◆予行練習、みんなアレコレ迷走中◆

 予行練習の日。朝から落ち着かなかったあたし達だったけど、何とか夜には裏の森へと、こっそりと集合した。


 まずはドレスチェンジ。

 とりあえず、シンデレラの代役はドリゼラがすることになった。


 そうそう、肝心の魔法使いだけど、実はこれは、あたしが変装することに。

 さすがにバレちゃうんじゃない?と心配したけど、そこは変身魔法をかけて、それらしいおばあさん姿にしてくれるから大丈夫らしい。


 そして、この魔法使いの衣装には秘密があった。音響と煙幕、この2つを衣装に仕込むことになったのだ。


 これはブルーノさんの発案で、前もって華々しい音を魔法で出して、レエコォダーという小さな四角の機械に記録しておく。この機械はボタンを押して一度記録した音を、好きな時にボタンを押せば、何度でも再生できるという優れものだ。


 煙幕の方はもっと単純で衣装のスカートの裾の見えない部分にチューブを仕込んでおく。

 辺りは暗いから走り回ったりしない限りわからないだろうとのこと。

 少し離れた場所に待機しているブルーノさん達があたしの合図で、これも魔法で作って箱に溜めていた煙幕をチューブに解放する。


「かなりタイミングが大事だから、それぞれの持ち場を確認してスムーズにいくようにしよう!」

 ブルーノさんは、なかなかリーダー気質みたいで、上手くみんなをまとめて進行してくれる。


 そうして予行練習リハーサルが始まった。


 ドリゼラを代役にしたドレスチェンジの魔法は上手くいった。

 素早さ満点。キラキラ満点。

 ユーリイさんも自信をつけたみたい。

 満足そうだ。


 次にはこれに、あたし(魔法使いのおばあさん)が加わって音響と煙幕。

 変身魔法で、ユーリイさんが魔法使いの衣装を着たあたしを、幾分ふっくらした優しげなおばあさんに変身させてくれた。


 だけど、ここからがなかなか息が合わない。


 音響は夢のある•*¨*•.¸¸♬︎シャララン•*¨*•.¸¸♬︎みたいな澄んだ綺麗な感じ。

 これを魔法の杖(これもガラスの靴と同じくブルーノさんがガラスで作った繊細な作りのもの)を振るタイミングに合わせて流す。

 のだけれども、片手で杖を振って、もう片方の手でこっそりとボタンを押すという別の動きが結構難しい。

 それに煙幕の量と、これまたタイミング。


「ケホケホケホ……これじゃ多すぎ!辺りが見えないよ」

「え?今、煙出てたの?どこか途中で漏れてない?」

「いや、だから今だとタイミング遅すぎでしょ」

「早っ!それも、これじゃしょぼすぎるよー」


 ドレスチェンジの魔法とはまた違って、人物変化魔法(今回は魔法使いのおばあさんに)の自動解除までの時間は60分間。

 さすがにシンデレラに説明してドレスチェンジさせて、舞踏会に送り出すまでに、そこまでの時間はかからないだろうけど、アクシデントも頭に入れてはおかなきゃね。


 馬車と御者それから従者ね。

 馬車はガラスで作ったミニチュアを屋敷裏のカボチャ畑のカボチャの中に入れておいて、拡大魔法で実物大にする。

 心配したけど、このガラスの馬車、強度もしっかりしてて、それもちゃんと走るのね。


「走行テスト済みだからね!」

 とブルーノさんとドリゼラが顔を見合わせてニッコリしている。


 それから御者と従者、こちらはユーリイさんが、いつも変身魔法の練習に協力願っているペットのハツカネズミに。

 灰色のコが「ビビ」、白いコは「トト」

 どちらもオスらしい。

 試しに変身魔法をかけてもらったけど、二匹とも慣れているせいか大人しい。

 なかなかに様になった御者ぶりだ。


 ユーリイさん曰く、変身魔法というのは集中力と想像力が重要なのだそうだ。


 大体、呪文というのも基本的な言葉(変身魔法なら「メタモフォーズ!」)だけで、上級魔法使いになると、指先や杖などに魔法を込めて対象物を指すだけで呪文すら唱えないらしい。


「魔法って意外と地味なんですねぇ」

 と、あたしが思わず言ったら、

 ユーリイさんは真面目な顔をして、

「そんなもんです」

 と答えた。


 予行練習リハーサルをやったのは正解だったと思う。

 何しろユーリイさんの魔法とあたし達とのタイミングを合わせるのが大変で。

 タイムを測りながら、何とか息が合うようになるまでには、なかなか時間がかかった。

 とにかくギリギリまでと続けられた練習は、まるでスポ根モノのトレーニングみたいになったのだった。トホホ。


 それでも、みんなの努力の甲斐あって、何とかスムーズにいくようになった時には、舞踏会は翌日の夜に迫っていた。


 そして、この予行練習リハーサルをこなしながら、あたしとドリゼラは密かに「シンデレラを舞踏会へ誘導作戦」を行っていたのだった。


 ふぅ……忙しすぎじゃない?これ。


 まぁ、その代わりに、お義父様が陰であたしとドリゼラに、何かの足しにして欲しいと、こっそりとお小遣いをくれたのは役得ということで。


 お母様が後ろから無言のガッツポーズでげきを飛ばしていたことも、ここに記しておこう。


 ハイハイ、頑張りますよー!


 ここまで来たら、なんとしても成功させたいものね。


(続)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る