚人なんだぞ!?」


「本当に処刑されるのかもしれないな」


「何を言っているんだお前達?まだ起訴前で裁判も始まっていないんだぞ?それにアスクレビオスとやら。お前は仮に有罪となってもミイラ造りをすればいいじゃないか!そっちの船の修理工は墓に納める棺を造ればよいっ!!なぜ生きる為の努力を最後の最後までしないんだっ!!!頑張りたまえっ!!!」


「あのなんでそんな熱心に応援してくれるんですか猫仮面戦士さん。僕ら罪人ですよ?」


「起訴前だからな!!!まだ容疑者の段階だ!!つまりまだは犯罪者にはなっていないぞ!!街中で暴れたり盗んだりするチキュウとかいう田舎村の連中は現行犯逮捕なんで直ちに牢獄行きだがなっ!!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る