第7話 **「冒険者になりたいんだ!!


 USMイシヤマは主電源が落ちており、人工重力発生装置はもちろん照明もすべて消失している。アイザワ達はマグネットブーツと簡易宇宙服に内蔵された暗視装置により暗闇の支配するUSMイシヤマ内部においてもまるで昼間のように行動する事ができた。


「ん?ちょっとまて」


「どうしたアイザワ」


「この先ハンガーデッキのはずなんだが緊急エアロックが作動がしているな」


「どういうことだ?」


「一応念のためそこの安全金具にワイヤーで体固定しておけ。アスクレビオス」


「わかった。固定したぞ」


「よし。開けるぞ」


 用心深くアイザワはハンガーデッキの扉を開いた。廊下の大気とと共にアイザワ達に背後から斬りかかろうとしていた刀を持った女が吸い出されていく。彼女は真空中で移動するためのバーニアを持っていないのでそのうちなんにも考えなくなるだろう。


「今何か俺達の後ろを通らなかったか?」


「知らん。そんな事よりハンガーデッキで爆発事故か何かがあったようだな。異星人の艦隊のビーム攻撃か連中が内部で暴れたのかは知らんがこっちは無理そうだ。別のルートを探そう」


 若干遠回りする事になったがUSMイシヤマ動力部に到達したアイザワ。電源が落ちていたせいで動かない扉が多かったせいだろう。乗り込んで来た敵に出くわす事もなかった。


「さてと。次は艦橋に向かうぞ」


「電源が復旧したのに明瞭な指示がなかった。ということは当の昔に制圧済みと考えていいだろう。用心していくぞ」


 電源を復旧させて戻ろうとすると、開きっぱなしだったはずの自動シャッターが超高速で開閉を繰り返していた。


「これじゃあ通れないぞアイザワ」


「よし。マグネシスで一時的に動きを止めてその隙に走って通過するんだ」


 アイザワ達はマグネシスを使って荒ぶる自動扉の動きを停止させ、その隙に前に進むことにした。

 すると後方から異星人の女戦士が迫る!!


「とくにみいこちみつらののなしらもら!!!」


「おいばか!こっちに来るんじゃないっ!!!」


 アイザワ達は制止しようとしたが、地球の言葉は異星人である彼女達には通じなかったのだろう。そして丁度自動扉に差し掛かった際にマグネシスの降下が切れた。

 精肉店のスライサーにかけられる牛肉のように上半身のAパーツと下半身のBパーツに綺麗に分離される異星人の女。もちろん即死だ。医師であるアスクレビオスが検死解剖するまでもない。素人であるアイザワにもわかることだ。


「言葉が通じないって言うのは不便だな」


「ああ。悲しいね」


 かなり大規模な戦闘があったようだ。損傷した廊下を避けラウンジを経由してから再び通路に戻る事を余儀なくされる。まるでダンジョンRPGをプレイしているようだ。


「おいアイザワ。どうなっているんだこのラウンジ?」


 アスクレビオスが言うのも無理はない。テーブルや椅子。観葉植物が天井にめり込んでいるのだ。


「重力発生装置がこの部屋のだけ壊れているらしいな。もともとあの装置は人類が発明したものじゃない。どこぞの異星人の遺跡で見つけた物をコピーしたもので、原理もイマイチわかってないらしい。だからこういう事も良く起こる」


「修理はできるか?」


 アスクレビオスは尋ねるが、アイザワは予想通りの回答をするだけである。


「まともなドックに入らない限りは無理だな。暗視装置で床を見ろ」


 暗視装置を使うとところどころ長方体の柱が床から突き出ているのが確認できた。


「重力の異常部分だ。あれに突っ込むとお前も天井の植木鉢や家具の仲間入りだ。床から出てる光の柱を避けながら次の部屋へと向かうんだ」


 アイザワ達は重力の異常を避けながら部屋の中を進んでいった。

 すると後方から異星人の女戦士が迫る!!


「とくにみいこちみつらののなしらもら!!!」


「おいばか!こっちに来るんじゃないっ!!!」


 女は重力場によってはね揚げられ、その大きな胸を天井に押し付けられ続ける事になった。


「連中の言葉を理解するべきだな。可能な限り早く」


「ああ。そうだな」


天井を彩るオブジェの一つと変貌した異星人の女を背後にアイザワ達はラウンジを後にした。救いたくとも現状ではその方法がない。あるとすればメインエンジンの出力を切ってそれからであろう。

彼女を見捨ててその場を去るアイザワ達を苦悶の声を挙げる異星人の代わりに、彼女の首から下がるペンダントが恨めし気に見つめていた。



 

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