第10話 隠蔽作業は大変です
【猫の手グローブ】はその名の通り、猫の手の形のグローブだが、それを手に付けると、キャラクターに猫耳と猫しっぽが生えるようになっている。
なので、今の私は銀色の髪、金色の目の猫の獣人のように見えているだろう。私の姿を見た借金取りの三人はお星さまになったけれど、もし、どこかから私の情報が漏れたとしても『猫獣人の子ども』になるはずだ。
【隠者のローブ】のフードを脱いで、顔を晒しても安心安全。【猫の手グローブ】は耳もしっぽも自由に動かせるし、変装もできる、最高の武器!
というわけで。
「わがやをいんぺいしよう」
わが家を隠蔽。ほら、悪いやつらって不思議と湧いてくるから、借用書がなくなり、父たちが借金を返さなくなったら、絶対にわが家にやってくると思う。
今日の感じだと父は返り討ちにしてくれるだろうが、母のことは心配だ。
借用書を地面から拾い、【隠者のローブ】のフードを被り直し、家までの道を戻る。
「あいてむぼっくす」
家の前でそう呟いて、ずらっと並ぶアイテム名の中から、必要なものを選んでいく。
今回使うのはこれ【回避の護符(特)】。ゲーム内ではダンジョンマップで使用するものだ。ダンジョンが広く、街マップに戻れないとき、ダンジョン内でキャンプをするために使う。
ゲームではキャンプをすれば体力、魔力、ほかのマイナスになっていたものが一定値、回復するのだが、一定の確率で魔物に遭遇したことになり、キャンプ失敗判定が出る。
【回避の護符】をキャンプのとき使えば、その失敗判定がなくなるのだ。(並)、(上)、(特)と成功確率は上がる。この護符に(神)はなくって、(特)で100%成功する。
キャンプに使用できる護符は他にもあって、回復の値を大きくするものや、特殊効果を付与するものなんかもある。今回はわが家に敵意を持ってやってくるものを寄せ付けなければいいので、【回避の護符】でいいだろう。
ゲームでいえば、この村は街マップなので、本来はこの護符は使えないんだけど、うまくいけばいいなぁ。
私は借金取りたちを敵判定をしているから、キャンプ地であるわが家を見つけられなくなると思うんだけど……。
「うめればいいはず」
護符を使ったときのキャンプのモーションは護符を地面に埋めるモーションが入る。
なので、装備を【猫の手グローブ】から【おたま】に変えて、取り出す【回避の護符(特)】を選んで――
「けってい」
右手におたま、左手には魔法陣の書かれた紙。護符だ。さ、地面を掘るぞ!
「……かたぁい」
固ぁい……。畑の肥料撒きは、おたまでがんばったけど、踏み固められた地面の固さ……。でも、めげない。ゲームではこんなこと日常茶飯事だからだ。
少しずつでもコツコツ進めれば、必ず強くなる。小さなことの積み重ねが大切なことを私は知っている。できる!
――カリカリ……カリカリカリカリ……カリカリカリカリカリカリカリカリ……
「ふわぁ……」
暑い。【隠者のローブ】を脱ごう。
「あいてむぼっくす」
装備品の【隠者のローブ】をアイテムボックスに返し、私はいつもの姿。
さ、引き続き――
――カリカリ……カリカリ……カリカリカリカリカリカリカリ……
「ふわぁ!」
気づけば手が土で真っ黒。その手で額の汗も拭ったから、顔にも土が着いちゃったかも。でも私はやりました!
地面を3cmほど掘って、そこに畳んだ護符を入れる。そして、土をかける。上から踏む。この作業をやりとげました……!
思わず声を出して喜んでしまう。
すると、後ろから焦った声が聞こえてきて――
「レニ!!」
「ぱぱ」
ぎゅうっと抱きしめられた。
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