第6話 マーカーを目標に当ててクリックすると攻撃する事ができます

 アイザワとアスクレビオスは安全な医務室から出て、襲撃して来た異星人と戦う事にした。言い換えればゲームスタートという奴だ。


「アイザワ。さっきみたいにいつまでも部屋に閉じこもって至っていいんだぞ?」


「俺はここから出ないぞってか?ゾンビ映画なら確実に死ぬな。ソレ」


「国家的非常事態の時はステイルームが推奨されるらしいな。まぁそのまま津波や洪水で死ぬこともあるらしいがな」


 アイザワは簡易宇宙服。脚にはマグネットブーツ。武器は右手にプラズマカッターに左手にキネシスである。アスクレビオスは同じく簡易宇宙服にマグネットブーツ。ライトハンドガンに救急エイドキット。これは気休め程度のもので、本格的な治療をしたければこの医務室まで戻ってくる必要があるだろう。

 もっとわかりやすく言うとこのアイザワという修理工は充実した初期装備を持ち、応急手当のできる仲間であるアスクレビオスと共に出発し、自身はまた艦内の異常に感知する修理能力にたけ、また装備品を整備する事も可能であり、万一重傷を負っても出発地点の医務室まで戻ってくることができればそれを治療する事が可能であった。

 まぁ、こんなものはさして重要な情報ではないので割愛してもよかったかもしれない。

  二人はまず艦内の電源を回復させ、人工重力を正常に戻すことにした。ブリッジではなくエレベーターホールへと向かう。

 途中で異星人の戦士と遭遇した。医務室と遭遇したのと同じく女性であり、似たような宇宙服と武器を携帯している。彼女は照明が落ちているのにも関わらず、アイザワ達が平時と変わらずに歩いて近づいてくるのに極めて驚いた様子であったが、意を決して刀で斬りかかってきた。

 刀。つまり接近戦用の武器で近距離戦を挑もうとする女に対してアイザワはプラズマカッターで。つまり射撃兵器を用いて彼女の腕を斬り飛ばした。


「ウウーーン。工具は剣より強し。名言だなコレは」


「おい。アイザワ。なんて酷いことをするんだ」


「何言っているんだ。一応知的生命体なんだ。捕虜にしたら話が聞けるかもしれないしヘッドショットなんて決めたら確実に死んじゃうだろ。だから」


 アイザワはマグネットブーツを履いた足でストンピングを鋭い繰り出した。床に転がっていた異星人の女の脚部が鮮血と共に千切れ飛ぶ。


「アイザワ。いくらなんでもひどすぎるだろ」


「何を言うんだ。頭を撃てば即死してしまう。だが反撃はしなくちゃあならない。このUSMイシヤマを護る乗組員の辛い処だな。方法は思いつくか?俺は既に考えてある。こうやって腕を斬り飛ばせば攻撃力を。脚を飛ばせば機動力を奪える。な?簡単だろ」


「出血性ショックって知ってるか?基本構造は地球人と変わらないはずだからたぶんこのまま放っておけばこの女は」


「んらのなもらみちのちら!!!」


 通路の奥の方から刀を持ったまた別の異星人の女が突進してきた。表情、声音からしてかなりの殺意があるのは間違いはない。まぁ眼の前で仲間が殺されたり切り刻まれたりすれば誰だってそうなるだろう。アイザワ達だって多分そうなる。

 アイザワは左手のマグネシスを使って足元に転がる刀を持ったままの異星人の女を腕を掴むと、それを突進してくる異星人の女の腕に狙い定め解き放った。撃ち出された刀を持った腕はまるで砲弾のように異星人の女の腕を斬り飛ばし、そしてその異星人の女をアイザワは再びマグネシスで掴み、さらに足目がけて発射。今度は足を斬り飛ばした。


「なんて酷いことをするんだ」


「だってプラズマカッターの弾丸には限りがあるからな。このやり方なら異星人だらけの船内で二時間は生存できるはずだ」


「ともかく見殺しにはできないから一応治療するぞ。手伝え」


「へいへい」


 アイザワはマグネシスで切り飛ばした異星人の胴体と手足を治療カプセルに放り込むとスイッチを押して収納した。ピクピクン動いていたしまあ大丈夫だろう。


「最初に放り込んだ奴はペンダントが青。二番目は黄色。三番目は赤だったな。おそらくバイタルチェッカーを兼ねた装置なんだろう」


 アスクレビオスはそのように分析した。


「もしかして地球で言うところのスマフォみたいなもんか?」


「そうだな。地球人は飾りっ気のない板切れで会話をしたり近くにコウモリ由来の悪性新型特殊肺炎ウイルスの感染者がいないか調べたりするが、この女性達はイヤリング型携帯電話で通話したりするのかもしれん」


「このネックレスが携帯端末の一種なら位置情報を送信している可能性もあるな」


「そうだな。一応連中の仲間が来た時の為に医務室に罠を仕掛けておくか。この部屋には予備電源も重力発生装置も生きてるし確保しておくことに越した事はない」


「生存者がいればイシヤマの乗務員も来るだろう?」


「じゃあ警告文を入り口に書いておこう。異星人は読めないが地球人には読めるはずだ」


 アスクレビオスは医務室の扉に、


『この門をくぐる者、すべての希望を捨てよ』


 と、書き残した。もちろん地球の言語で。である。


「これでよし。じゃあ生存者の捜索とエイリアン退治に向おうか」



 アイザワ達が医務室を離れてまもなく一人のナラーリクの戦士が医務室までやって来た。侵入してすぐ生存信号が途絶えた者もいるが、この部屋の者は敵と戦うという通信をしてから反応がない。

 一人はバイタルが青。もう一人は黄色。最後の一人は赤だ。かなり異常で、危険な状態であることは間違いない。

 このナラーリクの戦士達が乗り込んだこの宇宙船に乗る敵兵は、(彼女達は勘違いしていたが、半数以上は非戦闘員であった)飛び道具を好んで使用する。銃を使う敵に囲まれているのかもしれない。

 そう考え、彼女は応援に向かうことにした。

 三つの反応がある部屋の扉の前に彼女は立った。扉にはナラーリクの戦士である彼女には読めない文字で何か書かれている。まぁ蛮族の文字なぞ別に読めなくてもいいだろう。

 すると黄色だったバイタルが青に。赤だったバイタルが黄色に変化した。どうやら状況が好転したらしい。通信を呼び掛けても応答はないが、まぁ中は安全だろう。


「無事か。我が姉妹よっ!!」


 室内に入った『大河を流れる船』は薬品棚の隙間から飛び出してきたナイフに額を砕かれてしまったっ!!!彼女の首のペンダントは一瞬にして青から真っ黒になったっ!!!

 その少し後。負傷したアスクレビオスを治療する為アイザワが一度医務室まで戻ってきた。


「おい。医務室のところで誰か倒れているぞ?」


「ああ。どうやら罠にかかってしまったようだな。異星人の女だ」


「どんな罠だったんだ?」


「扉を開けて中に入ると自動的にナイフが飛んできて被害者を刺し殺すというトラップだ。まさか誰もナイフが勝手に飛んで来るとは思わないからな」


「そんなの俺たちも死んじゃうだろう」


「お前はマグネシスがあるだろう。それに入ってすぐにしゃがむ。あるいは横に避ければ問題ない」


「それにしてもよくもこんな凶悪な罠を思いついたな」


「有名な罠でな。人類が地球に留まっていた頃ミシシッピーという川で使われた罠らしい」

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