第69話 もっと強くなりました

 エルフの森で女王であるハサノちゃんと挨拶した私は、【魔力鑑定】を受け、女王の住まいであるという大きな木の宮殿みたいなものへと案内された。

 まずは疲れを取るためにベッドを借りて、すこし睡眠。【封印】が解けてからというもの、すぐに眠くなってしまう。

 エルフの森へ到着したのは夕方から夜ぐらいの時間だったが、私は一度目覚めて食事を摂って、またすぐに眠ってしまったようだ。

 今は、ピチチッという鳥の声が聞こえ、窓からは朝日が差し込んでいる。いい天気。

 ゆっくり眠ったため、体もだるくない。

 というわけで。


「すてーたす」


 いろいろと新しい情報が増えたから、確認!

 今まではなかった表記が追加され、変更されていて――


 ・名前:レニ・シュルム・グオーラ

 ・種族:エルフ(魔力暴走)

 ・年齢:4

 ・レベル:999(-90%)


「まりょくぼうそう」


 今までは【エルフ(封印)】だったが、それが【エルフ(魔力暴走)】へと変わっている。サミューちゃんやハサノちゃんの話していたように、やはり今の私は魔力暴走の状態のようだ。

 そして――


「まいなす、へってる!」


 レベルの横にあるマイナス表示が97%から90%の変わっている!

 これには思わず、笑ってしまう。


「がんばってあるいたから」


 父母と別れ、旅をする中でたくさん歩いたのだ。

 体を作れば、もっと強くなるとサミューちゃんは説明してくれたが、まさにその通り。数字として表れていると感動する。

 今後もがんばらねば。

 そして、もう一つ、今までとは違う表記を発見した。


「……ばぐ?」


 なんだろう、これ。バグかな?


「まりょくちがおかしい……」


 魔力値が。魔力値がおかしいことになっている。

 これまでのMPは最大値である9999だったのだが……。


「にばい?」


 ・MP:19998/9999


 現在値が最大値を超えてしまっている。しかも大幅に。二倍。

 普通はスラッシュの右側に表記されるのが、自身が持つ最大値で、MPを消費する魔法などを使う度にスラッシュの左側の表記の現在値が減るはずなのだ。

 現在値が最大値をオーバーすることなんてないと思うが……。


「まりょくぼうそうだから? それとも……ままの?」


 ハサノちゃんが眠る前に言っていた。

 私は二人分の魔力を持って生まれた、と。

 とすれば、私が今まで持っていたMP9999と母が持っていたMP9999がそのまま私の値になってしまっているんだろうか。


「ほうぎょくのちから……?」


 母は【宝玉】に人間にして欲しいと願った。結果、母は魔力を失くし、人間の姿になったのだ。

 これまでのことと合わせて、時系列を考えると


 ・【宝玉】は母の願いを聞き入れ、魔力を吸い取り、封印した。

 ・母の魔力であるMP:9999は【宝玉】へと貯められた。

 ・【宝玉】が母から私へと受け継がれた。

 ・【宝玉】の魔力を吸い取る能力は続いており、私のMP:9999も吸い取り、封印していた。

 ・【彷徨える王都 リワンダー】の【宝玉】の力により、私と共にある【宝玉】の封印の能力が消された。


 結果、私は母の魔力と自分の魔力が一度に体へと戻ってしまった。


「……ぶじでよかったかも」


 自分の状態を考えて、すこし反省。

 【封印】が解かれたとき、目の前にガイラル伯爵がいたから、たぶん興奮していたのだとは思う。

 たくさんのリビングメイルを浄化すること、ほかの施設にまだいるこどもたちを助けることしか頭になかった。だから、魔力が還ってきたことも気にしなかったし、それを一気に使うことにも躊躇はなかったのだ。

 が、MP:19998が一気に体に巡ったと考えると、私はあの瞬間に変になってもおかしくなかったのではないだろうか。

 サミューちゃんが言っていた「レニ様が今、普通にしていることが、私には奇跡に思えます」というのは、たしかにその通りだったようだ。


「ずっとこうなのかな」


 リビングメイルを浄化するために、魔力をたくさん使ったはずだ。

 だが、現在値は二倍ある。もしかしたら、最大値はMP:9999となっているが、それは私自身の最大値であり、【宝玉】と共にある間は、二倍あるのが普通なのかもしれない。

 つまり。


「げーむより、つよい」


 ふふっと思わず笑ってしまう。

 ゲーム内ではすでにMAXになっていた魔力値。だが、今やそれを大幅に越してしまった。しかも、ゲーム内にはなかった【魔力操作】もできるわけで、もはや私のポテンシャルは最高潮なのでは?

 さすが、最強四歳児。まだまだ伸びしろ。


「レニ様、目が覚めましたか?」

「さみゅーちゃん。どうぞ」


 ベッドで一人で笑っていると、扉がノックされた。

 サミューちゃんが来てくれたようだ。


「レニ様、体調はいかがですか?」

「うん。だいじょうぶ」


 よく寝たから、眠くもないし、熱っぽさもすくない。

 ので、そう答えると、サミューちゃんはほっとした顔をした。


「昨夜、レニ様について話をしました。ハサノ様は現在のレニ様の症状を抑える方法があるようです」

「そうなの?」


 【魔力暴走】を起こしたエルフは亡くなると聞いていたし、だからこそ、母は【宝玉】へと願ったはずだが、そうではなくなったのだろうか?


「ハサノ様はレニ様のお母様が【魔力暴走】を起こし、そこからずっと研究されていたようです。もう二度と亡くなる仲間がいないように、と」

「すごいね」


 研究というのがどういうものかわからないが、きっと大変なことだろう。

 ハサノちゃんは女王もしていたはずだから、苦労もより多そうである。

 ハサノちゃんの優しいまなざしや、頭を撫でてくれた手を思い出し、胸がきゅっとする。


「根本的な解決にはならないようですが、レニ様の体のだるさや眠気、熱っぽさはなくなるようです。それにより、レニ様の体が大きくなり、魔力に耐えられるように成長を待つことが狙いです」

「うん」


 サミューちゃんの話はわかりやすい。

 いつものことだが、こどもである私にも、これからなにをするか、どうなるかを説明してくれるので、すごく安心ができる。

 本当は根本的に【魔力暴走】を終わらせることができればいいのだが、そうなると母のように魔力を失くすという方法になってしまう。

 今回はそうではなく、私に出ている症状に対応する方法のようだ。


「その方法は【魔力路】を細くすることです」

「まりょくろを……ほそく?」

「はい。エルフと人間の違いは魔力の循環であるという説明は覚えていますか?」

「うん」


 エルフは血液と同じように、魔力が循環してるんだよね。だから魔法が強かったり、寿命が長かったりするのだと話してくれた。


「今、レニ様の体は突然増えた魔力により、循環する魔力が大きくなりすぎ、魔力の通り道に負担がかかっている状態なのです」

「なるほど。まりょくのみちが、まりょくろ、だね」

「はい。【魔力路】が膨張することで、体がだるくなり、眠気や熱っぽさが出るようです。ですので、今は太くなってしまった【魔力路】をレニ様の体に合わせて、もう一度細くするのがいいのではないか、と」

「わかった。それ、やる」


 サミューちゃんの言葉に頷く。

 【魔力路】を細くしてしまうと、魔力を出す量が制限されて、弱くなってしまいそうではある。が、今はそうするのがいいだろう。

 この眠気や熱っぽさとずっと付き合っていくのは大変だし、体に合わせた量が大切なのは私でもわかる。

 私の体はまだ四歳。MP:19998を操るには、幼すぎるのだ。

 私が頷くと、サミューちゃんも力強く頷いてくれる。


「では、レニ様、詳しいことはハサノ様から説明があると思います。まずは着替えて、ハサノ様の元へ。すでに準備を進めています」

「うん」


 では、魔力路を細くしましょう!

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