第10話 *「私を倒しに来た勇者の為に薬と武器を用意したぞ!!
「晩御飯終わりましたか?」
「抵抗は無意味だ。お前達の運命はもう決まっている」
USMイシヤマで会った尼僧服の女と医務室で開幕一番気絶していた銀髪の女がそう告げる。尼僧服はともかく銀髪の方はかなり不機嫌そうであった。
アイザワ達の並ぶ反対側より異星人の女が二十三人登場する。尼僧服と銀髪の女を合わせて二十五人である。
「一対一の戦いか」
「おいおい。もっと数が多い方がいいんじゃないのか?」
「アスクレビオスさん。奴らを刺激をしない方が・・・」
カーマインが止めるのも聴かず、アスクレビオスは前に進み出る。
「いいことを教えてやろう。俺はこの中で一番弱いぞ?」
「それはどうでもいい」
異星人の女戦士達は一斉に前に進み出て。
そしてその場で倒れた。
「な、貴様何をっ!!?」
「眠れ。美しき姫君達よ」
アスクレビオスが右手を高く掲げると、銀髪の娘もやはり倒れた。
「な、あれは一体っ!!!?」
「あーあれね。手品の基本だよカーマイン。右腕で派手な動作をして相手の注意を引き付けている間に左手で手品のトリックを作動させるっチュー」
「手品のトリック?」
「さっきお前も一緒に食事出すテーブルクロス使って武器調達してだろ?」
「ええ。あれでなんか出してだんですか?」
「あれでコルク栓とウニとアルコール度数の高い酒な。ウニの針の先端にアルコール塗ってそれをコルクに突き刺して弾丸にする。これで麻酔針の完成よ。コルク栓で弾道が安定するから撃ちやすいぜ」
「あ、本当だ。異星人の兵士のすぐそばにコルクが転がっている」
「血管に直接アルコール注入すると酔いが激しいらしいからな。基本構造が人間と対して変わらない連中で助かったぜ」
「ふぜけんねーー!!!」
「きちんこたたかえーーー!!」
「たたかわねけばいきのこれない!!!」
観客の一部が興奮の余り闘技場に雪崩れ込んできた。
「く、一応火炎びんも用意してあるけどこの数はっ!!」
「武器ならそこにあるじゃないか」
「いや銃なら扱えるけど僕剣なんて握った事ないっすよ?」
「誰が奴らとチャンバラするなんて言った?」
アイザワはマグネシスを起動させた。そして、闘技場の床に刺してあった刀剣類を引き抜き、雨のように群衆に向け投げ放つ。
予想だにしない攻撃を受け、暴徒は我先にと出口に向かう。転んだ者が後から来た者に踏まれさらなる大惨事を引き起こしているがそのような事はアイザワ達の知った事では。
「何をしておる馬鹿ものどもがあああああーーーーーーっっっ!!!!!」
闘技場全体に響き渡る声と共にその人物は姿を現した。
*
ピンク色の空に浮かぶ太陽に黒い点。それは徐々に大きくなり、一人の老人となった。その老人は徐々に高度を下げ、闘技場の砂地にゆったりと着地をした。
「立体映像。じゃあないっすよね?」
「まぁこの船の大将が直接出てきてくれたんだろうな。俺たちが思ったより元気なんで」
杖をついた背の低い老婆である。地球人の年齢で言えば八十歳ぐらいよりうえだろうが、異星人の年齢なので正確には把握できない。若い異星人とは違い、ゆったりとしたローブを着ている。
「儂は『最も低き場所から皆を見守る者』である」
「はっ?」
老婆に対する最初の反応はアイザワ達全員同じようなものだった。一方異星人の女性達は皆静まり返り、胸に手を当てている。敬礼なのだろう。
「我らナラーリクは親しき者以外に真の名を語る事を恥とする。ましてや貴様らのような蛮族などと」
「あーさいですか」
「が、我が孫娘達をここまで追い詰めた事は賞賛に値する。満足に値する褒美を取らせよう」
「あんたねぇ。そっちから攻撃をしかけて褒美も何も」
「しっ。翻訳機能を切れ」
アスクレビオスが合図した。
「チャンスだ。このおばあさんが恐らくこの船で一番偉い人だろう。交渉して全員地球に返してもらおう」
「何言ってるんすかアスクレビオスさん!こいつらに僕たちの仲間何十人も殺されてるんですよ!!」
カーマインが感情的になる。まぁ半数以上の生存者は同じ気持ちだろう。いきなり自分達の船に乗り込んできて仲間を殺されたのだ。
「何千人もいるこの船の乗組員を倒してかたき討ちをするのは非現実的だ。それにこの船を乗っ取っても外には何隻も奴らの宇宙船がいる」
「そうだな。死んだイシヤマの乗員には悪いがここは生きてる俺たちだけで帰るのが得策か」
「みんなもそれでいいか?」
アスクレビオスは生存者のイシヤマ乗員に意見を求め、結局彼らの大半もまたそれに同意した。
「よぉーしじゃあその方向で交渉勧めるぞー。翻訳機能オンっと。それでいいぜ婆さん」
「まずお前達の船をお前達の故郷に帰そう。そしてお前達もまたそれに乗せて帰そう。死んだ者については諦めろ。ただし償いはする」
「ほうほう」
「この『青の癒し手』と『金色の槍』をお前達の奴隷とするがよい」
「はっ?」
「へっ?」
「ちょ、『最も低き場所から皆を見守る者』様っ!!!?」
「んんーーーっっ?翻訳装置、とやらの具合がおかしいのかのう?奴隷でよかったと思うのじゃが?」
「ええっと。わかった。奴隷でいい。持って帰るよ」
「ほほほ。では帰り支度を四十分で済ませるがよい」
『最も低き場所から皆を見守る者』はそう言いつつ『青の癒し手』で手招きで呼び寄せた。
「其方に特命を与える。超高速通信を用いて連中の内情を探れ。決して気取られるなよ」
「え?あ、なるほど。承知いたしました」
青の癒し手は首のペンダントに触れながらうなずいた。
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