◆魔法使いとお義姉様、意気投合する◆

舞踏会まで、残すところあと6日。


今日はドリゼラの師匠のガラス工房で従兄弟の魔法使いさんとの面接の日だ。


「こんにちは!」

挨拶をしたら、先に来て待っていたドリゼラが出てきた。


「お姉様、こっちこっち!」

案内されて奥の部屋に入ると、短髪長身で、がっしりした、いかにも職人気質らしい生真面目な顔をした黒髪の男性が椅子から立ち上がった。


「初めまして、ようこそ工房へ。私がこの工房の主であるブルーノです」


あたしも、お辞儀をして挨拶を返す。

「初めまして、いつも妹がお世話になっております。そのうえ、この度はまた色々とお手数をお掛けしまして……」


ブルーノさんは、その横に立っている、頭一つ小柄で、丸メガネをかけた愛嬌のある顔立ちの、天然パーマの赤毛少年を紹介した。

「彼が私の従兄弟である魔法使い見習いのユーリイといいます」


少年が一歩前に出て自己紹介する。

「ユーリイです。従兄弟からも紹介がありましたが、正式な魔法使いになる為に日々、研鑽けんさんを積んでおります」


へぇーこの子、まだ16、17歳?くらいかなぁ。その割にしっかりしてるのねぇ。


そんなことを思っていると、ちょっと可笑しそうな顔をしたブルーノさんが、こう補足説明した。

「その、ユーリイはこの見た目もありまして、歳よりも若く頼りなく見られがちなのですが、これでも私と同じ25歳なのですよ」


横ではユーリイさんが憮然ぶぜんとした顔をしている。


ドリゼラは知っていたのだろう、うんうんと頷いている。


あたしは思わずマジマジとユーリイさんを見つめてしまった。

ふぅーん、そうなのね、でも大切なのは見た目よりもやる気!


あたしは年長者に対する敬意を込めつつ、ユーリイさんに話しかけた。

「初めまして。アナスタシアと申します。こちらのドリゼラの姉です。この度は、ある計画に協力して頂く魔法使いの方を探しておりましたところ、ドリゼラの縁で工房のブルーノさんから従兄弟の貴方様のことをお聞きしたというわけですの」


ユーリイさんはちょっとおや?という顔をした。

童顔のせいで軽くあしらわれるようなことも多かったらしい。

心なしか表情が柔らかくなった気がする。


「まぁ、まずはこちらでお掛けになって」

ブルーノさんが、あたし達に声をかけてくれたので、奥のテーブルに皆で移動する。


席に座ると、ブルーノさんに目配せしたドリゼラが、いそいそとお茶の支度に立ち上がる。


まぁ、ドリゼラったら、しっかり自分の恋の方も上手くやってるのねぇ。

うらや……いやいや、あのまだまだ子供だと思っていた妹が……大人になったものよね。


ドリゼラが皆の分の紅茶を、それぞれの前に置いてから着席したところで、本格的な面接を始めさせてもらうことにする。


「ユーリイさん、ある程度のお話はブルーノさんからお聞きになったと思うんですが」


あたしが話し出すとユーリイさんは真面目な顔をして頷いた。


「それでどうでしょう。今回の計画に魔法使いとしてお力を貸して頂けるでしょうか?」


もう日にちも迫っているし、ある程度の事情も知っているなら、ゴチャゴチャと前置きをするより、話を進めた方が手っ取り早いと、あたしはズバリと要件を切り出した。


ユーリイさんも、外見に似合わず現実主義者みたいで落ちついて返事をする。


「そうですね。まだ見習いではありますが、僕で宜しければ。とはいえ、詳しい計画はまだ教えて頂いていませんので、まずは計画書があれば、それをお見せいただけますか?

あ、勿論、お受けするしないに関わらず内容の他言は致しませんので、ご安心を」


ほぉー!童顔で、おっとりしているようにも見えるけど、そうよね、この人、大人なんだよなぁ。

ブルーノさんも誠実そうな人だし(何しろ、あの慎重に人を見極めるドリゼラが好きになったんだもんね)その人の従兄弟というので、ある程度、信頼できるとは思っていたけど、実際に話してみると、これはなかなか頼りになりそう。


あたしは、早速、【計画書】をブルーノさんとユーリイさんの前に広げて見せた。


§


「ふむふむ、これはなかなか面白そうですね」

じっくりと計画書を見ていたユーリイさんが呟く。

「あ、いえ、これは失礼。でも確かにこの計画だと魔法の力はあった方が良さそうだ」


「そうなんです!」

あたしは勢い込んでブンブンと頷く。


「それじゃ、この計画に?」

ユーリイさんの目を見て尋ねると、力強く

「はい、是非参加させてください」

と答えてくれた。


「それにしても、義理の妹さんの為にここまで……あなたは優しく方なんですね」

丸眼鏡の奥の瞳が穏やかにこちらを見ている。


あ、ユーリイさんの瞳は深い翡翠ひすい色なんだ。

今更ながらに気がついて、あたしはちょっとドキドキしている自分に気がつく。


いや、別にそんなね、ユーリイさんは良い人みたいだけど、今はシンデレラの事だし、あたしのタイプは、こう、影のあるような大人っぽいひとだし……。


気を取り直して、計画書に目をやったあたしをユーリイさんがまだ見ていて。


何だか慌ててしまったあたしは、危うく紅茶をひっくり返しそうになって大慌てしてしまったのだった。


(続)

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