第14話 おばけですよ

 吹き抜けになるということは、屋根が落ちたということで、それを足場にしていた私も同時に家の中へと落ちていく。

 【羽兎のブーツ】のおかげでふわふわとゆっくり降りていった私は、一階の床に両足を着いた。


「ぐぇ」


 足を置いた瞬間、床からつぶれたカエルみたいな声がした。

 たぶん、ちょうど人がいたんだろうね。


「うっ……うぐっ……」

「あが……」


 よく耳を澄ませば、そんな声がたくさん聞こえてくる。

 家の中に入ったのは六人だったけど、中にはもう少し人がいたのかもしれない。一撃で全員昏倒させちゃったから、よくわからないけれど。

 一気に仕留めたほうが楽かなぁと、実行に移したが、実はまだやりたいことがある。

 というわけで。


「ひと、き、ひと、き、ひとひと、き」


 足場にしていた床に積み重なっていた、なにかの木材や壊れた家具をひょいひょいと【猫の手グローブ】の爪にひっかけ、選り分けていく。

 木は左。人は右。

 大まかだけど、そうして分けながら一階の床が見えるまで掘り起こしていく。

 そうしているうちに、目当てのものを見つけて――


「いた。りーだー」


 それはわが家にやってきた六人の中のリーダー的存在。

 他の人はわが家に関わるのをやめようとしていたが、この人がそれを止め、会話を誘導したせいで、わが家はまだ付け狙われることになってしまった。

 この人がいなければ、比較的平和にわが家の問題は解決できたはずだ。


「はなしをする」


 見つけたリーダーを爪でひっかけて、ずるずると引きずる。

 屋根はなくなったものの、壁は四方向存在しているので、北側の壁に背をもたれさせて座らせた。

 でも、せっかく声をかけたのに、リーダーが返答をする気配はない。

 木材や家具、人がかなり上に乗っていたから、血がめぐらず、気を失ってしまったんだろう。

 うーん。目を覚ますのを待つのもめんどくさいなぁ……。

 悩んでいると、左側から「ひっ」という声が聞こえて――


「なんだこれ……どうなって……っくそっ」


 どうやら一人目が覚めたらしい。

 男は壊滅したアジトと、無造作に積まれた仲間たちを見て、悲鳴を上げたようだ。

 今は、四つん這いでドアに向かって、逃げ出そうとしている。


「にげちゃだめ」


 とりあえずリーダーは放っておいて、逃げ出そうとした男の前に立つ。

 そして――


「ねこのつめ」


 ザシュッ


 男が四つん這いで進もうとしていた、床に向かって【猫の爪】を繰り出す。

 すると、衝撃波となった五本の筋が、しっかりと床に刻まれた。


「ひぃぃいいい!」


 抉れた床を見て、男は四つん這いで来た道を戻っていく。

 積み重ねられた仲間たちを盾にして、必死に自分の姿を隠そうとしているようだった。


「もういやだ……やっぱりあの家がおかしい……手を引けばよかったんだ、こんな、こんな……」


 怯えながら、ぶつぶつと呟いている。

 私はふむ、と考えると、手近にあった瓦礫をひょいっと爪にひっかけて、ぽいっと投げた。

 それが壁に当たってガツン! と音がすると、男はまた「ひぃ!」と悲鳴を上げる。


「助けてくれ……助けてくれ……」


 ついに男は両手を顔の前で組み合わせると、ガタガタと震えながら、一心に祈り始めてしまった。もうこれ以上、不気味なことは起きて欲しくない、それが伝わってくる。


「なるほど」

「ひぃぃ!」


 私が呟いた声にも過剰に反応。

 どうやら私の起こすことがすべて怪奇現象に思えているようだ。

 【隠者のローブ】を着て、フードを被っている私のことは視界に入っていないし、気配もわからない。なのに、屋根は落ち、物が勝手に動き、人が積み上げられていく。そして、トドメとばかりに床に爪が刻まれ、壁に物がぶつかった……たしかに怖いかも?


「呪いだ……俺たちは呪われたんだ……ひっ」


 私は悪霊になったみたいです。

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