第12話 高齢者雇用促進と報道しない自由

 老婆は多忙であった。まずはUSMイシヤマの修繕作業の遅延である。ナラーリクの技術を以てすれば一時間もかからずに修復は可能であったが、実のところ老婆は少々時間が欲しい状態であった。そこで一計を案じる事にした。

 とはいえたいしたことはしていない。作業にあたるのにはナラーリクの造船技術者なので材料さえあれば損傷した船体の修復などそれこそ一瞬である。


「被弾した破損個所の修復には十分、いえ!十五分かかるとっ!!」


「ならんっ!!五分でやってみせろっっ!!!」


 この様に老婆が命令すれば修理担当者は必ず五分でやり遂げてみせるはずだ。資材さえあれば。

 なのでイシヤマの船体修復に必要な資材を逢えて遅配させることで修理作業を遅々として進まないようにした。そのせいでアイザワ達に迷惑がかかる?老婆はまったく困っていないので何も問題はない。

 その間に老婆は自分の仕事に取り掛かる。

 まずは今回の一件に関する詳細な報告書作成である。複数艦の同時データリンクにより隠蔽は実質不可能である。


「議員の娘をリーダーに廃屋に立て篭もって僕らで七日間戦争しちゃうぜ!警官隊の突入を阻止するためにSNSに生放送で動画をアップだ!!!」


 このような状態だと考えてくれればいい。

 なお、議員の娘は他の連中に拉致されたと後で公式発表されるだろう。被害者なので公務執行妨害や住居不法侵入などの前科もつかない。他の連中?さぁ。知らんな。


 老婆が命じ、最初に突入した十二名が一名を除き死亡もしくは捕虜となった。事実上の壊滅状態。これは大変不味い結果である。責任者は責任を取らねばならない。責任者はもちろん老婆である。

 が、これに救助として派遣した四十八名を加える。すると突入隊六十名。うち生存者五十二名となる。損耗率は二割以下であり、許容範囲となる。

 さらに敵の人数はおおよそ二百人。うち百八十名を葬っているので味方の損害は二十パーセント以下に抑え、九十パーセントの敵の大軍を撃滅させたという事実だけが残る。これが老婆の作成した『報告書』の内容である。


「あとはと」


 さらに老婆はネックレス型端末により記録された映像をすべて閲覧した。


「この武器を持っていない女に背中から斬りかかる映像はカット。なんか罠にかかって天井に叩きつけられる映像もカット。お!そうじゃ!!一番最初にあの闘技場で刀や槍を降らした動画を持って来てこれを最初に持って来て連中が先制攻撃したことにしよう!!その次に捕虜としてカプセルに入れられる孫娘の動画を差し込んで。この敵の宇宙船で銃撃戦をして爆発する映像は使えるな。死闘をしている感じがしてよい。でもって犠牲を出しながらもブリッジでペンダントを使って敵を倒す動画を差し込んで。最後に我が孫娘達は捕虜となった者を見事救助するシーンを入れて。うむ!完璧じゃっ!!!」


 この記録映像にはUSMイシヤマの船体データが添え付けファイルとして添付され、ナラーリク評議会に送られることになる。これを閲覧した評議会のメンバーは地球の民間資源探査船のデータを見て、


「なんというボロ船だ。まるで百年以上前の老朽艦じゃないか。宇宙を漂っているのがやっとだ。こんなもので航海する連中の気が知れないな」


 と、言うだろう。なお、イシヤマは67年前に建造され、来年退役予定である。


「随分と小さな大砲だな。一応ビームが出るようだが。こんなものバリアを展開するまでもない。我々の戦艦装甲で十分はじける」


 とも言うだろう。それは大砲ではなく飛来隕石を撃ち落とす為の対空機銃である。イシヤマは軍艦ではない。当然敵艦を討つ為の大砲など備えていない。


「戦闘員が随分と少ないな。情報によると全体の一割もいないそうじゃないか。やる気あるのか?」


 イシヤマは民間船である。なお、なぜその民間船に武器弾薬が用意されたハンガーデッキだの戦闘員だのが搭載されていたのかというと連合航海法第九条に基づき公開中の船舶の安全を守る為海賊対策として乗員の最低一割を戦闘要員としなければならないという法規定が存在する。

 軍の天下り確保の為ではない。念のため。


「脆い船だ。装甲が布でできているんじゃないのか?大気圏突入も出来ないじゃないのか?こんな相手にビームを撃ち込むのはエネルギーの無駄だ。模擬弾でも撃ち込んでやれ」


 とも言うはずだ。イシヤマは資源探査船のため、採掘した資源をスペースコロニーなどで売却する。従って地球のような大気のある惑星に降下する必要はない。それと軍艦ではない。従って装甲は持ち合わせていない。バリアシステムもない。

 評議会の判断に従い、ナラーリク先遣艦隊が地球連合所属の惑星に攻撃を仕掛ける際、初攻撃をすべて照明弾で行うがそれはアイザワ達にとって今は関係ないことだろう。


 あと、EMPパルスを受け、停電する直前。一瞬ではあるがイシヤマの船体から救難信号が発信されている。

 まぁその直後完全に停電したので救難信号も途絶えた。仮に地球連合の船舶がその信号をキャッチしていればイシヤマが何者かに撃沈されたように判断できるかもしれないがそれはアイザワにとっても老婆たちにとってもどうでもいいことだろう。


 記録映像に基づく正確な報告書を作成中の老婆は突如。孫娘の一人に声をかけられた。


「『最も低き場所から皆を見守る者』。ご報告があります」


「なんじゃ。儂は今忙しい。後にせい」


「SDA4169A星系第四惑星に派遣していた調査隊が帰還しました」


「SDA4169A?」


 老婆は動画編集作業をする手を止めた。画像は火だるまのゾンビに向かって丁度やみくもに剣を振り回すシーンでストップしている。


「それ。敵艦に突入した部隊の記録映像ですか?凄い戦いだったようですね」


「お。おう。そうじゃな」


 と返事をしつつ、老婆はこの食堂の場面も採用する事にした。


「では。調査隊の報告を聞こうかのう」

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