第33話 お茶会に誘われました
「レニ様っ!!?」
星座になったドラゴンに、ふふんと笑っていると、サミューちゃんに焦った声が聞こえた。
あ。そうか。私は今、頭を上げてないのに空を見上げている。うん。また体勢を崩して、背中から落ちてる。
『さみゅーちゃん、うけとめて』
「はい、喜んで!!」
【
すでに落下点に来てくれていたようで、サミューちゃんはふわふわと落ちる私を、しっかりと抱き止めてくれた。
「ありがとう」
サミューちゃんを見上げてお礼を言う。
すると、サミューちゃんはカタカタと震えて――
「あ、あ、あ……いえ、あ、愛しさがこの手に。あ」
まずい。
「おりるね」
サミューちゃんの腕に預けていた体を起こし、下に降りる素振りを見せる。するとサミューちゃんはそっと地面に降ろしてくれた。
「だいじょうぶ?」
「はいっ、申し訳ありません……やはり、姿を見たままの状態で抱き上げるというのは、私にはまだまだ攻撃力が高く……愛しさ耐性が足りないようです」
「……うん」
サミューちゃんはすごく真剣な顔をしている。
ドラゴンとの戦いでフードが脱げちゃったから、姿の見える私をそのままだっこするのはサミューちゃんには大変だったのだろう。……攻撃力とか愛しさ耐性とかは、なにを言ってるかわからないけど。
「ところでレニ様、どこか体に異変はありませんか?」
「いへん?」
「はい。ドラゴンに攻撃した際、レニ様の魔力を感じたので」
「れに、まりょくつかえないよ?」
「魔力を失くしたエルフである女王様からレニ様は生まれました。今後、魔力が使えるかどうか未知数でしたが、守護者の契約も行うことができています。さきほどはたしかに魔力を感じたので、なにかきっかけがあったのか、と」
「うーん……あ、むねが、あつかったよ」
「胸が?」
「うん。できるっておもったら、むねからあふれてきた」
「それがレニ様の【魔力操作】なのかもしれません」
「まりょくそうさ!」
私がやりたかったヤツ! サミューちゃんが使ってて、すっごく強いヤツだよね!
できるようになったなら、うれしい。
「もういっかいやってみる」
「はい。無理はなさらず」
「できる。できる。れにはできる」
むーんと胸に意識を集中して――
「できる」
でてこい、熱いの!
「――。……。……うん」
うん。
「できない」
全然、熱いの感じないね。
「あついの、でてこない」
「そうですね。私も今はレニ様の魔力は感じません……」
「そっかぁ……」
やっぱりすぐにはできないよね……。なんでできたかもイマイチわからないし。
「申し訳ありません。私がうまく伝えられればいいのですが、【魔力操作】はエルフであれば生まれつきできることが多く、なんと伝えていいかもわからず……」
「ううん。だいじょうぶ。また、やってみる」
ステータスに【封印】と出ていたし、きっとそれが影響しているんだと思う。種族はエルフだけど【封印】されて、耳が丸い私。そんな私が普通のエルフと同じようにするのが難しいのは当たり前だ。
「めげない」
そう! だって一回できたのだから!
ゲームも何度も挑戦して、その度にうまくなってできることが増えるのだ。だから、また、こつこつと練習と修行をすればいい。
「レニ様……っ」
私ががんばる、と頷くと、サミューちゃんは感動したように目を潤ませた。
「尊い……尊い……っ。私は今、レニ様を全身に浴びている……っ!」
サミューちゃんはそう言うと、ふるふると体を震わせる。
……うん。よくわからない。
困惑して、震えるサミューちゃんを見上げる。
すると、そこに声がかかって――
「っちょっと、あなたっ!!」
幼い声。これは馬車に乗っていた、『殿下』と呼ばれていた女の子のものだ。
馬車から私たちまでの距離は10mぐらい。女の子はかなり大きな声を出してくれたのだろう。
「なに?」
返事をしつつ、首を傾げて、仕草を伝える。距離が遠くて、私の声は届かないとだろうから。
すると、きれいなドレスを着ていた女の子は手招きをした。
「遠いのよ! ちょっとこっちに来なさいっ!」
「わかった」
こくりと頷き、馬車へと近づく。
【察知の鈴】は鳴っていないし、サミューちゃんも止めないから、近づいてもきっと大丈夫だ。
「どうしたの?」
近づいてから、声をかける。
女の子はそんな私を見て、目を開き、絶句していた。
「すごくきれい……」
惚けたように声を漏らす。
私を呼び寄せたのに、用件を忘れてしまったみたい。
女の子の周りには3人の女性がいて、みんな同じような黒いワンピースに白いエプロンをつけていた。制服なのかな?
全員、目を開いて私を見ているから、びっくりしているようだ。
「だいじょうぶ?」
「っだ、大丈夫ですわ……っ!!」
はっと意識を取り戻したらしい女の子が、慌てて声を出す。
声はまだ幼いけれど、とても凛としていた。
「さきほど、ドラゴンを倒していたのを見ましたわ。とてもよい働きでした」
「うん」
「兵士たちがたおされたことは残念ですが、あとのことはレオリガ市長に命じようと思っています」
「うん」
壊れた馬車と護衛の兵士。女の子を守っていたと思われるものはなくなってしまったから、一番近くであるレオリガ市に頼むのがいいのだろう。
『命じる』と言っていることからしても、女の子のほうが地位が高くて、そういうことも頼めるのだろうし。
「……っ、で、……そのっ……」
今まで凛としていた女の子が突然もごもごと口ごもる。
「どうしたの?」
「な、なんでもありませんわ!」
「そう?」
不思議だなぁと思って声をかけたんだけど、女の子は目をキッ! とさせて反射的に答えた。
怒っているようには見えないけれど、私がドラゴンをパンチしたところを見たから、怯えているのかもしれない。それなら、私がいても怖いだろうし、もう行ったほうがいいよね。
「れに、もういくね」
「え、あ、そ、そうじゃないのっ!」
「ん?」
「あ、あの……待ってほしいんですの」
「待つの?」
「すこしだけですわ! すこしだけ!」
「うん」
よくわからないけど、待って欲しいみたいなのでその場で頷く。
すると、女の子はクルッと回って、3人の女性たちの元へと駆け寄った。
「どうしたらいいの!? 言葉が出てきませんわ!」
「大丈夫です、殿下! ファイトです!」
「途中まではいい感じでしたよ!」
「あとはちゃんとお誘いできれば、予定通りです!」
「……でも、断られたらと思うと急にこわくなったの」
『……殿下っ』
「だって、あんなにきれいな女の子が、わたくしなんか……」
女の子の背中が見てわかるくらいシュンとしている。
どうやら、私になにか言いたいけど、断られるのがこわくて、言い出せなかったようだ。
話の流れがわかったので、私はその背中に声をかけた。
「だいじょうぶ」
「えっ……?」
「れに、はなしをきくよ?」
ちゃんと待てる4歳児なので。
「いってくれれば、かんがえて、こたえるよ」
「……わかりました」
女の子は振り向くと、緊張した面持ちで私の正面に立った。
「あっ、あの……っ」
女の子の頬が赤くなる。
本当に精いっぱいの気持ちで私に話をしてくれているのだ
「お茶会に……っ」
「おちゃかい?」
「お茶会に来て欲しいんですのっ!」
女の子は叫ぶようにそれを言うと、急いで言葉を続けた。
「あなたはわたくしを守ってくれたでしょう? その報いをしたいのです。これからレオリガ市長と話すので、すこし時間がかかるかもしれませんが、今日中にレオリガ市のどこかで……っ」
一息でそこまで言うと、女の子は急にハッとした顔になった。
そして、みるみるうちに頬の赤味が引いていく。
「……でも、わたくしとなんかお茶会しても……楽しくないかもしれません」
目が悲しそうに伏せられる。
不思議な女の子だ。
私と同じぐらいの年とは思えないぐらいにしっかりしていて、凛としていると思えば、突然に自信をなくしてしまう。
「しんぱいないよ」
だって――
「たのしいか、たのしくないか、れにのことはれにがきめるから」
私の気持ちは私が決める。
今の私の気持ちは――
「おちゃかい、とってもたのしそう」
――同じ時間を過ごせば、きっと楽しくなる!
「おまねきしてくれて、ありがとう」
女の子の茶色の目を見て、にっこりと笑えば、女の子の頬がボッと赤くなった。
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