第12話 悪いやつらは湧いてきます
借用書を取り返して、母はパン屋の仕事をやめ、父もあまり仕事に行かなくなった。
借金を返す必要がなくなったので、母がパン屋に行く必要はなくなったのだ。
パン屋の仕事は、父の仲間(父をはめて怪我をさせたが、結果、自分が死んでしまった)の奥さんが引き継いだらしい。その仕事を続ければ、母一人子二人の家族は暮らしていけるようだ。
父をはめたことに関しては思うこともあるけれど、そもそもの借金も仕組まれていて、それがわが家が理由だとすれば、卵が先か鶏が先か理論になってしまう。
借金を払わなくて済むことによって、わが家と向こうの家とがお互いに自立して暮らしていけるなら、それでいいんだと思う。
これから、大きなお金が要るとき(子どもの進学とか結婚とか)には父は援助をしていくつもりらしいしね。
父と母がこの先も村で暮らしていくのなら、私が出ていく幕はなさそうだ。
父は仕事の時間がぐっと少なくなり、今は罠猟を主にしているらしい。
罠を仕掛けて、獲物を回収することは続けているが、大物を獲るために遠くまで行ったり、昼夜追いかけ続けたりというようなのはやめたようなのだ。
その分、家のことをしたり、畑仕事をしたり、家族団欒の時間をとったり。
なんだか最近の父はずっと私を抱っこしているような気がする。隙あれば抱っこしてくる。
今まで病気をしていたり、忙しかったりした分、それを取り返そうとしている感じ、かな。
父に抱き上げられると、視線が高くなって楽しいし、足も楽だから私も嬉しいしね。
――と一見平和だけれど、もちろん、それだけで済むわけがない。
借用書は借金取りたちにとって、わが家を脅す重要アイテムだったわけで、なぜわが家から金を巻き上げていたかというと、母を連れて行くためだ。
ただのお金目当てだったほうが、楽だったのになぁ……。それならわが家でなくても補填ができる。
でも、母を目的としている限りは、わが家は狙われ続けてしまう。
現に今も……。
チリンチリン
さあ、これから寝ようか、という時間で私の腰元で小さな鈴の音が響いた。
「てきだ」
ベッドに横になっていた体を起こし、掛け布団をゆっくりとどける。
父と母は私を寝かしつけたあと、一階のダイニングに移動していった。
私はうとうとしていたところだったんだけど、すばやく準備を整えていく。
さっきの鈴の音は【察知の鈴】という、敵が近くにいると鳴るようになっているアイテムだ。
これが鳴るということは、この家の周辺に敵がいる、ということである。
父と母の前でも鳴ったことがあったが、二人は気にした様子がなかった。音自体は私にしか聞こえていないらしい。それにしても。
「こりない」
懲りない。借用書を取り返してから一週間。毎日、何人かでこの辺りをうろうろとしていく。
【回避の護符(特)】はちゃんと機能しているようで、ここにあるはずの家を見つけることができていないようだ。
「このままじゃだめ」
このままだと、母が危険なことに変わりがない。
たぶん、父は母と私の心配をして、仕事の時間を少なくし、一緒に家にいてくれているのもあるんだと思う。
母と私は家にいて、外に用があるときは父が行っている。
この家は安心とはいえ、父はそれを知らないわけだし、母だって知らない。だから、この一週間はずっと気が張っている状態なんじゃないかなぁ……。
というわけで。
「あいてむぼっくす」
呟けば、ずらっと表示されるアイテムたち。
装備品に【隠者のローブ】、【猫の手グローブ】をつける。
そして、今回は【《羽兎》《はねうさぎ》のブーツ】も!
「けってい」
言葉と同時に装備品を身に付けた状態になった。
「うん。だいじょうぶ」
新しく履いた【羽兎のブーツ】の状態を確かめるようにその場でぴょんと跳ぶ。
すると、体がふわっと浮き上がり、重力の影響がかなり弱くなったのを感じた。
「これであしもはやくなる。つかれない」
ふふっと笑う。
やっぱり三歳児だからね。ちょっと歩いたり走ったりしただけで、へとへとになってしまう。
【羽兎のブーツ】はその名の通り、羽のついた兎の魔物の素材を集めて作るものなんだけど、素早さの上昇値が非常に高い。さらに、付加効果として【飛翔状態】となる。……まあ、今試した感じだと、常時、飛翔するわけじゃなくて、足を蹴り出す力によってちょっと飛翔するって状態かな。
「よし。あとをつけよう」
まだ腰につけておいた鈴はチリンチリンと鳴っている。
私は最後にベッドの上にそっと手紙を置いた。
『おまかせあれ』
湧いてくる悪いやつらを、全員ふっとばします!
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