第35話 レオリガ市の門前です
女の子と別れたあと、私はサミューちゃんと一緒に歩き、ついにレオリガ市へ到着した。
ドラゴンとのごたごたがあったけれど、レオリガ市に被害はまったくなかったようで、とても平和だ。
女の子も無事にレオリガ市へついているだろう。
「……おおきいね」
レオリガ市は石の塀で囲まれていて、入るための門はとてもとても大きいものだ。
その門を遠目で確認して、思わず声が漏れた。
「この辺りで一番、栄えた場所です。石造りの家が多いのが特徴です」
「たのしみ!」
サミューちゃんの言葉に胸がウキウキとする。
父、母と暮らしていた村を出て、道中、街や村に寄ったけれど、それもとても楽しかった。
ゲームの世界に転生して、実際に自分の目で見て、耳で聞いて、鼻で嗅いで、手で触れて……おいしいごはんも食べて。
旅に出てよかった!
「レニ様、レオリガ市に入るには門で検査を受ける必要があります。私はエルフの国の証明書を持っているのですが……」
サミューちゃんはそういうと、カバンから一つの石を出した。
碧色でてのひらに載るぐらいの大きさ。
「これが、しょうめいしょ?」
「はい。魔力が込められていて、調べるための魔道具があれば、私の名と両親、それを証明する現エルフの女王様の刻印がわかるのです」
「そうなんだ」
ゲーム内では街や市へ入るために、そういう検査はなかった。
転生前の世界で考えると、戸籍みたいなものだろうか?
「証明書の発行元はだいたいは生まれた街や市、都です。エルフは人数が少ないことや長寿なため、国全体で把握しています」
「なるほど」
「大きな街や市、都であるほど、検査はしっかりしたものになります。あえて検査せず自由にすることで発展しようとした街もあったのですが、治安が悪くなり、あまりいい評判は聞きません」
「れおりがしは?」
「門での検査は行われているようなので、これまでの村や街に比べれば、対処していますね」
サミューちゃんの言葉にふんふんと頷く。
スラニタの街にも門はあったが、実質、顔パスだった。
父や母と買い物に行ったけれど、止められたことはない。
道中の村や街も、私とサミューちゃんが入るのを拒む場所はなかった。
「この市の規模だと、魔道具は高価なため、所持していないと思います。人間は紙やプレートによる証明書が多いので、肉眼での確認が主でしょう。エルフの証明書を読むことはできないと考えますが、私の容姿とこの石を出せば、入門を許可しない者はいません」
そこまで言うと、サミューちゃんは表情を曇らせた。
「ただ……レニ様は証明書がないため、検査を受けると中には入れないのです」
「れに、しょうめいしょ、ない?」
「はい……。申し訳ありません。レニ様が生まれた際、レニ様のお母様……女王様は証明書を作らないと判断されたようです。……それがレニ様を守ることにつながるだろう、と」
サミューちゃんの言葉に、当時の状況を考えてみる。
父は怪我をし病床へ。母は働きづめで借金。
エルフの女王である母と、人間の父との間に、普通なら生まれるはずのない、私が生まれた。
世間から隠す意味でも、借金取りに無理やり私がさらわれないようにするためにも、証明書は作らないほうが良かったのだろう。
現に借金取りたちは私のことを死んだと思っていた。
「レニ様にも、きちんとした証明書を作るべきなのでしょうが……」
作るべきか作らないべきか。どうやって作るべきか。
サミューちゃんは考えてくれているのだろう。
「しょうめいしょ、いつつかう?」
「そうですね……。現時点では門の検査ぐらいでしょうか」
「じゃあ、だいじょうぶ」
ふふんと胸を張る。
「れに、ふーどあるから」
そう! 【隠者のローブ】があれば、門での検査などなんの意味もない。
「さみゅーちゃんのちかくをあるいて、けんさをつうかする」
気配遮断をして、見つからないように入ればいい。
たぶん、サミューちゃんも最初からそのつもりだったと思う。
なので、問題ない、と頷くと、サミューちゃんは、ほっと息を吐いた。
「今後、必要になった際には、どんなことをしても入手しますので」
「……うん」
サミューちゃんのきれいな碧色の目がギラッと輝く。
でも、そんなに必要になることはないと思うけど……。
「では、参りましょう」
「ふーどするね」
しっかりと【隠者のローブ】のフードを被る。
途中まではサミューちゃんと手を繋いで歩き、門での検査では人に当たらない場所でそっと待機。
サミューちゃんの言っていた通り、検査は石を見せると、すぐに終わった。
気配遮断をしている私もだれにも気づかれない。
そして――
「すごい!」
「はい。今までとは趣が違いますね」
――レオリガ市は今まで見た風景とはまったく違っていた。
灰色の石を積んだ家は四角い家がほとんどで、四階建てや五階建ても見える。
これまでの村や街は木造家屋が多く、二階建てや平屋が多かった。
壁の色は茶色じゃなくて灰色だし、大きい! 道もしっかり舗装され、どの道もきれいな石畳。大通りは馬車がすれ違って、歩行者も左右で歩けるぐらい広かった。
石造りの壁には色とりどりの日よけがついていて、灰色の景色をカラフルに彩っていた。
「さみゅーちゃん、いいかおりがする!」
「出店があるようです。なにか召し上がりますか?」
「うん!」
――お肉食べたい!
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