第4話 未知との遭遇は突然に
……沈黙が気まずい。
先程、宰相と呼ばれていたアンドロイドが俺達現代人に対する要求を発表した。それは、俺達が地球から退去する事とある人を未来人? に引き渡す事だった。けど……
俺と美優は英治を見つめる。英治は、居心地悪そうに肩を竦めてみせた。
そう、アンドロイドの出した要求の1つが『楠木英治』の引き渡しだったのだ。勿論、アンドロイドの求める『楠木英治』と目の前にいる俺達の友人『楠木英治』が同一人物である確証は無い。しかし、どうしても見てしまう。
「僕かどうかはまだ分からないだろ? 人違いだったら恥ずかしいからあんまり見つめないでくれ」
英治は若干照れながらそう言った。
おいおい、照れることかよ。まあ、確かにタイムマシンがあるらしい文明人達から叡智溢れる人間なんて言われたら掛け値無しに凄いとは思う。それに自分がそうだと思っていて実は違ったとき、恐ろしく恥ずかしい事だろう。それも分かる。
「確かに、英治がそうとは限らないわね。英治って名前はそんなに珍しいわけじゃないし」
「楠木って姓は珍しいけどな」
うわ、睨まれた。美優が余計なことを言うなって顔をしてる。今は揶揄うのも止めておいた方が良さそうだ。
「でも、世界を救う救世主って柄じゃないでしょ」
頰を膨らませつつ美優が言う。頭痛が痛いみたいな言い方だが、指摘はするまい。
俺は学ぶ男なのだ。
「まあまあ二人とも。ともあれシェルターへ行こう。もう避難時間は過ぎてるんだ。急がないと」
……お前が言うな、と俺は言いたい。
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それから、僕達は少し急ぎつつシェルターへ向かった。普段から人通りの多くない道だけど、ここまですれ違わないのは初めてだ。
ちらりと2人の友人を盗み見る。僕が悪い事をしたわけではないけれど、先程の報道は少し2人にショックを与えたらしい。僕は特にどうも思っていないけれど。こういう時は、本人よりも隣人の方が影響を受けやすいのかもしれないな。
「それにしても、この街のこんな状態を見るのは初めてだね」
2人を和ませる為にそう言った。
しかし、2人からの反応は見られない。
はあ、なんだか肩に下げたボストンバッグがとても重く感じる。僕と浩介は各々ボストンバッグとキャリーバッグを持っていて、美優はボストンバッグが2つだ。また、制服を着るようにとは言われてないため、僕らは私服に着替えている。勿論、生徒証は持っているけれど。
閑古鳥の鳴く街中を歩きつつ、僕は今日起こった出来事に思いを巡らせた。
まずは、あの強烈な光。あれ自体がとても不自然な物だった。あれだけの光量でありながら熱量が全く感じられなかったのだ。光を僕らが知覚できた時点でそれは僕らのもとに届いている。しかしながら、それにはエネルギーが伴わなかった? う〜ん、現在確立されている科学常識に喧嘩を売るような現象だ。
次に、未来から来たという者達。彼らの行動も疑問点が多い。彼らが未来から来た、というのはテレビで中継されていた宇宙船のような乗り物とアンドロイドからおよそ間違いないだろう。彼らのいる未来では資源が不足しており、僕らの時代に移住する事でその問題を解決するとの事だった。
しかし、資源が目的ならば何でタイムトラベルして来たのが『今』なのか。少なくとも産業革命前まで遡った方がよほど資源が豊富で抵抗も少ない。まあ、これに関しては一応の答えは出ているんだけどね。それは、宰相が言った要求の1つがこの時代にしか無いからだ。とはいえ、それならそれを手に入れたらもう一度タイムトラベルすれば良いってなる。それをしようとしないのはタイムトラベル自体に制限が存在するからなのか……
そして最後が彼らの要求だ。彼らは僕達、この時代を生きる人間、を旧人類と呼んで見下している。きっとそれは技術力の差からくるものだろうけど、彼らは僕らに従属を求めてきた。抵抗すれば武力行使も厭わないと最初のスマホジャックで伝えてもいた。
現在、人類には宇宙空間でミサイルやビームを撃って戦争なんてできる戦力も無ければ技術も無い。見掛け倒しの可能性も無いわけじゃないけどSFの世界から飛び出したような相手と戦争なんて御免だ。となると、人類はとても苦しい状態にある。
さて、各国首脳陣は一体どうするのかな?
……まるで他人事みたいな言い方になったね。けれどそれには大して深くはないけど浅くもない理由がある。
宰相の伝えた要求が『楠木英治』という名の人間だったからだ。そして、僕の名前もまた楠木英治だ。
要求されたのが自分のことじゃないかと考えるのは自意識過剰かもしれない。けど、楠木姓は少ないのだ。以前学校の授業か何かで調べた時は23世帯しかいないという結果が出た。当時、「そんなに少ないの?」と驚いた記憶があるから多分間違ってない。
その中で英治という名前の少年が一体何人いる事だろうか。それに、少し心当たりもある。
ドンッ
おっと、考えるのに夢中になっていて前方不注意だった。前を歩く浩介にぶつかってしまったのだ。どうも気がつかない内に彼は立ち止まっていたらしい。
「ごめん、でもどうして立ち止ま、むぐっ……」
浩介に慌てて口を塞がれた。美優も浩介と同じ気持ちらしく、普段ならお小言を頂戴していることだろう。
浩介が数十メートル先にある公園を指差した。戸惑いつつもその先を見てみると、そこには普段からすれば有り得ない光景があった。
1人の少女が立っているのだ。周りを4体のロボットに囲まれながら。しかも、よく見ればロボット達は少女に銃を構えている。
僕は、声を上げそうになって慌てて踏み止まった。数十メートル先離れているとはいえ大声を出せば気づかれる筈だ。そうなったら僕達も銃を向けられる事になる。
美優と浩介を見ると、2人とも顔に緊張が見られる。突然の緊急事態に、2人とも動けないようだ。
それはそうだろう。平和な国の平和な時代を生きる学生にとって、銃なんて空想上の物と化している。命の危機なんて感じる事は無かった。
そう、無かったのだ。
(助けよう。2人とも動けるかい?)
僕は小声で2人に話しかける。
(え?あ、うん)
美優がとても意外そうな顔で僕を見る。
(俺としては賛成なんだけどさ。良いのか?)
浩介も怪訝な顔だ。
僕は無言で頷いた。
確かにこの判断は僕らしくない。あの少女には悪いが、この場では彼女を見捨てて自分達が助かる確率を考えるのが僕だ。普段なら間違っても知らない誰かの為に浩介と美優を危険に晒すような判断はしない。
けれど、今は違った。理性とも感情とも違う何かが、彼女を助けるべきだと叫ぶ。
正直言って無謀とも言える試みだけど、何故か上手くいくような気がした。
少女の方に目を向けると、ロボット達は少女に何かを言っている。対して少女は無反応だ。ロボットはとても人型に近い形状をしており、持っている武器は拳銃や機関銃と様々だ。推察するに、兵士ユニットで間違いないだろう。
……あまり時間は無さそうだ。
簡単な作戦を立てようとして2人の方に振り返ると、2人は各々のバッグから武器になりそうな物を取り出していた。
浩介はドローンを、美優は弓矢を。いや、なんでそんな物をシェルターに持って行こうとしていたんだ?
僕も自分のバッグからスタンガンを取り出す。
(個性的な友達を持って俺は幸せだよ)
浩介が呆れ顔でそう言った。
浩介も他人の事を言えた義理じゃないだろうに。
(弓道部とはいえちゃんと当てられるの?)
僕の問いかけに美優は少し固い表情で頷いた。
(じゃあ、美優は気づかれないように近づいてロボットを射て)
美優は小さく頷いた。
(浩介は美優が矢を射たらそのドローンでなるべく注意を引きつけてくれ。僕はこのスタンガンでロボットを壊す)
(大丈夫かよ、運動音痴のくせに)
浩介には後でスタンガンの電流を味わって貰おうか。
(よし、じゃあ行こう!)
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