第四話 一人用のポッドで脱出する準備をしていたんじゃあ

 老婆は観測情報を確認した。未知の来訪者の船は、我々より『百年以上』劣っていて、船体にはまともな『装甲』もなければ、『大砲』の一つもなく、大気圏突入も出来ない。辛うじて空間跳躍技術は持っているものの帝国の艦艇よりも遥かに劣った技術の船舶だと感じられた。

 だが油断は禁物だ。内部になんらかの寄生生物がいて、調査に行った者達を汚染し、繁殖する。という可能性もあるだろう。

 

「十隻ほどでショートジャンプ。敵艦に接近する。さらに選抜隊を選定。敵艦を調査。確保する」


「確保?破壊ではないのですか?」


「確保じゃ。可能であれば乗員も捕獲せよ。ただし船体の確保が最優先なのでできないような危険な存在であれば排除しても構わん」


「承知いたしました」


「なお突入に際してはこの空間転移突入カプセルを用いて行う」


「空間転移突入カプセル?」


「宇宙船に乗って空間転移できるじゃろう」


「はい」


「ならばミサイルや戦闘機を空間転移させて任意の位置に出現させることもできるじゃろう」


「はい」


「なら送る場所の座標がわかっておって然るべき設備があれば人間も送れるであろう」


「そうですね」


「そうですね。ではない。まぁ転移にエネルギーを使うからそうだのう。十二人ほど突入するものを選んで送り込め」


「わかりました」


 このような指示を出せるのは後方に数百を超す大艦隊がいるからである。万一彼女達が敗れ去るような事があっても総攻撃をかければよいのだ。

 そしてそれからしばらくして。


「突入隊、一名を除いて全滅いたしました!!」


「そうかそうか。全滅か。我が孫娘達は思ってたより優秀・・・全滅とな?」


 老婆がそのような報告を受け取るのは、個人用転移装置で突入隊をUSMイシヤマに送り込んでから間もなくの事であった。


未知の異星人から攻撃を受けたのにも関わらず、それは若い(といっても平均年齢二百歳程度なのだが)兵士が未熟だったせいもあり、また射線軸上に存在した木星型ガス惑星の高重力に牽引されUSMイシヤマに命中する事はなかった。

その間イシヤマブリッジ内では情報収集と全周波数での通信を続けるブリッジクルーを差し置き未知の異星人との接触を試みようとする友好派。そんなものは築けないという抗戦派。ただちに空間転移で地球圏に逃げ帰るべきだとする撤退派などに分裂し、議論を始めていた。民間船に天下りの軍人が多数乗っていた弊害である。

彼らは数十分後全員鮮血共に宙を漂い、ブリッジ内には突入して来た異星人だけになるがあまり今の彼らにはきっと重要ではない事なのだろう。

なお医務室にいたアイザワ達は日和見派である。

 USMイシヤマブリッジが西暦一八一五年に開催されたウィーン会議のような状態になっているところにナラーリクの軍艦の一隻。老婆が乗る船から一条の稲妻のような帯が伸びた。

 ブリッジに直撃した瞬間すべての計器類が目もくらむような光を放ち、荒れ狂う電気の奔流が船体を通して艦内の電気系統すべて飲み込んでいった。

 電気回路は無傷だ。船体も船員も無傷のままだ。すべての電源が落ち、照明が消えた船内のに、暗闇と共にイシヤマの乗組員たちは取り残されてしまった。

 これはEMP電磁パルスというもので電気系統に障害を発生させ、停電を起こさせる軍事技術の一つである。身近な例では自然現象の雷が存在する。最新鋭の軍艦などでは対電磁装備なども充実していようがイシヤマは資源採掘探査船。

 軍艦ではなく民間船舶であり、分厚い装甲もなければ大砲も積んでおらず、ましてやそのような極めて特殊な兵器に対する防備など備えている道理もないのであった。


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