第78話 修行をします
その後、サミューちゃんはいつも通りに白目になり倒れた。いつも通りになってしまっていることが怖いが、これがいつも通り。
その顔は幸せそうだったから、話をしてよかったのだろう。……よかったんだよね?
サミューちゃんは二秒後に白目から復活し「レニ様に休んでいただかなくては」とキリッとした顔で、私をベッドに運んだ。心配事がなくなった私も、ゆっくりと眠れた。
そして、翌日。
ハサノちゃんにもう一度、術をかけてもらう。
一度目と同じように、熱っぽさやだるさはすぐになくなった。あとはこれを維持できるように、私が【魔力操作】ができるようにならなければ。
行うことは――
「しゅぎょう!」
すでに最強である私が、さらに最強に至るための道……!
「ではレニちゃん。【魔力操作】をしてみましょう」
「うん!」
わくわく【魔力操作】!
【魔力路】を細くするための術を受けた魔法陣が描かれた大広間。そこで、ハサノちゃんは扉の前に待機していたエルフに目配せをした。
そして、そのエルフはなにかを載せたワゴンを私たちの前へと運んでくる。
ワゴンに載っているのは……大量の糸?
たぶん地色は白なのだろう。だが、不思議と七色に輝くそれはとてもきれいだ。
「ニジイロカイコという、エルフの森にしかいないカイコの繭からとった絹糸でできているの」
「きぬいと」
「ええ。
ハサノちゃんの説明にほぅと頷く。
ゲームにはなかった情報だが、魔力防御が高くなる服飾装備品にはこの糸が使われていたのかもしれない。七色に輝くエフェクトがあった気がする。
ハサノちゃんは私に向かってほほ笑むと、何本かの魔絹糸を手に持った。
すると――
「ほら」
「ふわぁああ」
――糸が空中に浮かび、編み込まれていく……!
できあがった組み紐を見て、歓声を上げる。
糸が……勝手に動いた!!
「すごい……!」
「こんなこともできるわよ?」
ハサノちゃんはさらに魔絹糸を手に取る。すると、魔絹糸はハサノちゃんの手から離れて空中へと浮かぶのだ。そして、それぞれが意志があるように動き、編み込まれ、織られていく。
できたのは……。
「りぼんだぁ!」
「レニちゃんにあげるわね」
七色に輝く平織りのリボン。
ハサノちゃんから受け取れば、さすがシルク。すべすべでとっても気持ちがいい。
「幼いエルフはね、この魔絹糸で魔力の伝え方や操り方を学ぶの。サミューは覚えている?」
「そんなこともあったかも……しれません……」
「魔絹糸による練習はサミューにとっては百年は前のことだから、記憶が薄いのね。サミューは【魔力操作】による身体強化を上げるために、走り込みや剣技、弓ばかりだったものねぇ……」
「強さはパワーです」
サミューちゃん……。
「さぁ、レニちゃんもやってみましょう。まずは一本の魔絹糸で蝶結びができるようにしていくのがいいと思うわ」
「うん!」
うまくいくかな、どうかな。
「やってみるね」
まずは魔絹糸を手に取る。うん、よし、ここまでは大丈夫。
「そっと魔力を流してみて」
「うん」
「そのあとは空中で糸を動かすことを想像してみてね」
「うん」
魔力を流すのは、たぶんレオリガ市全体を浄化したり、エルフの森の炎を消したのと同じ感じだろう。空中で糸を動かすことはまだピンと来ていないが、とにかくまずは実践!
目を閉じて、体の中にある熱いのを集める。で、それを指先に移動させるイメージして――
「れ、レニちゃん!? 待って!?」
「レニ様っ!」
「へ?」
ハサノちゃんとサミューちゃんの焦った声がする。
思わずパチッと目を開ければ、私が持った魔絹糸がびっくりするほど七色に光っていた。
「手を離して!」
ハサノちゃんの声と同時ぐらいに、慌てて魔絹糸を手放す。
すると魔絹糸から七色の光が放射線状に広がった。そして――
「あ」
――ボフンッ!!
「いとが……」
「爆発しました……」
「爆発したわね……」
みんなで顔を見合わせる。
糸を空中で操作する前に、そもそも糸に魔力が通せない……。
ハサノちゃんもサミューちゃんも驚いた顔をしているから、普通ならば魔絹糸が爆発するわけではないのだろう。
まさか私がここで引っかかるなんて思ってもみなかったようだ。
「もういっかい、やってみる」
「ええ。……もうすこし、少ない量でいいのかもしれないわね」
「レニ様、危ないと思ったら、先ほどのようにすぐに手を離してください!」
「うん」
ハサノちゃんとサミューちゃんのアドバイスを聞き、もう一度、ワゴンから魔絹糸を取る。
今度は……もうすこし少ない量をイメージしながら目を閉じる。胸の中の熱いのをちょっとだけ指先に集めて――
「れ、レニ様っ!」
「手を離して!」
二人の焦る声とともに目を開け、魔絹糸から手を離す。
するとやはり――ボフンッ!
「……ぜつぼう」
また、爆発した……。
【魔力操作】、まさかの初手で足踏み。
「普通なら魔絹糸がこんなに簡単に魔力で爆発することなんかないはず。レニちゃんの魔力が膨大すぎるのかしら……」
しょんぼりを肩を落とす。
でも……大丈夫! 最初からうまくいくことは少ない。ゲームだって失敗を繰り返し、何度もリトライし上手くなるのだ!
「めげない」
ワゴンから魔絹糸を手に取り、もう一度、集中。今度はもっともっと少ない量をイメージして……でも、また爆発。だから、私はもう一度、魔絹糸を手に取った。
「さすが……さすがレニ様です! 私は今、レニ様の尊さを体中に取り入れています。私も強くならなくては!」
サミューちゃんはそう言うと、私に向かって力強く頷いた。
「レニ様が更なる高みを目指すならば、私もともに跳ばなくてはなりません。走ってきます!!」
「うん」
サミューちゃんはそう言うと、今度はハサノちゃんに向き直る。
ハサノちゃんは私たち二人のことを微笑んで見つめていた。
「ハサノ様、レニ様のこと、よろしくお願いします」
「ええ、大丈夫よ。レニちゃんの身に危険が及ばないようにするわ」
サミューちゃんがやる気に満ちた目で私を見つめる。
なので、私はびっと親指を立てて、頷いた。
「つよくなろう」
「はい!」
サミューちゃんが勢いよく大広間から出て行く。
碧色の瞳はきらきらして、前を向く姿はとても力強かった。
「……サミューはもう大丈夫みたいね」
「さみゅーちゃん?」
「ええ。……悩んでいたようだけど、二人でちゃんと答えを見つけたのがわかるわ」
どうやらサミューちゃんが元気がないことをハサノちゃんも気づいていたらしい。
ハサノちゃんは私の前に屈み、目を合わせた。
「レニちゃんはすごいわね」
「れに、はなしただけ」
「それがなかなかできないのよ」
ハサノちゃんが私の頭をよしよしと撫でる。
気持ちよくて目を細めると、ハサノちゃんも一緒に笑ってくれた。
そして、よし! と立ち上がる。
「さあレニちゃん。レニちゃんの膨大な量の魔力を操作するには、もっともっと少量をコントロールする力が必要みたいね。――いろいろと試してみましょう」
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