第21話 法律は守らないのに権利だけ主張する連中
「それで聖域に忍び込んだ目的はなんだ?」
猫仮面戦士は質問を続ける。
「聖域?」
「あの女性のミイラがたくさんあった遺跡ですよアイザワさん」
調書を取っていた神の子が言った。
「あー。宇宙船の残骸のことか」
「調査でいいんじゃないんすかねぇ?」
「待て二人とも。この惑星の住人達の。この街の人間に分かりやすく説明する必要があるぞ。貴方達の神聖な地を荒らしに来ましたとか墳墓を暴きに来たなどと言ってみろ。どうなるかわからんぞ」
アイザワ達が頭を悩ませると猫の戦士がさらに質問する。
「お前達。聖域で何か破壊したか?」
「あ、入り口の扉はノーカンでいいですよ」
神の子が補足した。
「入り口の扉?」
「そう言えば墜落船自体はナラーリクの宇宙船のものだったが、入り口の扉はこの街の建物と同じ建築素材と同じ石材ぽかったな」
「じゃあ後で入り口にこの惑星の住人が蓋をしたのか」
「だったら破壊してないっすねぇ」
「では、聖域はから何か盗んだのか?」
「何も盗んでないっすよね?」
「まぁ盗んでないよな」
「何体かの餓死と思しき遺体を発見した程度だな。我々は中にあったものは石ころ一つ持ち出してはいない」
アイザワ達の供述を聞いて猫仮面戦士は神の子と相談を始めた。
「この場合どうなりますか?」
「えっと。通常ならば住居不法侵入ですね。初犯ですし本来なら書類送検だけで終わる案件ですね。熱中症を避けるために物置または家畜小屋に一時退避していたなどの場合は不起訴もあり得るんですが今回は流石に国家管理の遺跡ですからね」
「では立件する方向で」
「あ。今日安息日じゃないですか。調書に大神官様のサイン要りますよ」
「十三時までしかいませんね。時間との勝負だなあ。じゃあお前達。旅の途中日中砂漠の暑さを避ける為岩肌に洞窟らしきものを偶然発見そこで涼むことにした。しかしそこは我らシャルティエの聖域であり不注意にもそこに侵入してしまった。死者の眠りを妨げる意図などなく破壊活動はしておらずまた遺跡の宝物なども一切持ち出してはいません。これでいいな?」
「あ。えっーと。それだとなんか俺らの罪なんだか軽くなりません?」
「あれ?僕達が宇宙船の中に入ったの夜だったような気がするっすけど?」
「なに?お前達わざわざ重い罪になりたいの?処刑されたいの?死にたいわけ?俺は嫌だね。てかさ。そもそもお前が街で暴れて人を傷つけたとか物を盗んだとかそういうことしてたなら俺らも容赦しないよ?その為の神の戦士なんだから。わかる?俺らの仕事は神の代理人としてこの街の生きてる人々を護る事なんだから。死んだ人を護る為に盾を持って庇うのお前?俺はそんなことしないよ?守るなら今生きて人でしょフツー。でもさあ。今回は昔の神様が乗ってたていう船でようは神様のお墓なのよ。こんな事神様の前で言ったら俺もどうなるかわけんねぇけど正直どうでもいいと思うわ。でもやっぱさ。世の中にはそういう越えちゃあならない一線てのが色々あるわけでね。お前らも見てわかったけどあの中には死体があるだけでお宝なんて何一つ残ってないのよ?」
「あ。ちなみに最深部には手動で開けられる隠し扉があって、その先にはいかにも何かありそうな棺が置いてあります。私達が神の子が置きました。開けると石板があって『財宝?そんなもの街づくりの為に全部使っちまったよバーカ』って書いてあります」
なんて優秀な神の子なんだろう。
「たださ。昔の神様の遺跡だからこの街の連中はともかく遠くの街から来た奴ら。特にあー。そうそう。あんたらと同じチキュウって村か。そっから来た奴らが遺跡を壊したり中に安置してあった遺体を盗んで売り飛ばそうとするもんだからこっちも取り締まりを強化せざる負えなくてな。どこで売ろうとすると思う?遺跡から持ち出したものをすぐ近くの街で金に変えようとするんだよ?一番近くの街で。つまりここだよ、ここ。馬鹿じゃないか。チキュウって村の連中は。墓荒らしがどうなるか知らないのかよ。まぁチキュウとかいう田舎村じゃあ他人様の墓荒らして骨の十個や百個持ち出しても無罪放免なんだろうけどここシャルティエじゃあ遺体損壊って罪に問われるのよ。器物破損とか窃盗罪とかもな。ちなみに今中にあるミイラは後から造った偽物で、全部製造番号タグ付きだ。本物は神殿内でゆっくりと眠られておられるぞ。あんまりお前らチキュウとかいう田舎村の」
「すいません!すません!地球から来た連中がほんとどうもすいませんっ!!!」
アイザワは平謝りした。
「申し訳ない。そのような大切な遺跡に土足で踏み込んだ我々が全面的に悪かった」
アスクレビオスもまた頭を下げる。
「あ。えっと。僕も地球人の血を引いてるんで、ごめんなさいです」
カーマインも誤った。一体、彼らは何を考えてそんな事をしているのか。知的文明を持つ惑星を発見したら速やかに星間連邦に報告する義務があるとか、彼らの生き方を最大限尊重しなければならないであるとか、先住文明人に対して不要な危害をくわえてはならないとか。宇宙飛行士の養成所で勉強しなかったのか。
「わかればよろしい」
猫仮面の戦士はパピルス紙で作成された供述調書を持つと取調室から出ていった。そしてすぐ戻ってきた。
「すまん。お前達を牢獄に入れるのを忘れていた」
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