第34話 回復薬の出番です
「そっ、それでは、レオリガ市に滞在していてください。連絡します」
女の子は頬を赤くしたまま、それだけ言うと、女性たちの元へと帰っていった。
「やりました! やりましたね、殿下!」
「殿下……殿下が同世代の子と会話を……」
「殿下ぁ!」
「こ、これぐらい当然ですわっ! それより、ここの現状を報告し、兵士たちを助けるようレオリガ市に連絡をとらないといけません。一番足がはやいのはだれ? とにかく、いそがないと……」
どうやら、女の子は兵士を助けるために、レオリガ市と連絡をとろうとしているようだ。ドラゴンに吹き飛ばされて、みんな大変そうだもんね。
「たすける」
「えっ……?」
「れににおまかせあれ」
ふふんと胸を張り、安心できるよう、大きく頷く。
「さみゅーちゃん、けがしたひと、ひどいひとからつれてきてほしい」
「はい。それはできますが……レニ様の能力が人に知られるのは……」
「だいじょうぶ。いま、ねこだし」
そう! ドラゴンと戦ったままだから、【猫の手グローブ】をつけている。今の私は猫獣人なのだ。変装はばっちり!
「……わかりました」
「うん。おねがい」
サミューちゃんはちょっとだけ考えて。仕方なさそうに笑ったあと、すぐに体を反転させた。私も行動開始!
「まっててね」
女の子に声をかけて、微妙に距離を取る。女の子たちの視界を塞ぐような木の向こう側へと行くと、私はしゃがんで、こっそりと呟いた。
「あいてむぼっくす」
言葉とともに表示されるたくさんのアイテム。私はそこから【回復薬(特上)】、【回復薬(上)】、【回復薬(並)】を選んでいく。
一気に出すこともできるかもしれないが、私のことだ。絶対にこぼす。間違いない。
なので、慎重に一つずつ選び、胸元に出現するそれを抱きかかえては地面に下ろしていった。
「ひとつ、ふたつ、みっつ……こっちからはとくじょうで、こっちがわはじょうで……」
一つずつ区分けをしながら置いていく。
何個ぐらいいるかな? 全部で20ぐらいあればいいかな?
「あ、うまのぶん」
馬も治してあげよう。
「にじゅういち、にじゅうに……さんじゅう!」
地面にきれいに並んだガラス瓶。特上、上、並と区分けされていて、なかなか壮観だ。
「レニ様、まずは一人目と二人目です」
サミューちゃんが両肩に兵士を乗せて、私の元へとやってくる。
うん。サミューちゃんって力持ち。
「ありがとう。そこにねかせてほしい」
「はい。……それにしても、さすがレニ様ですね。効果の高い回復薬がこんなにたくさん並んでいる光景は目にできるものではありません。区切って置いてあるのは効果が違うからですか?」
「うん。よくきくのとふつうのと。けがにあわせてつかえるようにした」
「効率的ですね。兵士を運び終われば、私も回復薬を配るのを手伝います」
「おねがい。あと、うまもかいふくする」
「わかりました」
サミューちゃんは私との会話を終わらせると、また去っていく。吹き飛ばされた兵士や馬を探しながら、重傷の人から連れてくるのは大変だろうが、サミューちゃんになら任せられる。
なので、私は【回復薬(特上)】を持ち、寝かされた兵士へと近づいた。
「だいじょうぶ?」
「……」
「きこえる? さわってるのわかる?」
「……」
……うーん。反応がない。これはかなり危なそうだ。回復薬を飲めれば良かったんだけど、それも難しそう。
ならば――
「あいてむぼっくす」
胸に抱えていた【回復薬(特上)】を地面に下ろし、代わりに【回復薬(神)】を選ぶ。
うん。父に回復薬を浴びせ続けたことが、ここでも役に立ちそう。まさに怪我の功名!
「つめたいけど、がまんしてね」
ふたを開けた【回復薬(神)】を兵士にバシャーとかける。びしょ濡れだけど、許して欲しい。治るから。
「どうしたんですの!?」
私の行動に女の子が声を上げる。まあ、びっくりするよね。
女の子は急いで私のそばまで来ると、兵士の隣で腰を落とした。
びしょびしょになった兵士はうっ……と呻いて――
「殿下、ですか……?」
「そうよ。具合はどう?」
「あ、これは、御前で申し訳ありません」
「そのままでかまいません。それより体は? 痛いところはありませんの?」
「そうですね……少し倦怠感が」
「大けがだったのに、疲れているだけ……。今、陣を整えているから、そこで休んでいて」
「はっ」
意識を取り戻したらしい兵士は女の子を見て、慌てて体勢を変えようとしたが、女の子はそれを制した。
そして、私を見つめて――
「あなたってすごいのね」
「うん。れに、すごいよ」
茶色の目が驚いてまんまるになっているから、私はそれにふふっと笑って応えた。
「つぎにいく。なおったへいし、おねがい」
「わかりましたわ!」
女の子にあとは任せて、私は次の兵士の元へと移動する。
次の兵士はすこしは意識があるようで、【回復薬(特上)】を飲んでもらった。あっという間に体が治り、兵士はびっくりしていたけど、女の子が声をかけてくれたおかげで、すぐに落ち着いた。
そうやって、サミューちゃんに兵士を連れてきてもらい、私が回復薬を渡し、女の子たちが治った兵士へと声をかけるのを続けていく。
兵士が治ったあとは、馬にも回復薬をかけたり、飲ませたりすれば――
「みんなげんき!」
『おー!』
体を治す途中で仲良くなった兵士にみんなが私の声に合わせてくれる。
よかったよかった。馬も元気!
「あなたにはたくさん、助けられましたわ」
「うん。だいじょうぶ」
女の子が私をじっと見つめる。それに安心させるように頷いた。
「わたくしたちは行きますが、本当に一緒に行かなくていいんですの?」
「れに、うまにはのらない。あるいていく」
筋肉をつけないといけないからね!
「そうですか……。わかりましたわ。では、あのっ……」
私の答えに女の子の表情がわかりやすくがっかりとした。そして、その後はなぜか、そわそわと目が動く。
「そのっ……また」
「うん」
「また! かならず! お会いしましょうっ!」
「おちゃかいがあるもんね」
「はいっ!」
「またね」
「はいっ!!」
女の子が本当にうれしそうに笑う。どちらかというと睨んでいるというか、きつい目をしていることが多かったので、そうやって笑ってくれるととってもうれしくなった。
女の子と女性たちは馬に乗り、私はそれに手を振る。
「すぐに連絡をします!」
「うん」
女の子は何度も私を振り返って、レオリガ市へと向かって行った。
「さみゅーちゃん、わたしたちもいこう」
「そうですね」
「がんばってあるく」
「はい」
装備していた【猫の手グローブ】と【羽兎のブーツ】を外し、サミューちゃんと手を繋ぐ。ドラゴンが出て、兵士を治して、女の子とお茶会の約束をして大変だったけど、一件落着!
「ドラゴンはなぜ馬車を狙ったのでしょうね……」
爽やかな風が吹く中、サミューちゃんは心配そうに呟いた。
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