◆お義姉様たち、再度相談をする◆

 王子様とシンデレラを無事に出会わせることに成功したあたし達は、ユーリイさんとブルーノさんと合流する為に舞踏会の受付前まで戻ってきていた。


 周りを見渡して探していると

「こっちこっち!」

 という声と共に二人の姿が!

 さっきまでは動きやすい服装だった二人だけれど、さすがにこの場では浮かないように正装をしている。


ブルーノさん師匠♡素敵……♡」

 ドリゼラったら、目が♡♡になってる。

 まったくぅー

 と思ってると、横にいたユーリイさんと目が合って。ニコッとした顔、すごく優しそうに笑うのよね。

 わ、わ、わっ!何、あたしまでボーッとしてるのよ。違う、違う!

 こんなことしてる場合じゃないんだから。


「どうです?上手くいっていますか?」

 ブルーノさんが心配そうに聞いてきた。

「ええ、実は……」

 あたしは二人にお城に着いてからのことを説明しだした。


「ふむふむ、方向音痴ですか。正直にそんなことを言われるチャーミング王子は、なかなか親しみやすい御方のようですね」

『夢見るお伽噺集』展覧会場へ向かう途中で迷っていた王子様と会ったことを話すと、ブルーノさんが、ちょっとイタズラっぽい表情で言った。


 ユーリイさんも頷きながら笑顔で

「なかなかに好感の持てる方ですね。何より彼女シンデレラの外見もですが、内面のユニークさも理解された上で惹かれてらっしゃるようで、これなら良かった」


「えっ?」

 あたしが思わず言うと


「いえいえ、実は王子は外見に一目惚れされたとお聞きしていたので、それだけで強引にお二人を引き合せて大丈夫なのかな……と老婆心ろうばしんながら、少々心配していました」

 ユーリイさんは、照れくさそうに頭を掻いた。


 へぇ、やっぱりこういう所は大人というか思慮深いなぁと、あたしは思わずマジマジとユーリイさんを見つめてしまった。



 そういえば──

 あたしとドリゼラは、お義父さまやお母様に頼まれたのもあったけど、同時に何処かに、この計画を楽しんでいる様な気持ちもあったと思う。

 どこか他人事なような部分。

 とにかく二人を何とか、くっつけちゃえ!みたいなね。


 勿論、シンデレラの意思や二人の相性もあるけど、せっかく王子様から見初められたんだし、空想の世界で遊ぶのもいいけど(何しろ、あたしもオタクだから気持ちはわかる)

 現実の男性を見るのもいいんじゃないかなって思ったりもしたし。


 幸いにも偶然会った王子様は少し頼りなくはあるけど、なかなかに人間くさい優しい方みたいだった。だから上手くいったらいいなぁって余計に思ったのよ。


 そうだわよね。

 確かにシンデレラは劇的ドラマチックが好きで、こうでもしないと王子様と会おうともしなかっただろうから、ここまでは良かったとしても。


 あたしは今まで戻ってきた道を振り返ってみた。

 王子様とシンデレラ、あれからどうしたかなぁ……。


 本当なら、これから0時を合図にして、最後の仕上げのドレスチェンジ(灰被りのドレスに戻すとか)ガラスの靴を片方残してくるとか、そういう計画だったけど……。


 ── それで本当にいいのかな?


「ねぇ、ドリゼラ、ブルーノさん、ユーリイさん、ちょっと相談なんだけど」

 あたしは、みんなに向かって考えたことを話し出した。


「あの、この計画なんですけど、ここまででおしまいにしませんか?」


 ドリゼラがポカンとしている。

 ブルーノさんは、黙って聞いてくれている。

 そして、ユーリイさんは穏やかな顔で耳を傾けている。


 あたしは続けて言った。

「ここまでで、充分かなって思うんです。二人は出会えたし、今、話をしてる。これから先は二人がどうするか、ですよね」

「お義父さまやお母様は心配なさるかもしれないけど、こればっかりは無理やり結びつけるものでもないし」

「だから、あたし達の役割は、ここまでにしたいんです」


 ポカンとしていたドリゼラがニコッと笑って言った。

「賛成!そうね、恋はするものじゃなくて落ちるものだっていうし!」

 チラリとブルーノさん師匠を見たのは見逃さなかったわよ、ドリゼラ!

 何だかどこかで聞いた台詞だけど、うんうん、でもそうだものね。


 そのブルーノさんもニッコリして同意してくれた。

「私も賛成です。ここからは御本人たち次第で。でも……これは勘ですけど、上手く行きそうな気がしますよ」


 そしてユーリイさん

「僕もそれでいいと思います。後はそうですね、こっそりと見守っていましょう」


「あ、計画とはちょっと違っちゃいましたけど、アルバイト料は、ちゃんとお支払いしますので……」

 慌てて言ったあたしに、ユーリイさんはニコニコしながら

「はい!ちゃーんといただきますから、ご心配なく!予定変更料金は今度、お食事に付き合っていただくということで……どうですか?」

 と言った。


 あたしの心臓は急にドキドキしだして、顔は真っ赤になってしまった。

 そして、あたしは珍しくも、おしとやかな小さな声で

「……はい」

 と答えた。

 どうしよう!恥ずかしくて顔があげられないよ……。



 いつの間にか、舞踏会の華やかな音楽が流れだしてきた。



(続)

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