第24話 封印されているみたいです

 昨日は、いろいろなことがあった一日だった。

 寝る前に怪しい男たちのあとをつけて、スラニタ金融をリフォームし、そこにいた全員をお星さまにした。そして、地下室の金庫から裏帳簿やいろいろな書類をゲットしたところまでは、予定通り。

 が、その後の情報量が半端じゃなかったよね……。


・サミューちゃんという、かわいくてかっこいいエルフの女の子と出会った

・母が実はエルフの女王様だった

・父がそれを誘拐したことになっていると知った

・サミューちゃんと父が【宝玉】を手に入れていた

・母がそれを使い、エルフから人間になった


「ほうぎょく、かぁ……」


 まさか、転生前にゲーム内で手に入れた【宝玉(神)】が、母の命を繋げたり、エルフから人間にしたり、こちらの世界で使用されているとは思わなかった。

 たぶん、私の誕生にも関係しているんじゃないかなぁ。

 だって、エルフと人間では子どもは生まれないと言っていたのに、私が普通に生まれているしね。

 というわけで。


「すてーたす」


 新しい情報が増えたから、確認!

 すると、思ったとおり、今まではなかった表記が追加されいて――


・名前:レニ・シュルム・グオーラ

・種族:エルフ(封印)

・年齢:3

・レベル:999(-97%)


「ふういん……」


 今まではただのエルフだったのに、(封印)となっている。

 つまり、種族はエルフだが、その力が封印されたことによって、人間の見た目になっているんだろう。


「ままも……?」


 母は【宝玉】に人間にして欲しいと願った。

 結果、人間として暮らしているわけだが、これまでの話から考えると、エルフと人間の違いは、体内に魔力が循環しているかどうか。

 母は体内の魔力を操ることができなくなり、死の危機に瀕していた。

 【宝玉】はその魔力を失くすか、封印するか、なんらかの作用をし、母を人間と変わらなくした、と考えるのが妥当だろう。

 種族を人間にしたわけではなく、エルフのまま、人間と変わらない能力に。

 そして、私もそれを受け継いで、生まれた。


「まりょくそうさ……できないかも……」


 種族はエルフだけど、体内の魔力は封印されている。

 そう考えると、私に【魔力操作】ができるとは考えにくい。

 かっこいいサミューちゃんを見て、私もできれば、と思ったが、まず封印を解かなければならないような……。


「ほうぎょく、さがす?」


 この世界に宝玉は七つあると言っていた。

 それを探して、封印を解くことを願ってみてはどうだろうか。

 母がエルフの力を再び得ることは、また死へと進むことになるかもしれないが、私が【魔力操作】をすることができれば、私はエルフに戻ってもいいはずだ。

 それに――


「みてみたい」


 実際の【宝玉】はどんな色?

 どれぐらいの大きさ?

 どんな輝き?


 それを考えれば、胸がどきどきした。

 転生前に探して回ろうと思っていた【宝玉】。それがこの世界には七つもある。

 手に入れたいわけじゃない。封印を解くことが最優先でもなくて。

 

 ――この心が『見たい』と言うから。


「よしっ」


 ごろんと寝転がっていたベッドから立ち上がる。

 昨日は夜遅くなってしまったから、私がスラニタの街でしてきたことの説明などはサミューちゃんに任せて、私は寝てしまった。

 やはり、そこは三歳児。父と母の事情を聞き、旅に出たいと言ったあと、安心したせいかすごく眠くなったのだ。

 サミューちゃんなら、うまい感じで父母に言ってくれるだろうしね。

 窓の外を見れば、朝日はすっかり昇っている。

 いつもはもっと早起きだけど、今は朝ごはんと昼ごはんの間ぐらいの時間だろう。

 急いで着替えて、階段を降りれば、台所で母が作業をしていた。


「まま」

「あら、レニ起きたのね。おはよう」

「おはよう」

「昨日は遅かったから、まだ眠いかしら」

「ううん、だいじょーぶ。でも、おなかすいた」


 朝ごはんを食べずに寝ていたから、おなかがグーグー鳴っている。

 母はあらあらと笑ったあと、すぐにスープを用意してくれた。

 イスに座って、木のスプーンですくって食べていると、母が目の前に座る。

 母はいつもは忙しく働いているか、父がいないときは不安そうに窓の外を覗いていることが多い。

 母の行動が珍しくて、顔を上げれば、母は微笑んでいた。


「まま、いそがしくない?」

「ええ。実は、かわいくって強い女の子のおかげで、無理して働かなくてよくなっただけじゃなく、危険もなくなったみたいなの」


 母の瞳は優しくて……。

 エルフの女王様だったのに、人間として暮らしてから苦労ばかりしていた母が楽になったなら、本当によかった。

 うれしくなって、スープを食べながらも、口元がにやけてしまう。

 すると、母は私の頭を撫でてくれた。


「昨日、サミューはね、レニにはすごい力があるって何度も言っていたわ。それで、パパとママ、サミューの三人で話をしたんだけど、パパとママに少しだけ時間をくれないかしら」

「じかん?」

「ええ。レニは、すぐに旅に出たいと思うんだけど、四歳までは一緒に暮らして欲しい」


 四歳まで。

 今は三歳で、四歳の誕生日までは、あと半年ぐらいじゃないかな。

 これまでやってきたことと、あと半年でできることを考えてみる。


 父の体を治して、家の畑を豊かにした。

 家に押し入ってきた借金取りを倒して、借用書を取り返した。

 そして、それでも母を付け狙ってくるスラニタ金融を潰した。


 あとは……。


「わかった。よんさいまで、いる」

「……よかった」


 私が頷けば、母は本当にうれしそうに笑った。


「ママもパパもレニとやりたいことがいっぱいあるの。お弁当を持ってピクニックに行ったり、街に買い物に行ったり。今までできなかったことを」

「たのしそう」

「レニとの思い出をたくさん作るわ」

「うん」


 父と母は生きることや、私を隠すことで、精いっぱいだった。

 私が旅に出る選択をしたことや、私の力についてサミューちゃんから聞いたことで、吹っ切れたのだろう。

 私も家の中だけじゃなく、いろんなところで父と母の思い出が作れたらいいな、と思う。


「まま、さみゅーちゃんは?」

「サミューなら、森に入ると言ってたわ」

「もり」

「レニが呼んでいるって言えば、すぐに来るんじゃないかしら」


 母はそう言うと、ふふっと笑った。

 私はその笑顔を見て、またスープを一口すすった。


「れに、ままのえがお、すき」


 見ていて、とっても幸せな気持ちになる。

 だから――


「さみゅーちゃんと、はなし、したい」


 父と母を守るため。

 私にはまだやり残したことがある。


 ――街長のシュルテム。


 スラニタ金融のバックにいると思われる人物。

 サミューちゃんが調べてくれると言っていた。


 ――ケリをつけてから、旅に出ましょう!

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