第2話 狂った街
狂った音を聞いた。
シャカシャカと、見知らぬ人の耳から漏れる音。
金切り声のボーカルの声も。
走るドラムの振動も。
命のない、ギターやベースの叫びも。
世界が廻った。
狂った音。
(なんで、みんな平気なの)
この世が……狂ってるから?
だって、誰も私を気にしない。
東京。
自分の足元の下に、沢山の人がいて、自分の頭上の上にも、沢山の人がいるのに。
オカシイトオモワナイノ?
「おい、お前」
グイッと腕を引っ張られた。
知らない、男。
普通の、男。
「危ないだろーが」
はっとして、自分が駅のホームから落ちそうだった事に気がついた。
「大丈夫か。危なっかしいな」
男は爽やかに……でも心配そうに笑った。
「あなた、だれ」
狂ってない音を聞いた。
狂ってない声。
「狂ってないから、助けるの?」
「はぁ?」
私の問いに、男は首を傾げた。
「なんで、助けるの」
「ホームから落ちそうな奴がいたら助けるだろ、普通」
狂ってない声。
狂ってない眼差。
「知らない女が落ちて轢かれたって、気にしないのが、東京じゃないの」
あぁっ、と男は溜め息まじりに声を漏らした。
「俺が助けずにお前が怪我したり……電車に轢かれたら、後悔するだろ、俺が」
狂った街、東京。
誰も彼も、無表情。
若しくは、けたたましく、騒ぐ。
両極端な街、東京。
「まぁ、他人がどうかは知らないけどさ、俺は俺だし? まぁそうなだけ。――ほら、立てるか」
「……うん……」
『俺は、俺』
私は……私?
「おい、やっぱダメなんじゃねぇ? ……色々と」
「……ダイジョウブ」
プラットフォームのコンクリートに、黒いシミが出来た。
一つ……二つ……。
いくつものシミが、ポツポツとできた。
落ちた何かは、暖かかった。
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