第18話 ウィザードリィのビショップはちょっと変わった特技があってね

 シャルティエという都市にはヨーロッパの都市にみられるような石造りの王城はなかった。代わりに川を船で渡って街の東側に比較的大きな建築物がある。入り口の両サイドに耳の上に魚のヒレのようなものがついた女性の石像が対になって建立されていた。どうやら神殿らしい。この街は政祭一致の都市らしかった。

 牢獄は都市中央の神殿にほど近い、建物であった。アイザワ達は男性陣と銀の魔槍達女性陣は別々に別れ中に入る。内部には電気なんてないので照明はもちろんロウソクである。


「この部屋で貴様達の取り調べを行う。この部屋で」


 階段を登ってすぐ左に角をまがり、直進。再び左に曲がって今度は右に曲がった先の奥にある扉を猫仮面の兵士はガチャガチャやっている。


「なにやってるんすかねぇ?」


「まさかあの鉄の扉鍵がかかっていて中に入れないのか?」


「お前達。そこの壁の長椅子に腰かけて待つがいい。あと、そっちの部屋はトイレだ」


 そう言うと猫仮面の兵士はどこかに行ってしまった。取り調べ前。即ちまだ牢獄に入っていない状態である。アイザワ達は手錠も縄もせずにまたもや放置されてしまった。


「まさか鍵を取りに行ったのか?」


「そうじゃねぇすか?」


 その間にアスクレビオスはトイレだという部屋に入って行った。そして出てくる。


「どうだった。全自動式水洗トイレでもあったか?」


「まさか。汲み取り式っすよ歴史体験の学校の授業でやったから僕知ってるんすよ。穴を掘って埋めるんすよ」


「手動式水洗トイレだった」


「はっ?なんだそりゃアスクレビオス。説明しろ」


「入り口付近に手洗い用の井戸がある。そして木製の水差しがある。奥には衝立のある便器が複数あって、そこで排泄をする。出した物は水差しの水で流す仕組みだ」


「なるほど手動式水洗トイレだな」


「待たせたな」


 猫仮面の兵士が戻ってきた。鍵を取ってきたようである。もう一人人物を伴っている。


「お待たせしました」


 それは白い布に猫の絵が描かれた被り物を被った人物である。声音。身長からして子供の様だ。


「あの。こちらの人は?」


「こちらは神の子である」


「どーもー神の子です」


「神の子?」


「あ。異邦の方に分かりやすく言いますと。神の子というはですね。神様にお仕えする神殿の雑用係の子供達ですね。中にちゃんと人間が入ってますからご心配なく」


 と、白い布越しに小さな腕をふりふり。


「はぁ」


 神の子なる白い布を被った人物は扉の鍵を開けると。


「あ。皆さんそちらの棚に武器の類を置いてください。中には持ち込めませんので」


「神の子様。こ奴らは剣のような物は所持しておりませぬが」


「でもあの長いの弓の類じゃないですか?」


「はっ。確かに。お前達。弓を棚に置け」


 アイザワ達は工具やハンドガン。ライフルを棚に置いた。


「俺は医者なんだが手術用具はどうなる?」


 アスクレビオスが確認する。


「なに医者?そうか。ならば仮に死罪となっても猶予となるだろう。奉仕活動として葬儀代も出せない貧民の為に代わりにミイラづくりを行うのだ。内臓を摘出し防腐措置を行い包帯を巻き然る。その後に埋葬を行う。遥かなる復活の為に。さすれば汝の罪は必ずや許されるであろう」


「そうか。医者というのは患者が死ぬまで決して治療を諦めないものだと思っていたが。どうやらそれは俺の勘違いだったようだな。死んでからも施術をしないといけないんだったな。認識を改めるよ」


 アスクレビオスは手術道具を棚に預ける事にした。


「そちらの鎧の方。鎧のあちこちにつけているのはなんですか?」


「これ?グレネードランチャーやミサイルランチャーっすよ」


 神の子の質問に重量級装甲服を着用したままカーマインは答える。


「まぁミサイルランチャーなんて言われてもどうせお前らにはわからないだろうがな。ふっ!」


「って、アイザワさんは言ってますけどこれがミサイルランチャーっす。あ、安全装置かけてますから爆発しませんよ」


 カーマインからミサイルランチャーを受け取った神の子はそれを両手で持ってしげしげと見定めた。そう。毎日弁当を持って自宅直ぐそばの店舗に出社する、太った妻子持ちの武器商人がアイテムを鑑定し、それが武器か。防具か。あるいは道具なのか。いくらぐらいの値打なのか。鑑定するかのように。


「なるほど。投石機の一種のようですね。火薬を詰めた金属を目標に撃ち込んで爆発させる仕掛けですか」


「なんだとっ!?ミサイルの原理が理解できるだとっ!!?


「アイザワ。この惑星の人間を過小評価し過ぎだ」


 神の子はカーマインが装甲服から取り外した肩のクラスターハンマー×2。腕のグレネードランチャー×2.そして脚に取りつけていたミサイルポッド×2を受け取ると棚に置いた。もっともカーマインの重量級装甲服は数百キロのパンチを繰り出せる代物である。その気になればこの建物の石壁くらい突き崩すことは容易であろう。


「こちらのカーマインさんの着ているのは鎧の一種ですね?」


 神の子がアイザワに尋ねる。


「ああ。そうなんだ。鎧だぜ。鎧は武器じゃない。だから脱がなくていいよな」


 神の子はやはりしげしげとカーマインの着ている装甲服を観察してから。


「ええ。もちろんですよ」


 そのやり取りを見てアスクレビオスは思った。

 これ。絶対バレてるだろうな。

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