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スティーブン博士との会話を思い出していた。
彼は、僕らにタバコを体験させた後、自分も1本拝借して、慣れた手つきでマッチを擦って、火を付けて吸い始めた。
「貴方達が乗ってきた車、元日本の会社のやつですな。アレはひどいもんだ」
「ひどい、ですか。そういう話はたまに聞くんですが、以前を知らないもので…僕にとっては、普通に乗り心地も良い車なんですが」
「ひどいというのは車自体の話ではありません。まあ、そっちもどうこう言ってますが、私も昔は知らないですから…。私がしたいのは会社の話です。特に、従業員の。」
ふーっと1つ、博士が煙を吐いた。嗅いでいてあまり気分の良くない匂いだ。
「やる気がないんですよ。従業員に。なぜかというと、日本企業、つまり自分たちの国の会社じゃないからだ。帰属意識がないんです。良くしよう。それのために動こうという意識がない」
「帰属意識…ですか。」
考えたこともなかった。ウィーランドも何やら神妙な顔で聞いている。
「橘は、日本にそれを探しに来たんでしょう。日本人の血が入ってますから。何か目的のようなものを探しに来たような感じはありました。結局、何事もなくすぐ帰りましたが」
博士は、タバコの火種を、何やら銀色の円盤みたいな皿に押し付けて消した。
「貴方達はどうです?むしろ貴方達のような仕事こそ、国のため、という意識がなければできなさそうですが」
「WHOのナノマシン処置は結構効きますよ…何も考えずに人殺しができるようになってる。なあ?陸人」
「そうだな…深く考えたことはない。僕は日本人だけど、日本のためにとか、そういう事も考えたことがない。僕は、僕個人と、周りの人の事しか考えた事しかないです。仕事に関しては特に」
この仕事を始めたきっかけは、サイコドライバーの素質があって、周りに促されるまま就いたまでだ。続けてる理由は、分からない。けれど辞める理由も特に見つからない。
「そうですか…私はたまに考えます。私は何のためにこんなことをやってるのだろうと。国を最も支えている産業であるということは事実ですが…島流しのようなものでもあるのでね…昔は私もアメリカで研究者をやっていました。DARPAの要請を受けて、生物工学を研究していましたが、ある日ここに飛ばされました。知りすぎたのか、貢献しすぎたのか。まあ、もはや一連托生というメッセージってことです」
博士が僕のカップに目をやった。
「おかわりは、いかがですか?日本のお茶は美味しいでしょう」
「あ、いえ、お気遣いなく…」
確かにこれは美味しい。ゆかりちゃんに持って帰ってあげたいくらいだ。
「あなた方も、いつかその時が来ますよ」
博士が目線を落としたまま言う
「知ってしまったから。いつか選択の時が来ます。自分がこの国の為にこれ以上、闘えるのか、どうか。あなた方は私よりもずっと力を持っている。だから、よりハッキリと、ね…」
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