第5話 宝箱を開け、装備を整えてから旅に出るがよい
「おい。アスクレビオス。電気が消えたぞ」
「ああ。人工重力発生装置もとまっているようだな。今は船内が無重力だ」
「ここ医務室だろう。予備電源に切り替えてくれ」
そう。医療施設には発電所とは別に予備電源があるのである!これは地球時代からの伝統なのだっ!!!
「それはお前の仕事だろうアイザワ。なんの為に船の修理工がいると思っているだ」
「へいへい」
アイザワは無重力でも体を固定できるベッドに寝そべった暗闇の中マグネシスを使用した。簡易宇宙服の左腕に装着され、金属物質を遠隔操作できる機能である。床に転がっているバッテリーを拾い、壁面部の予備電源起動装置に埋め込む。
「うん?」
「どうした。はやくしろアイザワ。それでも宇宙の修理屋の称号が泣くぞ」
「いや。今何かにぶつかったような」
「気のせいだろ。この医務室には俺とお前の二人しかいないんだ。早くしろ」
アイザワはバッテリーを接続し、医務室の予備電源を起動した。
「なぁアスクレビオス」
「なんだ」
「俺の隣のベッドで寝ている女は誰だ?」
「知らんな」
医務室の電源が復旧すると、アイザワの隣で銀髪の女が大口を開けて気絶していた。
「これ。さっき木星型ガス惑星にビーム撃ち込みまくっていたエイリアンか?」
「銀髪。白人女性。年齢は二十代前後。出産経験はなし。簡易宇宙服のようなものを着用。ヘルメットはなし。外見的特徴は人間と酷似している。耳の上に魚のヒレ状の耳飾り。いやこれは皮膚から直接出ているな。体の一部の様だ」
「日本刀に近い形状の刃物を所持。銃器はもっていない様だな。後持ち物と言えば首からぶら下げた青いペンダントくらいか。なんでこんなところで眠っている?」
「ここは居住区画の一番奥で普通にイシヤマが異星人にほぼ制圧されていると考えるべきだ。ただ意識がないのは脳震盪のせいだろう」
「なんでだ?」
「さっきの停電の際に俺達の首を切ろうとしたんだろうがお前の投げたバッテリーが頭に命中してこの状態。ってところだろうな。ともかくこのままにしておくわけにもいかん」
アスクレビオスは異星人の女から刀を奪うと治療カプセルに放り込んだ。
「とりあえずこれでよし。一応人道上の処置もできるし拘束もできた。さてアイザワ。敵が船に乗り込んで来たんだ。宇宙人退治に行くとするか」
「仕方ない。第一種戦闘配置だったからな」
イシヤマとアスクレビオスは軽く装備を整えると艦内戦闘に参加する事にした。
*
艦内の内部構造や配置図を完全に把握しているわけではない。が。
乗員は多く見積もっても二百名程度。老婆はそう目算していた。構造物の金属反応や熱源反応などのスキャン分析からどこら辺にエンジンがあるのだとかどこら辺に倉庫っぽいのがあるのはわかるし近づけば近づくほど。そして時間をかければかけるほど正確な情報が手に入る。
が、老婆が欲しいのはこの船の情報ではなくこの船に積まれている情報なのである。
それゆえまずビーム砲を撃って撃沈。という選択肢はあり得ない。
そして大勢の兵士を送って占拠。という選択もまたあり得ない。
例えば老婆の前にこんな人物が現れたどうするか。
「フォフォフォ。老婆よ。お主はトラックに引かれて死んでしまったのじゃ。じゃがチート能力を与えて蘇生させよう。さぁこの宇宙船に入るがよい」
ブービートラップだ。と老婆は考える。老婆が現役時代。まだ若い頃。帝国占領下の惑星アリタアに巨大な戦闘宇宙船が落下してきたことがあった。
これはよいものを拾ったと当時の帝国軍が修復し、いざ出航させようとすると、突如暴走。主砲を発射し、数百もの味方艦隊を薙ぎ払ったのだ。
そう。宇宙から降って来た巨大宇宙戦艦は平和ボケしていた老婆たちに目覚めよと放たれたブービートラップだった!!
故にいきなり大軍を送るというのはなしである。とりあえず少数の斥候を送り込むしかない。
老婆の指揮する母船より放たれた十二名の選抜兵のうち、医務室に転移し、直後にアイザワにバッテリーで殴られた者は幸運な部類に入る。
彼女達は空間転移の際真空の宇宙でも耐えられるエネルギーシールドに覆われているが、それらは転移終了直後に霧散する。要するに無防備になるわけだがハンガーデッキに転移した者の運命は最悪だった。戦闘配置についていた銃を構えた地球人の戦闘員が多数いたのだが、老婆が援護の為に行った攻撃により照明が消失。大混乱に陥っていた。そこにうかつに攻撃を仕掛けたため、地球人側が銃を乱射。
それた銃弾がハンガーデッキ内に積んであった弾薬に着弾し大爆発を起こした。USMイシヤマに乗船していた地球人の兵士と整備兵その数合わせて半数百名以上をたった一人で葬った『神の風速』は、ナラーリクの輝かしい歴史に未来永劫刻まれる英雄であろう。
食堂に転移した『皿を重ねるもの』は功績をあげられたとは言い難い。USMイシヤマの厨房では規定を無視して油を使ってのテンプラ料理が行われている真っ最中だったのだ。厨房での照明が消え、そして人工重力も消失した。熱したテンプラ油で調理中だった自称宇宙一のコックはその場で火だるまになった。
そこへ空間転移へイシヤマ内にやって来た一人のナラーリクの女戦士。彼女に幸運と言いうパラメータがあるとすれば間違いなくEランクだ。
「ひをけしえてくれえええええええーーーーーーーっっっ!!!!!!」
「ぎゃああああああああーーーーーーっっっっ!!!!」
『皿を重ねるもの』は厨房より出現した燃えさかるゾンビに抱き着かれ、食堂で絶命した。『水を流すもの』はイシヤマ内の通路を歩いていた。同じ個所に二つの脇道を発見。脇道にはそれぞれ印のようなものがあり、それは人型で、片方は赤。もう片方が青い人型だった。
なおナラーリクはクローンで増える女性のみで構成された種族である。トイレは存在するが当然男性用女性用二つに分かれているような事はない。
青は安全。赤は危険なはずだろう。『水を流すもの』は青い方の脇道に入った。小さな小部屋がいくつもあり、異臭がする。
小部屋から、汚物に塗れた男が出てきた!!
「と、トイレで用を足していたらいきなり停電して、自動吸引機が故障してっ!!!」
糞尿塗れの、ズボンを履いてない男だっ!!!当然股間は。ぞうさんは丸だしだっ!!!
「ぎゃあああああーーーーっっっ!!!!」
『水を流すもの』は突如現れたこの世のものとは思えない怪物をめった刺しにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます