◆シンデレラと王子様(似たもの同士?)◆
──その頃、お城にて、二人は?──
「へぇーー貴方も、あの本のファンなんですのね!」
シンデレラは嬉しくなって、目をキラキラさせながら青年と話していた。
おっとりと品良く微笑んでいる彼は、ベネチアンマスクという目の部分だけ隠れる仮面をつけていて、そこがちょっと変わっていたけど、シンデレラはあまり気にならなかった。
とにかく同じ
それもシンデレラが夢中で語るのに、上っ面でなく熱心に耳を傾けてくれる。
勿論、一人で『
けれど、時には、こんな風に好きなことについて思いっきり盛り上がって話したい。
シンデレラも自分が、夢中になりすぎると周りが見えなくなってしまうという自覚が少しはあった。
でも、その世界に入り込んでしまうと、もう止まらないのだ。
あの灰被りのドレスも無くてはならないアイテムのひとつ。悲劇感を盛り上げるには必需品だ。
『
(ああ、でもこんなに楽しいのは久しぶりだわ)
チャーミング王子は王子で、初めはシンデレラの美しさに惹かれていたのだけど、夢中になって好きな本のことを話す彼女や、その表情の豊かさが好もしくなっていた。
「うんうん、あの『白雪姫』で姫が毒リンゴを食べさせられた時には、もうダメか!と手に汗握りました!」
「ですよね!でもだからこそ、その後、小人達が嘆き悲しんでガラスの棺に入れられてから、王子様に見つけられて……」
「そうそう!見つけられてからは、まさに、ドラマチックでしたよね!」
「私、あのその……王子様が姫にキスするシーン、ものすごーくドキドキしましたわ」
シンデレラはポッと顔を赤らめる。
そこは年頃の女の子、恥じらう様子に王子も
「い、いやぁーー でもホントに感動的でしたよね。姫の口から毒リンゴの欠片が零れ出て」
ドギマギしつつ
「「息を吹き返して」」
思わず声が重なった二人は
ニッコリ顔を見合わせる。
元々、チャーミング王子もアウトドア派よりもインドア派だった。
王子という立場上、外向的に振る舞わねばならなかったり、あまり得意とはいえないスポーツに勤しんではいるが、本を読んだり絵を描いたりする方が好きで、いつか自分で同人誌を作りたいという野望も密かに持っていたりする。
実を言うと、シンデレラを見初めたあの時も、お忍びで本屋に出かける途中だった。
(物語の中に出てくる姫は、きっとこんなに美しいに違いない!)
美しい金髪、青い湖のように澄んだ瞳、白い滑らかな肌、花のような唇。
王子は、ひと目で恋に落ちてしまった。
でも今、王子は少し不思議な気がしていた。
シンデレラの外見の美しさ、それはやはり王子を惹き付けるものだったけれど。
話しながらクルクルと変わる生き生きとした表情、楽しそうに語る声の愛らしさ。
何よりも
「実は方向音痴で……」
と、告白した王子に
「まあ!それは大変でしょうけど、大丈夫!こうしましょう!今度、イベントなどに出かけられる時には私も誘ってくださいな。一人より二人なら心強いって言いますでしょ!」
と、馬鹿にすることもなく、悪戯っぽく言ってくれたのだ。
シンデレラもマスクをしていてもわかる端正な顔立ちの、このスラリと背の高い青年の事が気になってきていた。
ここまで話が尽きないのは珍しい。
何しろ二人とも、今までなかなか趣味について語る相手がいなかったので、一気に盛り上がっていた。
お義姉様もオタクなのだけど、シンデレラの卵アレルギー騒動もあったりで親しく話す機会も無かった。それに、この『舞踏会へGOGO!作戦』もあったから尚更だったというわけ。
──さて
そうこうしているうちに、舞踏会会場からチャーミング王子を探している人々の声が聞こえてきた。
王子は一世一代の勇気を振り絞って、シンデレラの手を取って言った。
「シンデレラ、ちょっと私と一緒に舞踏会会場に来てはいただけませんか?」
「えっ?でもまだ、私ドレス試着も着画イラストも描いて貰ってませんもの」
シンデレラも急な申し出に、あっけに取られている。
「大丈夫。試着は後でいくらでもさせて差し上げます。着画イラストも何枚でもお好きなだけ!」
「ホントに?」
一気にパァァっと笑顔になるシンデレラ。
「あの、でもそういえば、まだお名前を聞いていませんでしたわ」
小首を傾げてシンデレラが聞く。
「私、私は……ああ、いや舞踏会会場に着いてからお教えしますよ」
チャーミング王子は、シンデレラの手を取ると舞踏会会場に向けて歩き出した。
──のだけれども、案の定、反対方向に行こうとしていたので、シンデレラは正しい方向に案内することになった。
(でも、こういう少し頼りないところも
とシンデレラは心の中で思っていた。
そうして二人はダンスが始まったらしい舞踏会会場に向かって行ったのだった。
(続)
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