第15話 事情聴取をします

 人間には、いろいろな感情があるが「恐怖」は大切なものだ。生きるために必要な生存本能の一つだと思う。

 怖いものには近づかない。怖いことはやらない。

 その感情があるから、危険を回避できるんだよね。

 だから、借金取りが私を悪霊だと勘違いしているのなら、好都合。

 足の爪先から頭のてっぺんまで恐怖に染め上げましょう!

 というわけで。


「ゆるさない」


 呟いてから、瓦礫を一つポイ。


「ひぃぃ!」


 すると、瓦礫が壁にぶつかる音と同時に、男が悲鳴を上げた。

 非常に小気味よい。

 私はくすくすと笑ったあと、キリッと表情を引き締める。

 そして、できるだけ怖い声を心掛けながら、テンポ、速度、方向を変え、ポイポイと瓦礫を投げていった。


「ゆるさない」

ガツン、ひぃ

「ゆるさない」

ゴン、ひぃぃ

「ゆるさない」

ガガガ、ひぃぃぃ

「ゆるさない」

ガシャーン、ひぃひぃひぃ

「ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない」

「ひぃいぃぃぃいっ!!」


 さすが最強3歳児の私。なかなかの悪霊ロールプレイ。

 男は非常に怯えていて、途中で目覚めた人も一緒に怯えていた。

 ここまで怯えてくれれば、この男たちが、わが家を襲うことはもうないと思うんだけど……。


「俺たちのせいじゃない、俺たちはただ命令されただけで……」

「そうだ、……俺たちは、ただ……許してくれ……」


 身を寄せ合い、怯えながらの命乞い。

 酌量の余地はないけれど、それはちょうど私が聞きたいと思っていたことだった。

 リーダーに聞けばいいかな? と思っていたけれど、起きないし、この男たちもなにか知っていそうだから、こっちに聞けばいいかも。

 うん。聞いてみよう。


「だれにめいれいされた?」

「え……それは……」

「だれ?」


 言いよどむ男たちに向かって、瓦礫をびゅーんと投げる。

 男たちにぎりぎり当たらなかったガラスの破片は、ぐっさりと壁に突き刺さった。


「ひっ……」


 男たちは壁に刺さったガラスの破片を見て、顔を真っ青にさせる。

 そして、勘弁してくれっと嘆きながら、言葉を発した。


「この街の長だよ……!」

「――街長がいちょうのシュルテムだ……!」


 怯えた男たちは、顔の前で両手を合わせて、懇願しながら、口を割った。

 それは、街の長の名前。つまりこの街で一番えらい人だ。

 ……そうかぁ。

 けっこう上にいる人が母を手に入れようとしていたのかぁ。

 ガタガタと震える男たちの前で、私はふむと考えてこむ。


「うそ?」

「う、うそじゃない……!」

「本当だ、証拠、……証拠もある……!」

「しょうこ?」

「お、俺たちは詳しくは知らない、でも、本当だ、本当なんだ……!」

「金庫、金庫になんか……」


 男たちが恐怖に任せて、でまかせを言っている可能性もある。

 けれど、門番が不審者たちを改めもせずに、通したことの理由として考えれば、正当だろう。


「はぁ」


 指示した人が思ったよりも大物で、思わずため息がでる。

 そんな人に目をつけられたら、めんどうなことこの上ないからだ。


 私が住んでいる国は君主制であり、王家が世襲で統治をしている。

 それを支えるのは領主と呼ばれる上級貴族たちで、こちらも世襲であり、建国当時から変わっていない。

 国を分割し、それぞれの土地を治めているのだが、それを領と呼び、領をさらに分けたものを市と呼んでいる。

 領主は市のトップを任命し、それを市長と言っている。

 市長に任命されるのは、領主の子供や兄弟、親戚であったり、功績を挙げた部下であったり。これは世襲制ではなく、王から一代限りの爵位を授与される。これが下級貴族だ。

 そして、市に大きな街があれば、そこには市長が任命した街長がつく。ここからは一般市民で、お金を持った商人とか文官が多いかな。

 街長は街を治めることももちろんだけど、周囲に町や村があればそこも一緒に束ねることとなっている。

 一応、町と村には町長と村長がいるんだけど、これはみんなの合意で決め、取りまとめ役をしている感じだ。

 だから、私の村は、ここスラニタの街長がトップなわけで――


「そこにいるんだろ!!!」


 考え込んでいると、私の頭上をびゅんっとナイフが飛んでいった。

 かなり上方だったから、私には全然当たらないけど、もし、私が大人だったら当たっていたかも。

 ふーん。そう。そういうことしちゃうんだね。


「……なに?」


 ちゃんと怖がってくれれば、それでいいと思ったのに。

 まだ反撃する余力があったらしい。


「お、おれじゃない……! こいつ、こいつが……!」

「嘘だ……声が聞こえた方向に投げたのに、なんで当たらないんだ……。まさか、本当に……」

「馬鹿が! どうすんだよ!! お前が責任を取れ……!」


 ナイフを投げた男が周りの男にどやされながら、一番前へと押し出される。

 結局、掘り起こした人はリーダーを除いて十二人。

 その内の一人が私に向かってナイフを投げたらしい。

 私と借金取りたちの会話を聞きながら、位置を特定したようだ。高さは違ったけど、方向はだいたい合っていた。

 恐怖って得体が知れないから怖いのに、事情聴取のために会話をしたからよくなかったんだろうなぁ。うん。理性を感じると恐怖って減るもんね。

 というわけで。


「ゆるさない」


 もう、ふっとばしちゃおう。


「ねこのつめ!」


 右の爪を出し、下から上に向かって、手を振り上げれる。

 すると、上昇気流が発生し、小さな竜巻のようなものができた。

 竜巻は周りのものを巻き込みながら、借金取りたちへと向かっていく。そして――


「おほしさまになぁれ!」

『ひあぁあああ!!!』


 意識のある人もない人も。全員まとめて、吹き抜けから空に向かってふっとんでいった。


 ――今日はとてもきれいな流星群です。

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