砂漠の民と自称神とチキュウとかいう田舎村から傭兵共

第15話 古い遺跡は大概石扉などで蓋がされてるものです

「たくもうなんなんすかあの婆さん!いきなり戦争を仕掛けてきたと思えば船を直してやるだの砂漠に不時着した仲間を探しに行けだの!!」


「断ったらビーム砲でどかん。だぜ?何の意味があるんだ?」


 カーマインとアイザワは老婆の意味不明な対応に憤慨していた。


「いや。俺たちに。というか俺達が調べてもらわないと困るんだろう」


 アスクレビオスは老婆の奇妙な行動に思い当たる節があった。


「どういうことだアスクレビオス?」


「仮にだ。老婆が砂漠惑星で行方不明の宇宙船を発見し、その後で俺たちと遭遇したのならばどうだろう?」


「はっ?いやだからなんでそれで襲い掛かって来るんだ?」


「そうですよ。普通に砂漠の惑星に行けばいい話じゃないですか」


「砂漠惑星に宇宙船が降りたのが八百年前。そして宇宙船の機能は停止している。だが、生存者の信号は出ている。こんなことは普通考えられるか?」


「まぁ普通はあり得ないな」


「ねぇっすね。宇宙船が生きてれば冷凍睡眠とかあり得るっすけど」


「地球時代に大量生産されたハリウッド映画に、宇宙に進出した人類が寄生生物と遭遇するものがある。人間の体内に侵入し、ある日突然腹を食い破って成体が出現するんだっ!!」


「なにっ!!つまりその寄生生物が存在するのかっ!!?その砂漠惑星にはっ!!?」


「でもでも!!今まで人類が探索した惑星にはそんな生物はいなかったすよっ??!」


「だが、この砂漠惑星には存在するかもしれないっ!そして、あの老婆は自分達を脅かす危険を最小限にする為に、我々人類に火中の栗を拾わせようとしているんだっ!!」


「なんてことだっ!!俺たち人類はモルモットでもカナリヤでもないっ!!」


「ちょっと!貴方達五月蠅いですわよ!!今大気圏突入で運転に集中、ぎゃあああ!!」


「バランサーに異常発生!!降下艇のルート大きく外れます!!!」


「あれだな。あの銀の魔槍って奴たぶん婆さんにいらない娘扱いされたんだろうな」


「巻き添えになった青い娘可哀そうっスねぇ」


 大気圏突入直後に降下艇は大きくバランスを崩し、目標の墜落宇宙船よりやや離れた砂漠にやはり墜落した。いわゆる二重遭難という奴である。

 降下艇はSDA4169A星系第四惑星になんとか不時着したものの、赤茶けた砂漠に横転していた。後方に位置するメインノズルは半分砂に埋まっており、自力で浮上する事は不可能だろう。かと言って船体重量からして人間の手で持ち上げる事もまた不可能だ。


「なっ!これはっ!!」


「どうした青の癒し手?」


「大変ですっ!!とりあえず食料を確保しようとしたのですが水も食料もなんにもでてこないのですっ!!!」


 青の癒し手は砂漠の砂の上に例のテーブルクロスを拡げていた。


「の、のどがかわくのおおおおもおだめじゃあああああ」


 銀の魔槍は砂の上に倒れた。


「あー。やっぱあれ宇宙船内のオキアミとかクロレラ分解して造るもんだったか」


「ある程度離れるとただの布切れになっちゃうみたいですね」


「カーマイン。悪いが彼女を日陰まで運んでくれ。塩と水を飲ませて、青の癒し手に頼んで服を緩めてもらうように」


「わかったす」


「で、このままだと俺達は本当に干からびてしまうわけだが」


「まずは降下艇に積んである食料と水をバックパックに詰める」


「まーた保存食っすか。たまには新鮮なサラダとか食べたいっすねえ」


「食えるもんがあるだけ有難いと思え」


「目的の宇宙船だが『最も低き場所から皆を見守る者』から借りた地図がある」


 手鏡の形をした地図を触る。砂漠惑星が拡大され、目的の宇宙船までの道順が示される。これなら目印のない砂漠でも真っ直ぐに進めるだろう。


「宇宙の天体図から惑星表面まで地図が拡大縮小できるのか。まぁまぁ便利だな」


「容量が大きいから多少の持ち運び憎さには目を瞑るべきだろうな。銀の魔槍の体力が回復するのと、太陽が沈んで涼しくなる夜を待ってから出発しよう」


 そして、夕焼けが訪れ、太陽が沈み、月明かりと星々が瞬く夜の帳が空を覆い始める。軽く五十度を超す灼熱の砂漠が一気に十度以下まで気温が低下する。流石に氷が張る。とまではいかないが、涼しく、歩きやすい事は確かだろう。

 そして、星の砂漠に響き渡る銀の魔槍の声。


「ぶへぇやああああああ!!!!!」


 銀の魔槍が砂丘の尾根付近から転がり落ちてきた。


「なにやってるんだあいつ?」


「たぶん近道しようとしたんじゃないか?砂漠地帯では砂で足元がおぼつかないから、砂が極端に高くなっていたり、低くなっていたりしている場合、基本崩れにくい底の部分をあるくのがいいんだ」


「あ。でも砂壁が崩れたおかげで目的の宇宙船が見えてきたっすよ」


 本来は緑色だった船体は赤錆で覆われ、天然の岩のようになってしまっている。オーストラリアのエアーズロックに似ているとアイザワは思った。


「一応。工具をスタンバっっておくかな」


「武器じゃないんですか?」


「カーマイン。お前八百年前の宇宙船が入り口のハッチ開けっ放しで俺たちを出迎えているとでも?」

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