第16話 リーダーと話をします

 流星群を見送って、まだ気を失っているリーダーの元へと歩みを進める。

 そろそろ本当に起きて欲しいんだけどなぁ……。


「おきて」

「……うぐっ」


 肉球で頬をペシペシと叩くと、ようやく目を覚ました。

 ちゃんと加減をしたので、顔がぼろぼろになるとかそんなことはない。ちゃんと普通。


「なんだこれ……どうなって……」


 リーダーは座り込んだまま辺りを見回し、目を白黒させている。

 まあびっくりするよね。アジトが吹き抜けになって、仲間が全員いなくなってたら。


「ききたいことがある」


 座っているリーダーと目線を合わせながら、そっとフードを外す。

 するとリーダーはびくっとなったあと、私と視線を合わせた。


「お、おまえ、どこから現れて……っ!?」

「きんこはどこ?」


 狼狽するリーダーを無視して、疑問を投げる。

 先ほど流星群になった借金取りの一人が「金庫」って口走っていた。きっと、街長であるシュルテムとの繋がりの証拠がそこに入っているのだろう。

 だが、瓦礫発掘作業では、金庫のようなものは見つからなかった。

 万が一、猫の爪の当たりどころが悪かったとしても、金庫の破片ぐらいは残っていそうなものだ。でも、それさえも見つかっていない。


「金庫!? そんなことより、これはどういうことだ!? お前がやったのか!?」


 リーダーは座り込んだまま、声を荒げる。

 フードを外したので、私の姿は見えているので、相対しているのが幼児であることは認識しているはずだ。

 だけど、目の前に起こっていることと、私とが結びつかないのだろう。

 私はふぅと息を吐いたあと、右手の爪をにょきっと出した。


「そうだよ。こんなかんじ。――ねこのつめ!」


 人と木を選別したときに、積み上げておいた瓦礫に向かって、【猫の爪】を繰り出す。

 五本の筋はまっすぐに瓦礫に向かい、当たった瞬間に大きな傷跡を残し、瓦礫を粉々に砕いた。


「う、そだろ……」

「ほんとうだよ」


 最強三歳児です。


「きんこは?」


 なんにしても。私の力がわかったのなら、早く金庫の場所を教えて欲しい。

 だから、もう一度その疑問を投げたのだけど、リーダーは一人でなにごとかブツブツと呟いた。


「くそ、あいつが言ったから……くそっ、こんなの聞いてない……くそっ」


 ギリリと奥歯を噛み締めたリーダーは、私を睨み、吠えた。 


「借用書を持ったまま消えたやつらもお前の仕業か……。わかったぞ!お前は街長のシュルテムなか怨みがあるんだな……!」


 ……いや、べつに? 会ったこともないしね。

 でも、めんどくさいので、こくりと頷いて返す。

 それはリーダーの意を得たものだったらしく、リーダーは勢いづいて、話を続けた。


「あいつは派手に女を集めてるからな……。悪趣味なじじいめ。だが、この辺りでは一番の金持ちだ」


 ……知らないけど。

 これにも、こくりと頷いて返した。


「猫獣人の女なら、たしかにアイツが欲しがりそうだ。お前みたいな子どもは高く買ってくれる場所もある……。でも、俺たちを消してどうする? この辺りでシュルテムに逆らえば生きていけないぞ」

「ふーん」

「……お前みたいな子どもにはわからねぇか」

「うん。わからない」

「ああっ!?」

「で、きんこは?」

「うるせぇ!! わからねぇなら教えてやる! いいか! シュルテムはこの辺りの政治を掌握している。もちろん司法もだ。罪をねつ造し、憲兵を動かすことができるんだ。公に罪人として追われることになるんだぞ! お前みたいな子どもは自分が正義の味方だと思っているんだろ?」


 そこまで言うと、リーダーはワンワンと吠えるのをやめた。

 そして、ははっと嘲笑を浮かべる。


「――お前が悪だ! この街ではそう決まってるんだよ!!」


 私をまっすぐに指差して。

 悪は私のほうだ、と。


「俺に手を出してみろ。お前は普通には生きていけないぞ」


 ――勝ち誇った笑み。


 リーダーは私の見た目から子どもだと判断し、善悪や未来のこと、罪人として生きることを示せば、躊躇すると思ったのだろう。

 私はそんな男の言葉に――こてんと首を傾げた。


「べつにいいけど」

「なっ!?」

「たびにでるから」

「はぁ!?」


 小さな街の長と、その手先の借金取りに悪って言われてもなぁ。

 この小さな街とその周辺で悪と断罪されたとして。

 私の人生にはまったく問題なし!

 それに――


「いいことおしえてあげる」


 【猫の手グローブ】をつけた両手に力を入れる。

 両手を打ち合わせれば、触れた肉球がきゅむきゅむと鳴った。


「だれにもばれなければ、だいじょーぶ」


 ね!

 というわけで。


「じょうほうはもらった」


 床を蹴り、一気に距離を詰めて、ぐっと腰を沈めた。

 座り込んだリーダーの懐に飛び込むと、そこにあるのはガラ空きの顎。

 脇を締めて、肘を曲げる。てのひらは自分に向ければ準備OK!


「ねこぱんち!」


 リーダーの顎に向かって、沈めた腰を上げながら、右手を突き上げる。

 【猫パンチ】アッパーカットです!


「おほしさまになぁれ!」

「うぐああぁああ!」


 ――もう一つ星が流れました。

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