第68話 レニちゃんは天才
レニの【魔力鑑定】をした、現エルフの女王ハサノとサミュー。二人は相談の上、レニを一度、寝室へと運んだ。レニに休息を取ってもらうためだ。
そして、レニがベッドで眠ったのを確認したあと、二人は部屋を移し、話を始めた。内容は――レニの魔力について。
「レニ様の【魔力鑑定】の結果はどうだったのですか?」
サミューは不安げな表情でハサノを見た。
【魔力鑑定】を行ったあとのハサノの言葉。それがずっと気になっていたのだ。
ハサノは一度目を閉じ、息を吐いてから話を始めた。
「レニちゃんが【魔力暴走】の状態であろうことは予想がついていたわ。ソニヤから話を聞いていたから。そして、実際に鑑定してわかったの」
「レニちゃんは自身の魔力とソニヤの魔力。両方を一人で持っているわ」
「そんな……っ」
そんなことが可能なのか。サミューは自分の耳を疑った。
一人で二人分の魔力を持っているなんて……。
「そもそもソニヤは魔力が強かった」
「はい。歴代エルフの中でも一番であろうと聞いています。そのため、通常のエルフとは違う色を持って生まれたと」
「そうよ。ソニヤは……特別な子だったの。普通のエルフは金髪にグリーンの目。けれど、ソニヤは銀色の髪に青い瞳を持っていた。これは伝説の始祖のエルフの持つ色」
ソニヤはエルフの中でも魔力が強かった。生まれてすぐにその色から力がわかり、次代の女王になるだろうと言われていたのだ。
「ソニヤが女王になるまでは良かった。けれど、その強い魔力が制御できなくなったとき、私は……しかたがないことだと思ったの」
ハサノは当時のことを思い出していた。
すばらしい魔力を持った自慢の妹。次代の女王として育ち、心も優しかった。
……少し、特別待遇で育ったため、エルフの中でもかなりおっとりとした、世間ズレしていない子に成長したのだが。しかし、それもまた魅力的だった。
【魔力暴走】を聞いたとき、ハサノはとても悲しかったし、なんとかならないかと思った。が、どこかで、それはしかたがないと思ってしまったのだ。
強い魔力を持って生まれた特別な子。だからこそ、そういう悲しみもあるのかもしれない、と……。
「エルフは長生きし過ぎるのかもしれないわね。……個々での生き方よりも、大きな流れの中での生き方を考えてしまう」
「私は女王様……ソニヤ様の【魔力暴走】を聞いたとき、絶望しました。力がない自分を責めるばかりで、結果なにもできず……」
ソニヤの運命を変えたのはウォードだ。
ソニヤの特別性などなにも気にしていなかった。大きな流れの中ではなく、個としてソニヤとともに生きたいと願い、そのために行動した。だから――
「レニちゃんは決して、死なせない。しかたないと諦めたくない」
「はい。レニ様とともにずっと過ごしたいと思います」
二人はそれぞれの決意を瞳に込め、頷き合う。
「【魔力暴走】を起こしてしまったソニヤの魔力に足して、さらにレニちゃん自身の魔力も大きい。どうして二人分の魔力を受け継いでしまったかわからないけれど、必ず魔力を制御できるようにしましょう」
「はい!」
「実は、私はソニヤのときにも、いろいろと調べてはいたの」
「……ハサノ様は研究を主にしていたのですよね」
「ええ。ソニヤのときには間に合わなかったけれど、あのときの反省を生かし、今はもっと効率よく調べられるようにし、研究も続けていたのよ。もう二度と【魔力暴走】で亡くなる仲間を見ることがないように」
ハサノがふふっと笑う。
サミューはその表情を見て、視線を下に落とした。
「ハサノ様……。ソニヤ様の際、諦めていただけではないではないですか……。それに比べて私は……」
「サミューは人間の男と一緒に【宝玉】を手に入れてきたでしょう?」
ハサノはサミューの肩にポンと手を置いた。
「レニちゃんは幼い体に大きな魔力源を持っている。それも二つも。だから、体を巡る【魔力路】がどんどん太くなり、それが体に負担がかかっている状態だと私は考えているの」
「【魔力路】の膨張がレニ様の体の負担に……」
「発熱、体力の低下、眠気の増加、気怠さ。ソニヤにも出た症状は【魔力路】の膨張だと私は研究の末にたどり着いたわ」
ハサノはサミューを勇気づけるように頷く。
「まずはレニちゃんが起きたら、体内の【魔力路】を細くする術をかけましょう」
「細くするのですか?」
「根本的な解決にはならないけれど、レニちゃんが今、苦しんでいる症状は少しは楽になるはず」
「わかりました!」
サミューが顔を上げる。
ハサノはそっと目を閉じた。
「レニちゃんは天からの才能に恵まれている。……それが悲劇にならないように」
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