第19話 ハンガー SHINE ゲームにイージーモードを搭載しようとしたから
「それじゃあまずは皆さんの身長を図りますね~~」
神の子と名乗る白い布を被った子供はアイザワ達を木の棒の前に立たせた。棒には目盛りが描かれている。
「一人目!アイザワ、百七十八!二人目!アスクレビオス、百七十五!三人目!カーマイン、百七十二!!」
猫仮面の戦士が目盛りを読み上げた。
「じゃあお次は体の傷跡などの有無を」
「まて。体重は図らなくていいのか?」
「え?そんなの素人はパッと見た目でわからないから無意味じゃないですか。むしろ太目とかやせ型とか筋肉質とかの外見的特徴の方がいいですよ。で、三人とも体に大きな傷とかありますか?」
「僕はねぇすねえ」
「カーマイン。傷なしっと」
「俺は心臓の手術をしたからな。人工心肺に血液の循環を代替させている間に心臓を取り出し、正常な血液循環が行えるように施術を行う。それこそベースボールの試合をしても心臓が破けないくらいにな。まぁこんな説明をしてもお前達には到底理解できないだろうがな。ふっ!!」
「ああ。復活の為の儀式ですね」
神の子はアイザワの胸の傷の場所をパピルス紙にメモを取りながら言った。なお、文体は当然ながらヒエログリフである。
「理解できたっ!!!?」
「この惑星の住人達を侮り過ぎだアイザワ」
「で、アスクレビオスさんでしたか。傷はありますか?」
「左腕。ついこないだの戦闘で。利き腕を派手に切り裂かれてな。だが修復カプセルでこの通りだ」
袖をまくって肩の付け根から手首の根元まである大きな傷跡を見せた。
「ほいほい左腕に大きな傷跡。では次に三人の手形を取りますね~~~」
「指紋か」
「あっ。知ってるんですね。偉い偉い」
「バカにしてるのか」
「まさか。褒めてるんですよ」
アイザワ達三人は手形を取られた。
「じゃあ最後にこの壺の中に生命の種を出してください」
と、言って小さな壺を三つ。出した。
「おい。なんだこれは?」
「話をしましょう。あれは今から八百年前だったか。それとも八千二十年前だったか」
「おい。なんだそれ」
「いえ。気にならさないでください。皆さんにとってはそう。大昔の出来事です。かつてこの地に多くの神々が住んでいました。そのうち一人がオシリスです。ある日。オシリスはベンチの真ん中に座っておりました。するとそこにレイヨウの頭を持つ神セトがやってきてこう言いました。
『おい!オシリス!!端っこに行くんだ!!これじゃあソーシャルディスタンスが保てないじゃないか!!!』
『なんだと!!私は神々の王だっ!!真ん中に座る権利があるっ!!!』
オシリスは要求を拒否し、頭に来たセトは持っていたハンガーでオシリスを絞め殺してしまいました」
「おい!なんでそこでハンガーが出てくるっ!!」
「それ以前にソーシャルディスタンスってなんすかっ!!!?」
「アンタ達はソーシャルディスタンスも知らないですかっ!!神殿の床に手をついてお祈りするとウィルスが付着して危険なんですよっ!!だから自分専用の御祈りマットとか持参するんですよっ!!!
あー。で、それでオシリスを殺してしまったセトは証拠隠滅の為に死体をバラバラに刻んだ後セーネの川に放り込んだんです。神々の王が亡くなってはさぁ大変。神達はセーネの川に飛び込み、切り刻まれた十四の体のパーツのうち十三を拾い集める事に成功しました。しかし。もっとも大事なパーツがどうしても見つからなかったのです」
「もっとも大事なパーツ。心臓か?」
「まさか」
「なら脳味噌だな」
「そんなもの鼻水を出す器官じゃないですか」
「ならどこだって言うんだ?」
「それはオチンチンですっ!!オシリスのオチンチンが見つからなかったのです!!」
「ええっと。それはどういうことっすかねぇ?」
「な、なんてことだ・・・神の王のオチンチンが見つからなかっただなんて・・・」
「ああ。男性器の喪失となれば重大な事態だな。続きを聞かせてもらおう」
「しかし偉大なるオシリスは事前にその生命の種を壺の中に残しておいたのです!!これにより新たな神を作り出すことができたのですっ!!」
「そ、そうすかっああ。それはよかったすねぇ・・・」
「なんということだ!あんまりだっ!!こんな残酷な事があってたまるかよっ!!」
「ああ。全くもってその通りだ。続きを聞かせてもらおう」
「生命の種を聖なる棺(アーク)に納めると新たなる神が誕生したのですっ!!」
「そうすっかぁ。それはよかったっすねぇ・・・」
「な、これはまさかっ!!!?」
「なにがまさかなんだアスクレビオス!!!??」
「まだわからないのかアイザワ!!生命の種はすなわち遺伝子情報!そして聖なる棺はクローン再生を意味しているのではないのかっ!!?」
「なにっ!!?つまりどういうことなんだっ!!?」
「彼ら、これはすなわち、この砂漠都市の住人があの宇宙船から降りて来た連中の末裔だとしたら?!!!」
「バカなっ!!こいつは全員宇宙人の子孫だと言うのかアスクレビオスっ!!!」
「そして自分達の成り立ちを神話という形で残そうとしたのだとしたらすべての辻褄が合うっ!!!すなわち、この砂漠都市の住人は、異星人、ナラーリクの末裔だったんだよっ!!!」
「な、なんだってーーーーーっっっ!!!!????」
「どうやら我ら神々の偉大さが理解できたようだな。ならばこれを使うがよい」
そう言って猫仮面の戦士はカーマインに裸婦画像を渡した。頭と腰に手を当てた、まことに舐め艶かましいポーズである。全裸の女性の肖像画である。ただし体は正面顔は側面を向いた、いわゆる古代エジプト遺跡絵画風。
「え?これをどうしろと??」
「なんだと?使い方をわざわざ説明する必要があるのか?」
アイザワ達以上に困惑する猫仮面戦士であったが。
「あ。たぶんその人達長旅で疲れてますからね。生命の種の提出は後日でいいですよ。どうせ宗教的儀式の意味合いが強いですし」
神の子はそのように猫仮面戦士に説明した。
「うむ。そうでありますか。ならば後日でよいぞ」
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