第8話 村長「村外れにゴブリンが出たんじゃ。退治してくれんか?

時折首を切られた仲間の死体と遭遇する。腕や手足を切られたものもあった。胴体を半分にされた死体を蹴り飛ばしながらアスクレビオスは廊下の壁にあるエマージェンシーボックスから弾薬を取り出した。


「なぁ。アイザワ」


「なんだ」


「どうしてこのUSMのイシヤマの廊下や部屋の壁のあちこちにこのエマージェンシーボックスがあるんだ?工具もなく電気がない状況で手動で開けられるようになっていて中に弾薬やら薬やら酸素ボンベやらがはいってるんだが」


「こういう突然エイリアンが襲ってきた場合を想定しているんだろう。一か所に弾薬を集中させておくといざという時に取り出せなくて困るからな。実際、今役に立ってる」


「それもそうだな」


 狭い通路を潜り抜ける。反対側から異星人の女戦士が近づいてきた。彼女は刀を冗談に振りかぶり、その刃はアイザワのヘルメットを切り裂く以前に天井に引っかかって止まった。


「と、とみちか!!」


「うりゃ」


 アイザワはマグネットブーツで異星人の腹を蹴りつけた。内臓が二つ三つひっくり返っているが多分まだ生きてるだろう。


「なんていうかあれだな。こいつら変じゃないか?」


「変も何も異星人だろう。全員女というのは気になるが」


「そうじゃない。そうだな例えるならD&Dみたいなファンタジー世界で、『この近くにゴブリンが出るようになったのじゃ。なに。お前達のような冒険者志願の若者にはうってつけの仕事じゃよ』って村長の老婆に言われて最初の洞窟に想定人数の倍で全員魔法の剣持たせているのにも関わらず罠関知スキルを持っている盗賊がいないせいでなぜか全滅したって言う感じかなぁ・・・」


「よくわからんがわかる連中にはすごくわかる例えなんだろうなそれ」


 エマージェンシーボックスを開くアイザワ。中に入っていたのは500ドル分のスペースクレジットカードだった。


「どうしてエマージェンシーボックスのの中に現金なんて入れておくんだ」


「そうだな。弾丸か傷薬を入れておいてくれないと。いざという時にすぐにつかえないじゃないか。まったく困るよな」


「どうする?捨てるか?」


「いやアイザワ。あそこのベンダーって商品を購入する事ができるはずだ」


 そこにはこの緊急事態にも関わらず非常電源と独立回線で販売を続けるベンダー。石山屋があった。即ち自動販売機があった。


「知ってるかアスクレビオス?地球にはラーメンでもハンバーガーでも注文した料理を自動的に調理して出すベンダーが『ミチノエキ』ってところにあるらしいぞ」


「そうか。機械がラーメンを造るならチャイニーズのコックは不要だな」


「何言っているんだ。ラーメンはカレーやスシと同じワショクだぞ」


『いらっしゃいませ。イシムラヤにようこそ』


 機械的に合成された女性の声で石村屋ベンダーが起動する。


『メニューをお選びください。

販売

買取

改造


「改造ってなんだ?」


『武器。スーツ。マグネシスなどの強化改造が可能です。改造には相応の資金が必要となります』


「アイザワ。これって」


「前に、食堂で噂を聞いた事あるな。ある種のハンドガンを装弾数を強化しまくるとモース硬度15のフォートレスが瞬間的に蒸発するようになるとかって」


「何言っているんだお前。ハンドガンだぞ。モース硬度15の物体が貫通できるわけがないだろ」


「まぁそうだな。とりあえず武器に関しては基本連射性能を上げていけば問題ない。いや。スナイパーライフル系は射程を伸ばした方がよかったような?」


「頼りにならないなぁ。スーツはどうだろう」


「宇宙服だから強度。酸素量。ブースト性能などが強化できそうだな。これもブーストを強化すると大気のある惑星で落下せずに延々と空を飛べるようになるだとか平地をスケートするように移動できるようになるだとか色々聞くよな。まぁ今俺達の着ているのは旧式スーツだし新しいの買った方が高性能になるのは確定だな」


「となるとマグネシス一択だな」


「金が足りないな」


「そうだな。どうしてこの船のキャプテンはエマージェンシーボックスにもっと沢山の金を入れておいてくれなかったんだろうな。こんなにも困っているというのに」


 手持ちの資金と商品ラインナップを見比べ、ぼやくアイザワ達。


「仕方ない。救急パックや酸素パックの一部を撃って金に変えよう」


「アイザワ。そんな事をして大丈夫なのか?」


「何を言っているんだ。インベントリをよく見るんだ。もう満杯じゃないか。必要な分のだけの治療薬と弾丸を持って後は売ろう」


「なに?インベントリというのはいくらでも入るものじゃないのか?」


「何をいっているんだ。インベントリに無制限に弾丸や薬が入るわけないだろ」


ほとんど無傷のままアイザワ達は進む。アイザワ達はブリッジへと通じる階段を登っていた。予想通り環境にはブリッジ要員の死体だらけであった。その中央には尼僧を想起させる。いや。聖職者にしては側面の布地が妙に薄い服をまとった異星人の女がたった一人で立っており。

 アイザワは彼がそれまでそうしてきたように彼女の腕に目がけて工具の狙いを定めた。

 だが彼女はその狙いを避けるように右腕を高く掲げ。

 もう片方の左腕を首筋のペンダントに触れさせると。

 アイザワ達の視界は光に包まれたのだった。

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