◆シンデレラVSお義姉様達(人の気も知らないで)◆

 そう、水面下で予行練習リハーサルをしながら、あたしとドリゼラは、シンデレラに対する態度を不自然に見えない程度に、少しずつ、よそよそしく厳しくしていた。

 勿論、いつもなら入れるフォローも入れない。


 そして、お義父様にもお母様にも(ちょっと、二人ともぎこちなかったけど)これを見て見ぬふりしてもらう(シンデレラに甘いお義父様は声をかけたくてウズウズしてたみたいだけど、我慢してもらった)


 とはいっても、そんなに酷い意地悪とかをする必要は無かったから気は楽だった。


 何しろシンデレラは、ちょっと匂わすだけで勝手に悲劇のヒロインモードに入ってしまうから。

 いつもだと、この誤解を解くのが大変なのだけど、今回はそのまま放っておくだけでいいんだもの。


 ただし、舞踏会への誘導、これを上手くするのはかなり難しかった。


 だって、シンデレラったら、すっかり舞踏会への興味を失っていたから。

「ふーん、舞踏会?ああ、あの堅苦しくてつまんなそうな、お見合いパーティみたいなのでしょ?」

 この調子なんだもの。


「そう?でも舞踏会だけじゃなくて、今回は、かなり華やかな催しを同時開催するそうだけど。あれはなんて言ってたかしらねぇ、ドリゼラ?」


「ええ、お姉様、今話題の『夢見るお伽噺集』シリーズのバックナンバーをズラリと集めて、登場人物の衣装展示もあるそうよ!」「それでね、アタシちょっと豪華な新しいドレス作ってもらっちゃったのよ!」


「あーら、あたしだって、外国産の繊細で美しいレースを手に入れて、人気デザイナーにデザインさせたんですもの。あなたに負けない素敵なドレスになっててよ!」


「まーぁ!お姉様、それ早く見せていただきたいわ」


「ふふふ、当日まで楽しみにしてなさいな!」


 あたしたちは、とにかくシンデレラの気を引くように舞踏会の話を楽しそうに続ける。

 ”変わった”というキーワードにシンデレラが反応したのを、あたしは見逃さなかった。

 それに確かシンデレラは例の『夢見るお伽噺集』の熱心なファンだったはず。


「ふーん……それなら私も……」

 言いかけたシンデレラの口を塞ぐように、あたしは言った。

「シンデレラは興味ないみたいだから、行かないのよね?」

 ドリゼラも続けて言う。

「それにシンデレラ、新しいドレスも無いものねぇ」


「残念ねー」

「本当に残念!」

「まぁ、シンデレラにはお留守番を頼むわ」

「それにしても楽しみねぇ!」

「アクセサリーどれにするの?ドリゼラ?エメラルド?」

「お姉様は?あの大きなピンクダイヤになさるの?」


 ポカーンとしているシンデレラを残して、あたし達は、わざと退場する。

 完璧だわ。意地悪な演技バッチリ!

 あたしもだけどドリゼラの意外な演技力、やるわね。


 角を曲がって、そーっと隠れて見ていると、プルプル震えていたシンデレラが「わーーーん!」と泣きながら自室に駆けていくのが見えた。


「ねぇ……ちょっと、やりすぎちゃった?」

 ドリゼラが心配そうに言う。

「ううん、これくらいの方がいいのよ。このくらい言えば、部屋に戻った時に、あの子、例の見えるところに置いていた、灰被りのドレスを着るでしょう?」


 そう、まずこれが第1段階。

 シンデレラの悲劇感を盛り上げるのがポイント。程よいスパイスは、その劇的ビフォーアフターをより効果的にするしね。


 今までのパターンだと、に入ったシンデレラは必ず、を着るはず。


 後は、いよいよ舞踏会の夜の作戦決行ね。

 予行練習リハーサルの成果を今こそ!


 §


 ◆閑話2◆シンデレラはご機嫌ななめ◆◇


 ──シンデレラの部屋にて──


(シンデレラ、灰被りのドレスを手に取って着替えつつ)

「何よ何よ!酷いわ!お義姉様達ったら!

 ちょっと気を許してたら、あんな意地悪言っちゃって」

「いいもん!どうせ舞踏会なんて、つまんないに決まってるもん!」


「新しく買った「(新)夢見るお伽噺集」の続きを読んで過ごした方が、よーっぽと楽しいんだから!」

「あーあ、魔法使いのおばあさんってどこにいるのかなぁー」

「魔法ってどんなのだろう。見てみたいなぁ」

「空とか飛んじゃうんだよね?ほうきとかで?スリルありそう!」


 シンデレラは灰被りのドレスの裾をちょっと摘んでみた。

「あれ?ここって、こんな風に破れてたっけ?ほつれの場所も増えてる気がするけど……」


 一応、カッコイイ破れ方とかバランスあるほつれ方は意識しているのだ。


「んーまぁ、古い布を使ってる分、こういうこともあるかもね。ナチュラル感も大事だし、自然な綻びは必要だし、まっ、いっか!」


 結構、そういう細かいことは気にしない、大らかな?ところもあるシンデレラなのだ。


 そして、寝転がりクッションを抱きしめながら、キャーキャーと興奮しつつ『夢見るお伽噺集』を読むという、いつもの至福の時間が、こうして過ぎていったのであった。


(続)

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