◆いよいよ舞踏会の夜、果たして?◆

 そして、舞踏会の夜がやってきた。


 お義父さまとお母様は一足先に出かけて、あたしとドリゼラは普段、ほとんど着ることのない余所よそ行きドレスを着込んで、シンデレラに声を掛けるために部屋へと。


 コンコン


「ちょっと、いいかしら?」

 あたしが声をかけると何やらゴソゴソと片付けているような音がして


「え、ええ。何かしら?」

 と、シンデレラが顔を覗かせた。


 案の定、いつもの灰被りのドレスを来ている様子。

 うんうん、ここまでは予定通りね。


「あたし達、今から例の舞踏会に行ってくるから、お留守番をしっかりお願いね」

 あたしがそう言うと、細めに開けたドアの向こうでシンデレラが

「わかりましたわ。楽しんでいらしてね」

 と、ちょっと上の空のような返事。


 うーん、これは例の「夢見るお伽噺集」の新作を読んでるのでは!

 まぁ、その分、気分も盛り上がってるだろうから、後からの作戦も進めやすいだろうし。


 そそくさとドアを閉めるシンデレラを横目で見つつ、あたしとドリゼラは何食わぬ顔をして、屋敷を出てから急いで裏の森へと向かった。


 §


 裏の森ではユーリイさんとブルーノさんが既にスタンバイしていた。


 まずは、予行練習通りに、あたしにユーリイさんが変身魔法をかける。

 すっかり魔法使いのおばあさんらしくなったあたしは音響と煙幕を仕込んだ裾を気にしながら、こつそりとシンデレラの部屋の窓へと近づく。


 煙幕用のチューブは接続式になっていて、シンデレラを裏の森へと誘導してから、こっそりと煙幕の箱と繋ぐことになってる。

 これ予行練習の時も苦労したのよね。

 タイミングと煙の量の調節とか……上手く行きますように。


 シンデレラの部屋の窓の下までやってきたあたしは、ガラスの魔法?の杖で、コツンコツンコツンと窓を叩く。

 ……叩く……叩く……叩く……けど

 反応が……ない。


 何やってるのよー!

 シンデレラってば、気が付かないの?


 あたしは、そーっと窓に近寄って部屋の中を覗いてみる。

 すると……

 シンデレラったら、寝転がってキャーキャーと興奮しつつ「夢見るお伽噺集」を読むのに夢中になってるんだもの。


 まったく、もう!

 どれだけ、そのシリーズのファンなのよ!

 いや、わかるけどね。

 あたしもオタクの端くれとしてね。

 気持ちはわかるんだけれども。


 いやいや、そんなことは言ってられない。

 とにかく、あたしは意を決して窓を強めにガツンガツンと叩いて、シンデレラを呼んだ。

(勿論、魔法使いのおばあさん仕様の声で)

「もしもし、そこの可愛らしい娘さん」


 読書を邪魔されたシンデレラはちょっと唇を尖らせていたけど、窓の外の魔法使いのおばあさんあたしに気がついて、寄ってきた。

「なぁに?あなたは誰?」


「ほっほっほっ!あたしは魔法使いだよ。魔法使いの集会の帰りなんだが、今日はお城で舞踏会がある日だったと思ったがね」

「あんたほどの美しい娘さんが、どうして出かけもせずにここにいるんだい?」


 シンデレラはぷぅーっと頬を膨らませて

「それがねぇ、聞いてよ!今回の舞踏会、私、元々は興味がなかったの。でも『夢見るお伽噺集』シリーズのバックナンバーをズラリと集めてて登場人物の衣装展示もあるって聞いたから、行ってもいいかなーって思ってたのよ」

「なのに、なのに、お義姉様達ったら、意地悪して、お留守番してなさいって。酷いでしょ!」

 シンデレラの青い大きな瞳から真珠のような涙がポロリと落ちる。


 あー確かにこれは王子様も一目惚れするわ。

 いやいや、そんな感心してる場合じゃなくて。

「美しい娘さん、良かったら、このあたしが舞踏会に行けるようにしてあげようか?」


「え?ホントに?でも新しいドレスも靴も用意してないし、馬車は出払ってるし」


「そんなことなら大丈夫。このあたしが魔法で何とかしてあげよう」


「魔法!」

 シンデレラの目がキラキラと輝く。


 ふふふ、ここまでは順調!


「とにかく、それじゃ、部屋から出ておいで」


 シンデレラはいそいそと外へと出てきた。


「魔法ってどんなのなの?私初めて見るわ!」

 興味津々のシンデレラを裏の森へと誘導する。


「そうだね、それじゃ、そこに立っててご覧!目をつぶってね。ドレスチェンジといこうか」

 あたしは側に潜んでいるだろうユーリイさんにウインクで合図する。


 ガラスの魔法の杖をそれらしくシンデレラに向けて振る•*¨*•.¸¸♬︎シャララン•*¨*•.¸¸♬︎澄んだ綺麗な音がして、同時にユーリイさんの魔法!

 そこで煙幕っと、アレ?煙幕は?

 裾に仕込んだチューブを見ると接続式の繋ぎ目が外れてるっ!マズイ!


 慌てちゃダメ!

 幸いシンデレラはワクワクした顔をしたまま目をつぶってる。

 ドリゼラとブルーノさんが繋ぎ目を急いで繋いでOKサインをする。

 ふーっ……。


 変身魔法は無事完了。

 あたしはもう一度、•*¨*•.¸¸♬︎シャララン•*¨*•.¸¸♬︎と音をさせて杖を振ってから

「ほら、目を開けてご覧」

 とシンデレラに言った。


 いい感じに残る煙幕が晴れて……。


「すっごーい!このドレス最高!」

 シンデレラの興奮した声。

 光輝くばかりのシンデレラにあたしも思わず見とれちゃう。


 それじゃ、次は……っと。


 無事に残りの作戦が終わる様にと必死のあたし。そんなあたしに、まさかあんなアクシデントが待っているなんて!

 そんなこと、この時は思ってもみなかったのだった。



 この作戦ホントに大丈夫かなぁ?


(続)

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